死の館 第1回
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――敦也
きっかけは何気ない一言だった。
「夏休み、みんなで旅行に行かない?」
奏の提案だった。俺達山岳部……とはいえ、ほとんど活動はしてない……が、
奏の親戚の家に招待された。俺は面倒だと言ったのだが、美保に強引に連れられてしまった。
そして今はバスの中。日も暮れて来た時間、山中を進む。かなり高い所まで来た。
隣りでは美保が熟睡して居る。無防備なもんだ。
外の味気無い風景を眺めていると、前に座っていた翔太が、イスから身を乗り出して話しかけてくる。
「おう、敦也。実はな、今回の旅行、俺には計画があるんだ。」
「…計画?」
面倒に思ったが、一応返事はする。
「人里離れた洋館……たくさんの美少女達……この条件から導かれるのはただ一つ!脱・童・貞!
だぁぁぁぁ!!!!」
お前が報われないのはそこにあるんだぞ?といいたくなるが、黙っておく。言っても無駄だし、
自分で気付かないと無意味だろう。
「な?お前も乗るだろ?」
「断る。」
俺にとっては、完全に無意味なことだ。この後、そんな余裕もない程悲惨な旅行になるとは、
俺も含めて誰も知らなかった………

――由良
「脱・童・貞!だぁぁぁぁ!!!!」
兄さんがまた変な事を叫んでいる。妹として、兄のイメージ低下は避けて欲しい……
でももう手遅れみたい。みんな引いちゃってる。
はあ、なんであんなのが兄なんだろう。ほら、敦也さんにだって軽くあしらわれちゃってる。
……かっこいいなぁ。
でも、そんな敦也さんの肩に頭を乗せながらぐっすりと寝てる美保さんを見ると、胸が痛くなる。
『私、あっちゃんが好きなんだ、幼馴染みとしてじゃなくて……男の子として。』
それを相談されたとき、本当に泣きそうになった。でも、私も敦也さんが好きだと言ったら、
きっと美保さんは身を引いてしまう。優しすぎるから。
そんな事をさせてまで、敦也さんに好きだと言える事なんて無理。だから私は黙っていた。
美保さんも好きだから、二人には幸せになって欲しい。
私が……私さえ我慢すれば、全部丸く収まるんだ。だから我慢…………でも、黙っていれば、
離れて見てていても構いませんよね?
兄さんを避けるように顔を背けた敦也さんと目が合い、苦笑いされる。
ああ……また、私の胸が疼く……敦也さんがイケナインデスヨ?

――翔太
俺の懇願虚しく、周りからは色のいい反応はもらえなかった。
「な?お前も乗るだろ?」
無理やり敦也を誘ってみる。わが親友ならわかってくれるはず……
「断る。」
と思ったが、こいつはそういう奴だったよ。ちょっと腹癒せにからかってみる。
「お前はいいよなー。もうかわいい候補がいるからさぁ。」
敦也の隣りで寝てる美保ちゃんを見ながら言う。どうみても美保ちゃんが敦也に好意を持ってるのは
バレバレだ。だから俺としても二人がくっついてくれるのはありがたい。
だから絶対に美保ちゃんには手を出さないようにする。ただ一つ問題なのは……
「候補?誰が?なんの?」
敦也本人が爆発的に鈍感って事だ。わざとか?と思うほど、色恋ざたははぐらかす。
「美保ちゃんが、さ。」
「まさか。」
苦笑いしながら顔をそらす。その目線の先には由良がいた。……む、こいつ、もしや俺の妹狙いか。
もし由良と敦也が結婚までいくとなれば……
『今後ともよろしくお願いします、兄さん。』
『兄さん』『兄さん』『兄さん』
それを想像しただけで吐き気が…………


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