死の館 第2回
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――美保
とても心地良い、あっちゃんの肩。寝たフりしてるけど、本当は最初からずっと起きてる。
ドキドキして寝れないから。
考えてみれば、あっちゃんが居る旅行なんて初めて。無理やり連れて来てもよかった。
翔太君が変な事を叫んでいたけど、私も似た様なことを考えている。
この旅行の間に、あっちゃんと………
そんなことを考えていたら、体が熱くなってきちゃった。いけない、いけない。私は変な子なんだろうか?
誤魔化そうと薄目をすると、あっちゃんが私を見ていた。一瞬似して体が硬直してしまった。
な、なんでこっちを見てるの!?
「こいつ……」
なにか呟いてる。
「面白い癖っ毛だな。」
ガクッ
はぁ、なんか期待外れ……まあ、あっちゃんに期待するのも無駄かな。私が引っ張っていかないと
だめだからね。

そろそろ起きようかと思った時………
ガタン
「んん?」
バスが少し揺れ、運転をしていた先生が声を出す。
「おかしいな……ガソリンはまだあるし、故障か?」
周りから不満の声が上がる。
「いいじゃない、あれが目的地なんでしょ?あれぐらい歩いて行きましょうよ。」
奏ちゃんがそう提案した。

――奏
私が提案したように、皆で森を抜け、歩いて洋館まで向かう。
まったく、こんな不便な所に別荘を建てるなんて理解できない。しかも余り知らない親戚から
招待されるなんて、なんかおかしい。
でもまあ、みんなそれなりに楽しみ似しているようなのでよしとする。
少しだけ舗装された道を歩くこと数十分。やっと正門までたどり着いたけど……
「で、でけぇ〜〜!!」
翔太君がみっともなく大声で叫ぶ……無理もない。本当に大きいのだ。山の森に隠れていたためか、
近付くまでわからなかったが、正門から見ただけでもウチの学校の校舎ぐらいはある。
こんなところに住むなんて、とても疲れそうだ。
「あ、あれ何?」
エリっちが不思議そうに指差した先には……
「時計塔、か。」
あら、珍しい。敦也が答えるだなんて。
確かにそこには時計塔があった。ちょうど私達の居る正門とは正反対で、
洋館を線対称に分けるように中央にそびえたっている。
夜の闇にライトアップされたそれは、妙に不気味に見えた。その上……
「つ、つめたい!」
雨まで降り出した。敦也君が珍しくしゃべるからよ!

――絵理
「ほら、冷えてきたから、さっさと入るぞ。」
先生が促すと、皆で正門に入る。松葉杖をついている私を、光ちゃんが、しっかりと支えてくれる。
こんな私が山岳部なんかに入った理由がこれだ。
障害があり、なかなか部活に入れなかった私を、カナちゃん(奏)が誘ってくれた。
ちなみにカナちゃんが山岳部に入った理由は、『暇そうだから』らしい。
それから私とカナちゃんは親友になった。カナちゃん以外も皆優しくてとても助かっている。
庭の中央まで来た時、異変は突然起こった。
ガシャン!
大きな音がして振り返ると、鉄の正門が閉じていた。
「風かな?」
光ちゃんが言った直後………
ガルルルルル……ワンッ!!
犬の吠える声が聞こえた。よく見ると、庭の隅の穴から、五匹ぐらい這い出ていた。
その私たちを見る目は、餌に飢えた獣のようだった。
「あ、あれって!軍用犬じゃない!みんな逃げて!」
そうカナちゃんが叫ぶと、皆スイッチが入ったように混乱し、玄関へと走り出す。そんな中私は……
「いよっと!」
翔太君におぶられていた。………そんな翔太君の横顔が、なんとなくかっこよく見えた………


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