教授と助手とロリコンの微笑み 第2部 第6話
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「さーーて、お待たせ致しました。本日のメインイベント!!今一番輝いているカップルはだれだ?
そう!それはあなた!誰が見ても輝き、そして熱いカップルを決める大会!!
それがこの「ラブラブカップルの部」!!!予選のペーパーテストと体力検査を勝ち抜いた
兵どもの未来は夢の跡か!それとも熱海での愛の語らいか!さあ!!
そんな愛の戦士十組の紹介をしまーす!!まずは最初の組から……」

ステージ裏で待機しているカップルは一様に皆緊張した面持ちであった。
その中である一組のカップルは緊張というよりも疲労困憊の様子であった。
「まさか砂浜で走らされるとは思わなかったよ……」
もう一歩も動けない、って感じの樹に対して
「体力ないですよ樹さん。しっかりして下さい。」
一億馬力は伊達ではないのか、まだまだ大丈夫って感じの晴香は体力が有り余っているようだ。
テンションが上がりっぱなしの晴香は、じっとしていられないのか辺りを
キョロキョロしたりステージの様子を見ていたが、やがて飽きたのか
地面に体育座りしていた樹の隣に座り、体を密着させてきた。

「ああ……、やっぱり樹さんの隣は落ち着きますね。樹さんの体温、息づかい、
匂い…いーっぱい樹さんを感じることが出来て嬉しいです。」
「そういうもんなの?よく分からないけど…」
「そういうもんです!……まあ本当ならこの雰囲気に乗ってエッチに持ち込みたい所なんですが、
ちょっとギャラリーが多いのであ・と・で・……ね。」
「その元気があればね……」
そろそろ順番だな、と考えていたらふと晴香が
「そういえば樹さん、あの生意気なチビは見かけませんがどうしたんですか?」
(ギクッ!!)
「……ああ、夕子ちゃんね。ちょっと野暮用で町の方に行ってるはず……かな?」
それを聞いた晴香は顔を輝かせて
「そうなんですか?なんか見かけないなと思ったら……そう……いないの……
これで邪魔者はいないな、うふふ」

「さーーて、最後のカップルはーー、高校生からのお付き合い、そして大学に入っても
冷めることなく続いてきたとっても熱いカップル、佐藤樹、五十嵐晴香のペアだーーーー!」
司会者に呼ばれて、二人はステージに上がってきた。
若干緊張の面持ちの樹に対して、晴香は樹に寄り添って手を振ったり、
ジャンプしたりとアピール全開だった。
晴香にとってはこのイベントで二人の絆をより強い物にしたかったし、なにより肝心の
樹が中々積極的に来てくれないので、このイベントを通して少しでも意識、
もしくは自覚などを持って欲しいと思っていた。

「さーて、最後のカップルは、おっと、晴香さんは先ほどの「イリュージョンの部」
でも出てましたね。ということは先ほど出てたのは……」
司会者が言い切る前に晴香は眉を顰めながら激高した。
「冗談じゃないわよ!!さっきのは麻奈美が思っていたカップルで、
私的にはこっちが本当のカップルよ!!」
そう叫んで晴香は樹に胸を押し当てながら抱きついた。
「はあ……うーん、まあいいでしょう!可愛ければもうなんでもあり!!
それでは幾つか質問します。お二人の出会いはどういったかんじでしたか?」
まさしく待ってましたと言わんばかりに晴香は得意満面に
「出会いは正に運命でした。樹さんがサッカー部で、私がマネージャーをしていたのですが、
樹さんのカッコ良さに私は一目惚れで……すぐ告白し、それからは近づく泥棒猫をやっつけながら
今現在まで愛を育んできました。」

