作られた命 第1回
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ピピッ…ピピッ…
食事の時間を知らせる音が響く。
天井が少し開き、チューブ付きの白いボトルが落ちてくる。
食事といっても中の液体を飲むだけのもの。
それでも食欲は満たされるので気にはならない。

私はこの建物から出たことがない。
物心ついた頃には私は既にここにいた。
白い壁、白い床、白い棚、白いベッド、白い布団、白、白、白。
私が着ている物も白い。
昔は違う色をしていた髪もいつの間にか全て白くなっていた。
私の肌もそうだ、時が経つにつれて白くなっていく。
まるで私がこの空間に溶けていくように。

「T、状態を報告しろ」
どこからともなくいつもの音が聞こえてくる。
特に抗う必要もないので私は素直に返事をする。
「身体機能異常無し、精神状態安定、室内空間に変化はありません。
以上で報告は終了します。」
「了解した。」
音が途絶えた。
報告を終えた後はただひたすら本を読む。
他に何もすることがないから。
…言語をいつ習得したのかは覚えていない。
気が付いた時には部屋に響く音の意味が理解できたし、
寝て起きる度に白い棚に取り替えられている本を読むことが出来た。

本、と一口に言ってもこの空間には様々な本が送られてくる。
歴史書のようなもの、事典のようなもの、論文のようなもの。
幅広いジャンルの本を読み、私は色々な知識を得た。
その中で、最近私の頭から離れない疑問が生まれた。
生物というのは子孫を残すことが最大の目的だという。
そして子孫を残す為には同種の別固体が必要不可欠と。
私はアメーバやウイルスの類とは違う。それは明らかだ。
だから私が生物であるならば、私と同種の別固体が存在するはず。
だがそのような存在と私は接触したことがない。

このまま生きてもおそらく私は私のような存在と
出会うことはないだろう。
だから私は子孫を残せない。
生物としての目的を持ち合わせていないのだ。
ならば私は何者なのだろうか。
ある本にはヒトとサルについての考察があったが、
彼等は似てはいるが異種なのだ。
では私も一見ヒトに似てはいるが異種だとしたら?
私は生物ではないのかもしれない。
本を読むという単純作業を続ける機械なのだろうか。
考えても考えても答えが出ない。
だから私は本を読む。
私の存在を確証してくれる知識を探す為に。


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