スクエア☆アタック 第2回
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友紀に窘められ、大智を起こすために渋々二階に上がっていった優那だったが、
階段を一歩上がるごとに、渋い顔は段々と頬が緩み、二階に着いた時にはデレデレ顔になっていた。

まあ料理当番は駄目だったけど、この大智を起こす当番は特別だわ。
協定上、普通じゃ二階に上がれないけど、この時だけは堂々と行けるし、
それに何より大智の部屋に入れて寝顔を堪能できるから……ハアハア。

一、 特別の理由なく、二階に上がることを禁じる。
但し、緊急の要件や大智もしくは、他二名の許可があればこの限りではない。

大智の寝ている姿を想像するだけで顔は赤くなり、息は荒くなり、心臓の鼓動は
激しくなる一方だった。

早く、早く会いたい。

ドアの前に立つと、深く深呼吸し優しくノックした。

「大智〜〜朝よ〜〜起きなさ〜い。」

しかしドアの向こうで起きた気配はしなかったので

「も〜しょ〜がないな〜、直接起こすか〜。」

全然しょうがなくない顔をして、いやむしろ笑顔で優那は大智の部屋に入った。
大智の部屋は六畳部屋で、部屋の中央に布団を敷いて寝ていた。ゆっくり近付くと、
足に何か当たった。よく見ると

「これは……Tシャツ?」

たぶん昨日着ていたのを脱いで、投げっぱなしにしたのだろう。

「あらあら、大智ったらだらしないわね〜。お姉ちゃんが片付けてあげる。」

片付けると言いながら、なぜかTシャツを懐に仕舞い込むと、布団で安らかに寝ている
大智に近付き、耳元でそっと囁いた。

「大智?早く起きなさい。でないとお姉ちゃん悪戯しちゃうよ?」
「ぐ〜ぐ〜」

どうやら全く起きる気配はないようだ。少し思案した優那はいい案が閃いた。

「そういえば「眠れる森のなんとか」って絵本では寝ている王子様に王女がディープキスしたら
目覚めて、王子様が一目ぼれで結婚しちゃう話だったわね。そして優那の王子様は……」

優那は大智を見ると、やっぱり熟睡していた。

「……うん!しょうがないわね。起こすためだもの。本当はイヤだけど、
仕方ないからキッスで起こすか♪」

あーだこーだ屁理屈を言いながら、嫌な顔どころか嬉しそうに
無防備の大智の唇を奪おうとしていた。

(うふふ……ファーストキスは優那がもらったわ!)

しかし、悪いことは出来ないもので、あと数センチの所で、一階から荒々しく
階段を駆け上がる音と叫び声が聞こえて来た!

「優那お姉ちゃん!!一分経ったよ!!何やってるの!!」
「お姉ちゃん!!また大智に変なことしてるんでしょ!!」

一、 一分以内に大智を起こすこと。
事情によりそれ以上掛かる場合は他二人を呼び、協議すること。

「ちっ、もう時間か。少しくらいのオーバーで目くじら立てて……」

友紀と千晴が大智の部屋に乱入した時、優那は大智の布団を揺すっていた

「大智〜。朝だよ〜。起きて〜。あっ起きた?朝だよ」

一生懸命起こそうとしている優那を見て、二人は目を合わせた

((怪しい……))

とはいえ大智も起きたし、パッと見では何も怪しい所は無いので

「優那お姉ちゃん!一分過ぎるようだったら私たちを呼んでよ!!
でないと無用の誤解を受けることになるよ!!」
「そうよ!唯でさえ朝から我侭全開だったんだから、「何かしている」って
思われても仕方ないよ!!」

さすがに二人に責められては分が悪いので、「ごめんなさい」と素直に謝った。

「?何だか素直ね。まあいいわ。大智お兄ちゃんも起きたし朝食にしましょ。」

大智が着替えるので皆が部屋から出ようとした時、友紀は優那の体の変化を見逃さなかった。

「優那お姉ちゃん……いつからそんなにお腹大きくなったの?」

見ると優那のお腹は何だか不自然に膨らんでいた。千晴も見て

「あれ?本当だ……変ね」
「二人とも何言ってるのよ。元々これぐらいあったわよ。」

二人の疑惑の指摘に優那は必死に言い訳していた。しかし友紀は

「もしかして、大智お兄ちゃんの私物を隠してない?」

友紀の確信を突いた指摘に優那はあわてて

「な、な、何言ってんのよ!優那が大智のTシャツを取るわけないでしょ!」

友紀は深く溜息をついた
優那お姉ちゃん……バレバレだよ。全く…どうしてそうすぐばれる嘘をつくんだか……
さて、腹に隠してる物を無理に引っ張りだそうとすると乱闘になるだろうし、
かといって見逃すのはもってのほかだし……うん、ちょっと引っ掛けるか。