自分に酔っているのかやや演説口調だったが、その堂々とした口調にギャラリーも驚いていた。
今晴香は「このステージは私が主役よ」状態だった。
「いやー、堂々としたしゃべりで感動しました。では彼氏にも
聞きましょう。ずばり彼女のここだけは直して欲しいとこは!!」
「え?う〜ん、えっと……」
正直いっていっぱいありすぎてなにを言えばいいか迷っていた。
かといって下手なことを言えばステージ上で大暴れするかもしれないし…ふと晴香を見れば
「なに迷ってるんですか?直して欲しいとこなんてあるわけないでしょ。」
その根拠の無い自信はどこからくるんですか?
「あ……あ、そうですね、しいてあげれば晴香ちゃんのフェロモンが強すぎて
悪い虫がついちゃうから、出来ればもう少しフェロモンを弱めてほしいな……なんて」
我ながら少しクサすぎたかな、と思ったけどどうやらそうでもなさそうだ。
会場からは口笛や囃し立てる声など会場は大フィーバーだ。
そんな中会場のどこからか突き刺さる視線を樹は感じた。
恨みや憎悪、嫉妬を含んでいるような視線に樹は鳥肌がたち、寒気を感じた。
(な、なんか冷たい視線を感じるけど、一体誰が……)
「あー、熱い!熱すぎます!確かにこんなに可愛い彼女だったら彼氏としては心配ですよね〜!!
はい、有難うございます。後ろの列に並んで下さい。」
ステージ後方では横一列に出場者が並んでいるので樹たちもそれに並んだ。
やっと一息つけたところで晴香が肘でつついてきた。
「樹さん……うれしい……今夜は大サービスしちゃうから。」
樹は「はは……ありがとう。」と笑ったが顔は脂汗で一杯だった。
(さっきの視線といい、この胸騒ぎといい、なにかが起きるのか?……)

「さーて、いよいよ一番のカップルを決める「ラブラブカップルの部」の順位を発表しまーす。
私個人といたしましては全員一番なのですが、まあそれでは大会を開く意味が無いので、
うらみっこなし!で行きたいと思います。それでは第三位は………」

もう順位なんてどうでもいいから早く終わってほしい。でないとなんか怖い。
片や晴香ちゃんは第二位まで自分じゃなかったので、固唾を飲んで聞き入っていた。
「さてお待たせ致しました。ついに第一位の発表です!!今審査委員から結果発表が書いている
手紙が渡されました。それでは読み上げます。第一位は…………
佐藤、五十嵐ペアだーーー!!!」

その瞬間会場、ステージ共に大歓声が起こり、二人も信じられないといった顔をしていた。
ステージ前方に歩いて行き、ステージ上に紙ふぶきが舞う中、
司会者が祝福の言葉を言おうとした時、ありえないものが晴香めがけてステージに飛んできた。

え?本当??夢じゃない??やったーーーー!!嬉しい!!
これで熱海でだれにも邪魔されないで樹さんと

べちゃ

ん?なにか当たったわね。なにこれ気持ち悪いわね。………熱い

「あちちちちちちちちち!!!!あつーーーーーーい!!!!」

顔に当たった「物体」のあまりの熱さに晴香は床を転げ回った。
「晴香ちゃんどうしたの!!……は?」
樹はわが目を疑った。本来此処には無いものが晴香にくっ付いている。
「なんで顔に……お好み焼きが……」
会場にいる全員が呆気にとられているその時

「ちょっとまったーーー!!」

「……は!おーっとちょっとまったコールだーー!!ってそんなルールはないですよ。
だれですか?」
ステージ上に誰かが乱入してきた。
その堂々とした態度、モデル並の身長に見事なスタイル……
「あ、弥生さん!!!」
そう、氷室弥生がこともあろうにステージへ乱入してきたのだ!
「あ!あなたは「セイレーンの部」優勝者の氷室弥生さんではないですか?いきなり乱入とは
穏やかじゃないですね。」
よく喋る司会者を弥生は無視して、お好み焼きのソースで黒くなった晴香に近づいた。
「はんっ!惨めなものね……五十嵐晴香。」
「はあはあ……なんですって!」
挑戦的な目をした弥生に対して、まだ事態が飲み込めない晴香は混乱していた。
「あ、あんた!樹さんの店にいたウェイトレス!!なんでここに……」
「んー、まあ簡単に言えば、あんたの邪魔しに来たんだけど、……まさか
冗談で投げたお好み焼きが綺麗にクリーンヒットするとは思わなかったわ。ぷぷ。」
「な!」
晴香はなにがなんだかわからなかった。なんでこの女は邪魔するの?なんでお好み焼きを投げるの?
なんでここにいるの?なんで……なんで……なんで……
「あら、だいぶ混乱しているわね。じゃあ分かりやすく説明してあげる。」
そう言った弥生はゆっくりと樹に近づき、体を密着させてきた。
「私、樹のこと、愛してるの。」
晴香に対して挑戦的な笑みを浮かべて、弥生は樹と唇を合わせた。

