さよならを言えたなら 第7話
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「ちーっす。」
結局葵はついてきた。スクーターと同じスピードで飛んでるのを見ると、
なんだかリアルスーパーマンを見てるみたいだった。……うらやましいだなんて死んでも葵には言えねぇな。
調子乗りやがるから。着替えようとすると……視線が気になる。
「おい、葵。」
「!…え、え!?ええ!?」
声掛けられただけでなにそんなに慌ててやがる。
「……出てけ。」
「…え?あの、や、やっぱり私……邪魔者なんじゃ……ご、ごめんなさい!
なにかしたんなら本当に謝りますから。」
「着替えるから出てけつってんだよ!!!」
「あ、はいい〜〜」
ようやくどやされてロッカールームからでていく。隣りのロッカーを見るともうセレナはいるみたいだ。
着替え終わり、ロッカールームを出ようとノブに手を掛けると、部屋の外から声が聞こえる。
セレナと葵だ。やっぱりセレナも干渉できんだな。
「…ねえ、葵ちゃん?……昨日はハルの部屋に泊まったの?」
「はい、そうさせてもらいました。」
「そう……ね、ねえ。よかったら今日から私の部屋に泊まらない?私なら構わないから。」

「えっと…あの……い、いえ、大丈夫ですよ。セレナさんに迷惑かけたくないですし。」
俺なら良いのかよ、と心でつっこむ。散々部屋を荒らしておいて、本当にいい迷惑だ。
「ううん。本当に大丈夫だから。それより、ハルに迷惑かかっちゃうじゃない。
ほらー…ハルって、すぐ怒るから、居辛くない?」
……別に見境なく怒ってるつもりはないが……基本的には葵の奴が怒らせてるんだからな。
「……それでもいいんですよ、セレナさん。」
「え?」
「たとえ怒られても……そうすることで、晴也さんにかまってもらえるんです……。
晴也さんがいるだけで、独りぼっちだっていう悲しみも和らぎます。」
「……ねぇ、ハルの事好きなの?」
何を聞いてんだ……セレナのやつ。んなわけねぇって……
「うん……好き…なんだと思います。まだ一日しか経ってないけど……なんだか、
初めて会った気がしなくて……」
なんなんだよ……あんなやつと…会ったことは無い、はずだ。
「…そんな……もう、やめてよ……やめて……」
セレナの声が心なしか震えている。見えはしないが、泣いているのだろう……

「もうやめてよ!……死んでまでハルを取らないでよぉ!!…そこまで…私の邪魔したいの?」
「え?…セレナさん?」
「ハルはね、私の恋人なの、愛し合ってるの。……死んだあなたが割り入っていいわけないじゃない!
…ふざけないでよ!」
なにを…セレナは感情的になってんだ。いくらなんでも変な心配しすぎだろ。俺と葵が?ありえねぇっての。
「死んでまでって……セレナさん、私が生きていた時のこと知ってるんですか?」
「う……」
「ねえ、教えてくださいよ!私と晴也さん、前に会った事あるんですか!?」
「……ない!ないわよ!!……あなたの事なんて…知らないわよ……」
そう言ってセレナの立ち去る音が聞こえる。その気まずい雰囲気に、しばらくロッカールームから
出られずにいた。
しばらくしてバイトが始まり、客が入る。今日はセレナが何度もミスをしていた。
よっぽどさっきの会話で動揺したのか。終わった時には疲れ切っていた。
……恋人としてはこういうときは一緒に居てやるべきか。
「セレナ……」
「あ、ハル……ごめんね、今日はミスばっかりしちゃって……」

 

「気にすんなって……そんな事より、今日家に泊まりにくっか?」
「え?…でも…」
「葵は…まあ、なんとかしてもらうさ。さすがに一緒に居るほど野暮でもないだろ。」
あいつの場合野暮というか天然で居座りそうだが。もう葵は先に帰っていた。仕方ない、
帰って説明しなくちゃいけねぇな。スクーターの後ろにセレナを乗せて帰宅。
…違反?知ったことか。
「…えへへ、なんだか久しぶりだな。ハルの家に泊まるの……」
「…そうだな。」
鍵を開け、部屋を開けると案の定……
「あ、おかえりなさぁい!晴也…さん…」
「あ……」
やっぱりさっきの事があったせいか、二人の間に気まずい雰囲気がまた流れる。
「せ、セレナさん…今日、泊まるんですか?」
「まあね……」
「あはは…じゃ、じゃあ、私はお邪魔虫ですね。…今日はぶらぶらと過ごします。」
「ああ…ワリィな。」
「や、やだなぁ。謝らなくて良いんですよ。私が悪いんですから。」
そう寂しい声を出し、すっと壁を抜けて出ていってしまった。何故か悲しくて、
その抜けていった壁を触っても葵の温もりは分からなかった……


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