作られた命 第3回
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「…私が聞いているのは
Tのこと。責任者、郷護なんでしょ。」
…やはり返事がこない。だんだん読めてきた。
Tのことになると必ず郷護は困った顔をする。
上手く表現出来ないが泣き出すのを我慢するような顔。
郷護はよく不安な時、こんな顔になる。
そんな時、悩みの種を見抜き、親身になって話を聞いて郷護の不安を
取り除いてあげるのが私の役目だ。私だけの役目。
というより私にしか出来ない。
郷護はとても優秀だ。
私が高校三年の頃、私は郷護と同級生になった。
日本に飛び級制が出来たのは知っていたが、私は心底驚いた。

自慢じゃ無いが私が通っていた高校は日本では有名な進学校だ。
そこに小学校の中学年程度の男の子がやってきたのだから。
しかもやってきた理由が大学受験の対策をする為。
郷護の専門分野ではとっくに超高校級なのだが英語は少し苦手らしい。
憎たらしいガキだと思うのが一般高校生だろう。
しかし私は魅せられてしまった。あの困った顔に。
高校にも給食があると思っていた郷護の昼休みの困りっぷり、
今でも眼に焼き付いている。
私がこの子を一生面倒みなくてはいけない。
まるで神の啓示のようにその言葉は私の生きるベクトルになった。

だれもかれも皆、郷護の表面の優秀さしか見ていない。
郷護の内の弱さを見て、守れるのは私だけだ。
そろそろ郷護も気付いてきているだろう。
郷護には私が必要なのだと。
私がいなくては郷護は生きていけないのだと。
だからとっととプロポーズをしてきてくれないと困るが
私の予想ではTが完成し、この研究所からでる頃くらいかな
とは思っている。
…いけない。今は思い出と未来予想をしている場合じゃない。
郷護が困っているのだから助けてあげなくては。
ふふ…私のかわいい郷護。
お姉ちゃんが今助けにいくから…安心して、ね。


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