「ん?………ん、ん。」
「!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

あは、あは、今何をしたの?
この私の目の前でキスするなんていい度胸じゃない。
しかも「愛してる」だぁ?
初めて会った時にあの瞳の中で燃えていた嫉妬の炎……
チビといいこの女といい、どいつもこいつも本気のようね……分かったわ。
あはははははははははは…………

……す、……す、……す、……す、……す、……す、
コロスコロスコロスコロスコロスコロスコロス

全部殺してやる!!!!!!!

「はい、そこまで!」
火花を散らせていた二人の間に司会者が割り込んできた。
「まったく……司会者の私を差し置いて勝手に話を進めないで欲しいですね。」
「「あんたは関係ないでしょ!!」」
二人のプレッシャーに押されて司会者はたじろいだが、そこは司会者。
なんとか場を仕切ろうと必死だった。
「何を言ってんですか!このステージは私が仕切ってんですよ!
その私を差し置いて話を進めようとしても駄目です!!」
司会者の頑とした態度に二人して冷たい視線を浴びせていたが、ギャラリーは
「いいぞー、もっとやれ」など煽り立てていたので、会場はちょっとした混乱状態だった。
「みなさんお静かに!!……不測の事態が起こってしまいました!!
なんとこの佐藤樹さんの彼女はこちらにいる五十嵐晴香さんだと思っていましたが、な、なんとー!
今乱入してきた「セイレーンの部」優勝の氷室弥生さんも彼女だと主張しています!!
そこでどうでしょう!!どちらが本当の彼女なのか勝負して決めようと思うのですが
如何でしょうか!!!!」
もちろんギャラリーも反対するわけなく、「いいぞーやれやれ!!」や
「彼女対泥棒猫の対決だ!!」などなど勝手に盛り上がってきた。
しかし当の本人の樹はまるで魂が抜けたような顔をしていた。
(弥生さんが……愛してるって……キス……)
そんな惚けている樹を我が物にしようと、二人……晴香と弥生は
今まさに互いに飛び掛ろうとしていた。

(殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す!!!!)
(ふふっ、あんなに顔真っ赤にして…怒ってる怒ってる。)

「さて、勝負の前に氷室さんにお聞きします。まずいきなり乱入してきましたけど、
何でまたそんな方法をとったのですか?」

そのように司会者が質問してくるのは想定内だったのか、弥生は涼しい顔をして

「んー、そうね、色々あるけど晴香の邪魔をしたかった、っていうのが一番かしら。
なにしろ樹は晴香とエントリーしちゃったから私とはエントリー出来なくなったし、
だからといって指くわえているのもね。で、ちょっと強引だけどこんな方法を取った、ってわけ」
「うーん、なるほど。よくわかりました。でもやっぱり乱入は……」
司会者が言いかけた時、弥生が司会者を指差し
「なに言ってるの!あんた言ったでしょ!!「可愛ければもうなんでもあり!!」って!!
それとも私が可愛くないっていうの?」
司会者は困った顔をしているが、会場のギャラリーは「認めろーー!」とか
「可愛いに決まってるだろ!」とブーイングが起きていた。

(乱入なんて認められないけど…けどこの「彼女対泥棒猫」のバトルは見物かも)

暫く考えたあと、司会者は顔を上げて
「分かりました!!特別に認めましょう!!それでは佐藤樹を掛けて
五十嵐晴香対氷室弥生の対決を始めたいと思います!!」
うおーーーー!!
一気に会場はヒートアップし、狂喜乱舞して喜んでいるようだ。

「さて、まずはお二人に討論してもらいます!!やはり彼女で
したら泥棒猫を言い負かせる位は簡単なはずです!!それではスターーーート!!」
いきなり討論っていわれてもね……それにしても会場はすごい盛り上がってるわね。
でもこの空気は嫌いじゃないわ。自然と私のテンションも上がるってもんよ。
樹は…っとうん、後ろに下がったわね。そこなら安全だわ。
さて暴走娘は…うーん、こっちを睨んでいるわね…まあ当然か。
あ、口をあけたわ。開口一番なに言うのかしら。