友紀は大智に近づいて

「大智お兄ちゃん、ちょっとこのズボン借りるね。」
「あ、ああ。」

大智からズボンを借りた友紀は

「優那お姉ちゃん、これあげる。」

優那めがけて大智のズボンを投げた。

「あ!大智のズボンだ〜♪」

両手で優那はズボンをつかんだ。するとお腹から何かが落ちた。素早く友紀がそれを取ると

「これ……大智お兄ちゃんのTシャツ?」
「あ!本当だ!お〜ね〜え〜ちゃ〜ん!!!」

「え?……あ!いや、これは……えへへ」
「笑って誤魔化そうとしても駄目よ!もう今日という今日は……」
「千晴お姉ちゃん!落ち着いて。ここは大智お兄ちゃんの部屋だよ」

友紀の言わんとしていることが分かり、千晴は黙ってしまった。

「千晴お姉ちゃんの言いたいことは分かるから。まずは大智お兄ちゃんに着替えてもらって、
朝御飯にしよ。その後優那お姉ちゃんにはちょ〜っとお灸を据えないと」
「じゃあ、優那は大智の着替えのお手伝いを……、ん?友紀どうしたの?さっさと
下に行って……痛い痛い!!髪の毛引っ張んないでよ〜!!あ〜ん大智〜!助けて………」

友紀に髪の毛を鷲掴みにされて、引きずられていく優那を大智は
ただ黙って見ているしかなかった。

着替えも終わり、一階の茶の間に行くと既に朝食の用意は出来ていた。

「あ、大智お兄ちゃん来たね。じゃ、食べましょ。」
大智はいつもの指定席のテーブル中央に座り、その両隣には友紀と千晴が座った。

「あれ?たしか今日は千晴と優那お姉ちゃんが俺の隣じゃなかったっけ」

大智が壁に掛かっているスケジュール表を見ると

「月曜日 優那 大智 千晴」

となっていた。しかし、今大智の隣は友紀と千晴が座り、優那はというと……

「うっ……ううっ……お姉ちゃんなのに……」

髪の毛は乱れ、目を腫らし、唇を尖らせながらぶつぶつ文句を言って
大智の正面に座っていた。

一、通学、食事の際、大智の両隣は三人が協議をしてスケジュールを決め、
それに従うこと。但し、大智もしくは他二人の要望があれば変えてもよい。

「大智お兄ちゃ〜ん、えへへ」
「あ!大智!トマトも食べなきゃダメでしょ!口開けなさい、私が食べさせてあげる」

友紀と千晴は大智との朝食を楽しんでいた。ただ優那は……

何よ……ちょっとTシャツ持って帰ろうとしただけで髪の毛鷲掴みされて
引きずられるなんて……髪の毛全部抜けるかと思ったわ……いたた

ぶつぶつ文句を言いながら、パンを齧っていた。しかし、神は優那を見捨てなかった。

「あ、優那お姉ちゃん、そこのリンゴ取って」

大智が優那の近くに在ったリンゴの皿を取って欲しいと言ってきた。優那は笑顔で

「ん?リンゴ?……!お姉ちゃんが食べさせてあげる♪あ〜ん」

優那はリンゴを先割れスプーンで刺して、大智の口へ運んだ。

「おいしい?じゃあもう一個。あ〜〜ん」

大智と優那のやり取りを友紀と千晴は目で会話していた。

(ちょっと!アレいいの?)
(残念だけど、優那お姉ちゃんは何も違反していないわ)
(くっ……)

千晴はギリギリと歯軋りをして

お姉ちゃん、全然反省の様子はないわね!……まあいいわ。これでペナルティーが
終わったと思わないでよ!!……ふふっ朝の通学が楽しみだわ。


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