姉妹日記 『もう一つの姉妹の形』 第8話C
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「秋乃さん・・・・どうしてここに?」
「恋人なんですから、家族が居ない間は私が面倒みないと・・・・そうでしょ?」
 どうして夏姉ちゃんと冬香がいないのを知っているのかそんなことどうでもよかった
「秋乃さん、話があるんだ・・・・ちょっとこっちにきてくれないかな?」
 僕がそう言うと彼女はエプロンを脱ぎ火を消してこちらにとことことやって来た
 僕の前までやって来ると秋乃さんは、はにかんだ
 昔の僕なら、この笑顔に一発でノックアウトされていただろう
 でも、今は・・・・彼女が・・・・信じられない・・・・
「前にも言ったよね?僕・・・・キミのこと信じられないって・・・・・」
「あれは、でも・・・・あんな些細なことで・・・・」
「キミにとっては些細なことかもしれない・・・・でも」
 好きな子が、双子の姉妹と入れ替わって僕と接していた
 その理由は解らない、でも僕に嘘を付いたのは事実
 僕は南条秋乃が好きだった
 けれど、僕の好きな南条秋乃はどっちの南条秋乃なのか解らない
「謝ってるじゃないですか・・・・だから、そろそろ許してください・・・・
 それにほら、私のこと好きだっていってくれたじゃないですか」
「なら、教えてよ!僕の好きだった南条秋乃はどちらの南条秋乃なの!キミ?・・・・それとも、
 双子の妹さん?」
 彼女にこの答えが解るわけが無い、だって僕の想いだから
 僕にしかわからないことだから・・・・
「私です♪」
 僕は驚いていつの間にか下げていた顔を思い切り上げ彼女を見た
「どうして、断言できるの・・・・」
「だって、私と涼さんは赤い糸で結ばれているから・・・・」
 頬を赤に染め身体をくねらせる秋乃さん
 こんな可愛いらしい姿に男ならドキリとするはずなのだが・・・・
 僕には恐怖しか、なかった
 完璧だ・・・・完璧な・・・・・
「こ、これ以上・・・・僕に付きまとわないで!」

 怖い、その可愛らしい顔が・・・・
 怖い、その愛らしい瞳が・・・・
 そして、思い出す・・・・彼女の記憶
 初めて逢った日・・・・
 メガネを掛けていて髪はおさげ、クラスでは目立たない子だった
 今は覚えていないほど些細なきっかけで話す様になって気さくで優しい子なんだ気づいた
 容姿の相談をされたとき初めて、彼女が魅力的な容姿をしていると気づいた
 彼女がクラスの女子のリーダー格にイジメに遭い泣いている彼女を見て僕が割ってはいり
 イジメをやめさせると彼女はこれでもかって位にお礼を言って涙した
 涙しながらも笑顔を作る彼女を見て気づいた
 僕は彼女を護りたい、彼女が好きなんだと・・・・・
 高校に入って、すさまじく可愛らしくなった彼女
 あまりの人気ぶりに少し寂しくなった
 けれども、会話してみて変わっていない彼女を見て安堵した
 年明け、告白されて正直嬉しかった・・・・
 告白も受ける気でいた・・・・彼女が
 好きだったから・・・・・
 その後、自分から告白しようと思った時に夏姉ちゃんから『あの事』を聞くまで僕は・・・・
 彼女が好きだった・・・・
 あの出来事のあとの彼女は・・・・僕にとって恐怖でしかなかった
 何度も送られてくるメール・・・・毎日何十回も掛かってくる電話
 バレンタインの日、ふと振り返ると居たにこやかな彼女・・・・
 家に帰ってふとカバンを見るといつの間にか入っていた、チョコを見て驚愕した
 怖かった、どうしょうもなく・・・・彼女が・・・・
 だから、ここで決着を付ける・・・・
 ここではっかりと拒絶しておかないと泥沼にはまり込んでしまう
「キミのことが・・・・信じられない!怖いんだ!」
 だから、もう僕のことはほっておいてくれ・・・・
「・・・・・・・」
 彼女は無言で俯いた
 腕を少しぶらぶらとさせゆっくりと近い距離をさらに近づけてくる
「涼さん・・・・」
「今まではゆっくりと治療しようと思っていましたけど・・・・これは早急な治療が必要ですね」
 ゆっくりと顔が上がった
 その瞳から伝う涙の意味するものが・・・・僕にはわからなかった
「我慢してくださいね・・・・涼さん・・・・・私も悲しいんですよ、辛いんですよ?」
 か細い指がゆっくりと僕のほうに向かってくる
「く、来るな!!!!」
 僕は踵を返し、急いでその場から逃げ出した

 

 とりあえず自分の部屋の飛び込みドアを閉じ鍵を掛ける
 助けを、夏姉ちゃん・・・・冬香・・・・・
 ケータイを探してポケットをごそごそといじくる
 ない・・・・
 辺りを見回してケータイを探す、充電器のみで本体が無い・・・・
 僕が机の上を探そうとしたときだった
     
      ドンドンドン!!!
      ドンドンドン!!!
      ドンドンドン!!!
 
 みしみしと音を立てドアが激しく叩かれた・・・・
「ひ・・・・・」
「涼さ〜ん、開けてくださ〜い!」
 秋乃・・・・さん・・・・・もう・・・・・勘弁してよ・・・・
「来るな・・・・来るな!!!!」
「涼さんは病気なんです・・・・私が治療してあげます・・・・だから早く出てきてくださいよ〜」
 なにが病気だ、病気なのはどう考えてもキミじゃないか・・・・・
 僕はドアから目を離さずに手探りで机をまさぐった
 ない、ない・・・・どこだよ・・・・
「ケータイなら、私が拾っておきましたよ・・・・」
 僕の考えを見透かした秋乃さんがそう言った・・・・
 もう逃げ場はなかった・・・・・
 
 いったい何時間僕は恐怖に堪えていたのだろうか?
 気づいた頃にはもう時間は深夜だった
 僕は恐る恐るドアを開き廊下の様子を伺った
 誰もいない・・・・
 僕は辺りに細心の注意をはらいながら廊下に出ると音を立てないように一階に降りて
 電話を手に取った・・・・
〈ふわぁ、どうしたの・・・・お兄ちゃん・・・・・〉
「こんな深夜にごめん・・・・実は・・・・」
 ガチャ・・・・・・
 小さな音と共に電話が切れた
「はぁ・・・・はぁ・・・・・はぁ」
 息が荒くなる、手が震える
 その震える手を冷たい手がそっと触れた
「捕まえた・・・・ふふ♪」
 ドアを叩きすぎて痛々しく腫れ血が流れるその指一本一本が妖しく動き
 恐怖で動けないでいる僕を静かに押し倒した・・・・
 丁寧な動作で僕の服を脱がし、彼女はこれでもかというほど笑んだ
「さぁ、治療を始めましょうか・・・・涼さん♪」
 僕の見た秋乃さんの笑顔の中で一番輝いていたのはこの笑顔だった

 

           原案協力
          ID:qHrtV38X様
          ID:AlrB1mWC様
          ID:HC9HFMGk様
          ID:jyrwvq89様
          ID:3gLpz3fG様


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