「殺してやる!!!」
「あら、随分物騒ね。こわいこわい。」
「ふざけないで!!」
「ふざけてないわよ。私はいつも真剣……自分自身も恋も……」

「おーーっとまずは二人とも鍔迫り合いといった所か――!!」

「大体なんで私にお好み焼き投げるのよ!!」
「あ、あれ?ただのい・や・が・ら・せ♪まさか当たるとは思わなかったけど」
「なんですってーーーーー!!」
晴香は怒りに我を忘れて弥生に掴み掛かろうとしたが、司会者に体を張って止められてしまった。
しかし晴香の突進力は凄まじく、司会者は吹き飛ばされてしまい、晴香は弥生の首に掴み掛かり、
締め上げた。
「あんたのせいでせっかくのイベントが台無しよ!!樹さんと優勝して、熱海いって、
楽しんで……全部あんたのせいで!!!」
晴香の腕力は人並みではあるけれど、本気で弥生の首をへし折るつもりなのか、
力を緩めるつもりはないようだ。
余裕の風を吹かしていた弥生もさすがにここにきて顔に苦悶の表情を浮かべ始めていた。

「あ……くっ……がはっ……いい加減に……」

弥生は掴み掛かっていた晴香の顔を逆に掴み

「しなさいっ!!!」

そう言って掴んだ顔を押して、晴香の手を首から離した。
「ごほっごほっ……全くなんて馬鹿力なのかしら。恋する女の力は偉大ね。」
弥生は一気に掌に力を込めた。親指と人差し指がこめかみに食い込んでいった。
と同時に少しだけ晴香をそのまま持ち上げた。
身長の差もさることながらリーチもあったため、掴まれた晴香はどうすることも
できず、ただ叫び声を上げるだけだった。

「おーーっと氷室選手、顔を掴んでアイアンクローだーーーー!!」
「痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いーーーーーー!!!!あーーーーー!!」
「ふんっ!!」

晴香のこめかみから血が滲み出てきた時、弥生は掴んだまま司会者に投げつけた。
司会者はなんとか受け止めたが、晴香はあまりの痛さに血が滲み出てきたこめかみを押さえていた。

不敵な笑いを浮かべながら、ゆっくりと弥生が近づいてきて
「私ね……時々インターネットやるのよ。」
「…………」
「それでね、お気に入りのサイトに、三角関係や修羅場をネタにしているサイトがあるんだけど、
そこで、ある統計があったのよね。」
「な、なにを言って……」
戸惑う晴香を無視して弥生は続けた
「それによるとね……彼氏を巡って「彼女」と「泥棒猫」が争った場合、
殆どが彼女の勝利ってパターンが多いのよね……」
「あったりまえよ!!彼女が泥棒猫に負けるわけないわ!!」
「それで貴方が樹の彼女で、私は泥棒猫……統計で見れば貴方が有利ってことよね。」
「その統計は知らないけど、彼女が有利ってのは一緒に過ごした時間が泥棒猫よ
り多いし、絆を深められる時間だってあるんだから当然よ!!」
いつのまにか弥生のペースにはまっていたが、言っていることには興味津々だった。
「でも私は違うわ!!」
床に座ったまま喋っていた晴香に対して指差し
「泥棒猫がヤラレ役の時代は終わったのよ!!!!」



「え〜、どうやら決着がつきそうにないので、討論対決は引き分けです!!!
では次の対決は……これだーー!!!」
「ちょっと何よこれ!」

晴香と弥生の二人の頭と腹に紙風船が付けられ、手にはグローブがはめられた。
しかも互いの腕は紐で結ばれていた。
「さーて次の対決は、格闘対決だーーー!!お二人の体に付いている紙風船を先に全部割った方が
勝ちです。しかもお互いが紐で結ばれているため逃げ回ることも無理です。それでは………」
(ウェイト差がありすぎるわね…なら)
(ふっ、あいつの考えることなんてお見透しよ。たぶん…)

「ファイト!!!!」

(先制攻撃よ!!)
(先制攻撃ね!!)

