作られた命 第2回
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ふぅ…
パソコンの中に写し出された情報を一段落させ
そっと溜め息をつく。
ふと時計を見ればもう夜の3時を越えている。
いや、この研究所には夜や昼の概念はない。
眠くなったら寝て、腹がすけば食べる。
後は脇目もふらず研究。
それがここの規則だ。
時計とは何時間くらい研究したかをしる目安に過ぎない。
いつからこんな生活になってしまったのだろう?

思い起こせば、俺の主観で五年ほどまえだろうか。
世界は深刻なエネルギー不足に悩まされていた。
化石燃料は使い果たし、現在頼りにしている原子力も有限。

このままではまずい。
各先進国の首脳会談が何度も行われ、たどり着いた答えは、
天才を作り出すこと。
世界が欲したのは、新たなエネルギー源を見つけだし、
工業化、実用化することの出来る天才。
そのための研究機関がここ。
世界に名だたる学者の遺伝子を集め、
それを組み替え、操作し、新たな命を生み出す研究所だ。
俺はそこで働いている。
正直、気持ちのいい仕事じゃない。
無理矢理命を作り出し、世界に従うように育てるのだから。
利便さに慣れきった人類は不便に戻ることを拒否し…
愚行に走った。

「郷護。調子はどう?」
女性の声に名前を呼ばれた。
彼女の名前は鶴見 涼子。
俺の恩人であり、高校時代からの付き合いだ。
こんな仕事場まで同じになるとは夢にも思わなかった。
まぁこのような監禁に近い状況で気の知れた友人は
非常にありがたい。
しかし今は話をする気分ではないので、適当に返事をした。
「多少眠い。」
「郷護のことじゃないわよ。私が聞いているのは
Tのこと。責任者、郷護なんでしょ。」
責任者か…
Tと呼ばれる少女のことを考えると心が痛い。
確かに彼女は俺の意見が元で生まれた。

あの意見は俺のこの研究所で行った最初で最後の
学者らしい仕事だろう。
あの頃はとにかくここから抜け出したかった。
やりたくもない非人道的な研究を延々とやらさるのは
苦痛でしかない。
だから俺はあの意見書を作った。
とっとと世界が臨むような存在を作り上げ、
この研究所から出して欲しい。
その一心で俺は俺のなかで完璧なものを作った。
しかし、生まれてきた少女を見た途端俺は後悔した。
俺は自分が助かる為に、
あれほど嫌だった監禁のような生活。
それより遥かに辛い生涯を、
何も知らない少女に押し付けてしまった。

深い自己嫌悪に陥った俺は、
研究になるべく関わらないようにした。
遺伝子情報の処理とデータの管理を主として働いた。
だが、そんな単純作業を続ける傍ら、
俺はなんとかしてあの少女を救えないかを考えた。
人並みではなくとも、
せめて少しでも今よりまともな生活を少女に与えたい。
高校の時に俺が涼子に救われたように、
人とのふれあい、生きる喜びを与えたい。
自分で作り出しておいて身勝手な考えだが、
俺はそれ以上の償いを見つけられなかった。
まず、他の研究員に俺の思惑がばれないように、
あの少女と直接会おうと思う。


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