さよならを言えたなら 第6話
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「ん……んあ…」
不意に目が覚める。目覚ましがまだ鳴っていないところをみると十二時前か。鳴る前に起きるなんて珍しい。
「…おお……?」
何か違和感があると思ったら、横では葵が幸せそうな顔をして爆睡していた。
……本当に幽霊のくせに寝やがる。
「……生意気な……」
ちょっとムカついたので起こしてやろうかと思ったが、寝てる方が静かで助かる。
起きないようにそっと着替え、コンビニへ出かける。ちょうどお昼だ。
「……お、これ……」
昼飯を買うだけのつもりが、つい興味のある本を立ち読みしてしまい、気付けば三十分も経っていた。
店員からは怪しい目で見られまくりだ。
結局本は買わず、おにぎりだけ購入。しばらくはあの店にいけないな………
散歩がてらに歩いてあると、商店街へ。この道は遊園地へと続いており、商店街は一日中車の通りが多い。
……何故かこの商店街に入ろうとすると、悪寒が全身を襲い、気分が一気に悪くなる。
多分この道に記憶の鍵があると思うのだが、この不快感を我慢してまで思い出したくねぇ。
踵を返し、アパートへと帰っていった…………

夢を見ていた。これは生きていた時の夢なのだろうか。よくわからなくて不思議だけど、
悪い夢じゃなかった。
とても大切な人と、楽しい時間を過ごす、そんな夢……心が暖かくなる……
でも、いつかは覚めてしまう。そう考えると怖くなり、一気に夢は覚めていく………
「んん……」
目が覚める。そうだ、隣りには晴也さんが………
「あれ?……晴也さん?…晴也さん?」
いなかった。脱ぎ捨てた服と、片付けていない布団を残したまま、いなくなっていた。
靴も無い……どこかへ出かけたのだろうか………そう思い、しばらく待ってみる………





「帰ってこない……」
三十分ほど待ってみたが、帰ってこない。…もしかして私を捨てて逃げてしまったのだろうか……
いや、でもここは晴也さんの部屋だし……
そんなとく、ふとセレナさんの顔を思い浮かべる。彼女家に行っちゃったんだ………
私に本当に愛想を尽かして………
「いや…そんなのいやだよ!!」
晴也さんがいなくなっちゃったら私、独りぼっちになっちゃう!………だめ、帰って来てよ…晴也さん……
「晴也さん……晴也さん…晴也……さん…」

「あー…久しぶりに歩いたな。」
あれから体調が良くなるまで歩いたら、部屋をでてから一時間は経っていた。
まあバイトは三時からだから余裕だな。鍵を開けて部屋に入ると……
「おう?」
部屋中が目茶苦茶になっていた。テーブルはひっくり返り、布団や服はあちこちに乱れ飛んでいた。
そしてその部屋の中央には葵が背中を向けてたたずんでいた。
「おい、なにやってやがんだ………」
またしょーもないことしやがってと怒鳴ってやろうとしたが……
「晴也…さぁん…」
振り向いた葵は俺が怒る前にすでに泣き崩れた顔になっていた。
そして俺の姿を確認するやいなや駆け寄り………
ドン!
「うぉ!?」
思い切り押し倒された。その勢いでドアに背中をぶつけた。
「ってぇなぁ……いきなりなにしや…」
「晴也さん、ごめんなさい。ごめんなさい。」
「え?」
急に謝られ、困惑する。葵はまだ泣きながら俺に縋り寄ってくるのだ。
「今までしてきたこと、全部謝りますから……見捨てないで…私に愛想を尽かさないで……
晴也さんしかいないんです…だから、戻ってきてぇ……」

なにがなんだかわからん。なにを言ってんだ。
「戻ってきてって……ちょっと帰るのに時間かかっただけじゃねぇか。」
「…え?……本当ですか?セレナさんの家に行ったんじゃないんですか?」
「どうしてセレナが出て来る……」
「……だって、朝起きたら晴也さんいなくて……待ってても帰ってこなくて……
昨日一日だけで嫌われちゃって捨てられたかとおもったから……」
なにを大きな被害妄想を。本当に捨てるならとっくに捨ててる。
「わかった、わかった。俺が悪かったよ。だからもうグズグズ泣くなよ……幽霊のくせによ。」
「…ぐすっ……えへへ、はい。……それと、その……もう一つお願いがあるんですけど……」
「ん?下らない事なら即却下だ。」
「う…あのですね……今日もバイト先に行っていいですか?」
「………」
きっと一人になるのが寂しいのだろう。さっきの今だ。そう言うのも無理はねぇな。
「……迷惑にならないように、見てるだけでがまんできるってんならな……」
「は、はい!それだけで十分ですぅ!」
……俺もなんだか甘くなったな………


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