「あーーーっと、二人同時に飛び出したーーー!!そしてーーー!!あ、クロスカウンターだ!!」
二人の拳が互いの顔に命中した!だが……
「い、いや違う!当たったのは氷室選手だーー!!」
弥生の方がリーチがあったので、晴香の拳は届かず、弥生の拳が晴香の顔面にめり込んだ!
「ぐはっ!」
吹き飛んだ晴香を弥生は返す刀で腕に縛られた紐を強く引っ張った。
「う、うわっ!!」
強く引っ張られた晴香はバランスを取ることもできず、弥生の方に飛ばされ……
(悪いけど、格闘術なら負けないわ)
「あーーっと!!氷室選手!!飛んできた五十嵐選手の腹にクリーンヒット!!
まずは風船一個目!!」
もろに腹に入ったので晴香は動けないでいた。
(くっ……くそっ……)

「あ!ここで氷室選手!トドメとばかりに五十嵐選手に向かって走ったーー!!」
「悪いけどこれで終わりよ!!」
「!!!!!!」

これで終わりと晴香が覚悟を決めたその時、異変が起きた。弥生の動きが止まったのだ!!

「ん?どうした氷室選手!動きが止まったーー!!」

「あ……あ……あ……こんな……ときに……」
弥生は胸に手を当てて蹲ってしまった。
「もらったーーー!!」
チャンス!と判断し、晴香が弥生に突撃をかけた!!
「そこだー!」
狙いすました一撃が弥生の頭に乗っていた風船を貫いた。
「ここで五十嵐選手、氷室選手の風船を割ったーーー!!これで五分五分だ!!」
「なんだか分からないけど、動きが鈍い今がチャンス!」
続けざまに腹に一撃を加えようとしたが、弥生はなんとかかわした。
(だ、駄目だ。全く動かない。このままではここにいる全員に……そんなことになるくらいなら)

「え?」

「あ、あーー!!」

弥生は自らの拳で腹にあった風船を割った。
「氷室選手!!自らの拳で腹にあった風船を割ったーー!!
この勝負五十嵐選手の勝ちーーーーー!!」
唖然呆然とした晴香と観客を無視して、紐を解いた弥生はふらつきながら樹の元に近づいた。
「樹、どうやら時間が来たようだ。すまないが運んでくれ……」
それだけ言って弥生は樹に凭れ掛かった。
「弥生さん、しっかり!!」
どうやらあまり時間はないようだ。
「あ、すいません、急患なのでここで失礼します、晴香ちゃん、あとは宜しくね。」
晴香や司会者にそれだけ言って樹は弥生を背中に乗せ、会場を後にした。




「弥生さん、着替えもってきました。ここに置いておきますね。」
「あ、ありがとう。そこにいてね。」
会場を飛び出してから背中がどんどん軽くなるのを感じて、このままではお店に戻れず、
途方にくれていたらちょっと離れた所に岩場があったので、ひとまずそこに身を隠した。
人気も無いようなので弥生をそこに残し、樹はお店に戻って着替えを取り、また戻ってきたのだ。
(まさかコンテスト中に起きるなんて……でも危機一髪だったな。でも、
コンテストすっぽかしてきたから後で晴香ちゃんに謝らないと……)
でも樹は晴香に悪いことをしたと思っていると同時に、ほっとしてもいた。
(あのままではどちらにとっても遺恨を残しそうだし、何より二人の勢いを見たら
どちらかが大怪我でもしそうだったしな……)
「樹、いいよ。」
後ろから声を掛けられたので振り返るとそこには……

岩場に立つ、ちっちゃい弥生さん

(魔法……解けちゃったな……)

「どうしたの樹?今にも泣きそうな顔をして。私なら大丈夫だから。さ、お店に帰ろ。」
弥生はそう言うが、樹はなんて言えば分からなかった。
そんな樹の迷いを感じたのか弥生が
「正直に言うとさ……小さい私も結構気に入ってきたのよね。だから平気。さ、行こ。」
弥生は樹の手を取って、お店に歩き出した。


次回第七話「思い出が終わるトキ」


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