教授と助手とロリコンの微笑み 第2部 第7話
[bottom]

まだ夜が明けきる前、辺りには人の気配は無く、漣の音だけがこの砂浜で存在をアピールしていた。
あと数時間で朝日が昇り、今日もまた夏休みを利用しての家族連れやカップルで賑わうことだろう。
そんな静寂がこの砂浜を支配している時間に、唯1人目的地に向かって走っている者がいた。
月明かりを頼りに、ただひたすら走っていた。
数十分後目的地に到着し、看板を見た。

「海の家 深海魚」

暗闇でも分かるぐらい満面の笑みを浮かべて、その者は軽々と二階の窓まで登り、
窓に鍵が掛かっていないことを確認し、静かに開けて部屋へ侵入した。
部屋の中は真っ暗だったが、暗闇に目が慣れていたのでさほど問題ではなかった。
右の方に目標物を発見したが、まず左に注意を払った。

「・・・・・・・・」

左からは寝息しか聞こえないので、安心したのかゆっくりと右へ移動した。
右からも寝息しか聞こえないが、侵入者はまず寝ている者にキスをした。

「ん……………。」

舌を絡ませ、口内を蹂躙したらそのまま相手のズボンを下げ始めた。

「わぁ………おっきい……」

生理現象の賜物か、既に発射準備完了状態なのを見て、あまりにも嬉しかったのか
「ソレ」を頬ずりしはじめた。

「あ……あったかい……待ってね、いま出してあげるから」

そう言って侵入者は跨いで、自分の秘部を曝け出し、ゆっくりと腰を落としていった。
(うふふ……今挿れるわ)
この悪巧みが成功しようとしていたその時、左から何かが飛んできた!
猛スピードで飛んできてそのまま体当たりされ、侵入者は吹き飛ばされて壁に激突した。

「いたた……な、なに?……」

よく見ると暗闇の部屋で、何者かが立っていた。
「何してんのよ!樹に夜這いかけてんじゃないわよ、晴香!!」
侵入者こと五十嵐晴香は妨害した者がチビこと朝日夕子と知って、驚きを隠せなかった。
「あ、あんた!!なんで起きてんの!!」
「やっぱり、あれはあんたの仕業だったのね?」

―――数時間前―――

「夕子ちゃん本当に大丈夫?無理しなくても良いよ。」
「ご心配をおかけして申し訳ございませんでした。持病の発作でしたが薬を飲んだので
もう大丈夫です。」
今日の営業も終わり、店仕舞いの準備をしていたらふとオーナーが聞いてきたようだが、
夕子(弥生)は笑顔で答えていた。
オーナーは夕子が戻って来たことを純粋に喜んでいるようだ。
片付けも終わり、一息ついた時やはりというかお約束というか「ヤツ」が現れた。

「樹さーん、お疲れさまです。私からのささやかな差し入れです。」
「何しに来たのよ。今日はもう店仕舞いよ。」

明らかに不愉快そうな顔をした夕子(弥生)に対して晴香は
「そんなこと見れば分かるわよ。なによせっかく差し入れ持ってきたのに。」
そんな押し問答をしていたら入り口から樹が入ってきた。
「親父さん、昇り片付けました……ってあれ?晴香ちゃんいらっしゃい。どうしたの?」
樹の声を聞いた晴香は夕子なんか無視して樹に飛び付いた。
「あ〜ん、樹さん聞いてくださいよ〜。このチビがせっかく訪ねた私を
追い返そうとするんですよ〜。くすん」
「もう閉店だから帰れ!あとくっつくな!」



「そういえば晴香ちゃん、コンテストはごめんね。途中で抜け出したりして」
そう、樹は弥生のためにコンテストを抜け出したのだ。
それを聞いた晴香は思い出したのか、渋い顔をしたが、すぐ笑顔になり
「ちょっと残念でしたけど、仕方ありませんね。樹さん優しいからあんな「クズ」で「淫乱」で
「雌豚」以下の人間でも助けちゃうんですから。でもそんな優しい樹さんも好きですよ♪」
怒っているかと思っていたが、どうやら樹に会えてご機嫌のようだ。
それとは対象に夕子(弥生)は……

「あら、私弥生さんに会ったけれど女性として「綺麗」で「優しい」し、
とても素敵な女性だとおもうけど?ねえ「単細胞」の晴香さん。」

樹を両脇で挟んで睨み合う二人のせいで、樹は身動きが取れなかった。
「そ、それにしても晴香ちゃんの差し入れのこのスイカ、とってもおいしいね。」
なんとか話題を変えようと頑張った樹だが、火に油を注いだようだ。
「お口に合いました?あ、ほっぺに種が。今取ってあげますね。んー、」
種を取ろうと口を近づけた晴香だったが

グシャ

「あんたはスイカとキスしてな!!」
哀れ、晴香は夕子(弥生)の手に持っていたスイカをもろに顔面に受けてしまった。
「………ふ、ふ、ふふふふ。やってくれるじゃないの。………こんのくそチビがーーー!!」
「チビいうな!!つるぺた星人がーー!!」
「結局喧嘩かよ……」




「それでは樹さん、また明日。あ、そうそうスイカと一緒に持ってきたビール、
開けちゃったのですぐ飲んじゃってくださいね。」
「うん、わかった。寝る前にでも飲むよ。」
そう言って帰ろうとした晴香だったが、急に振り返り、

「そうそう、樹さん、あいつ……弥生でしたっけ?会ったら伝えておいて下さい。
「月の無い日の夜道に気をつけな」って。じゃ。」

全速力で晴香は走っていった。
「ふん、気を付けるのはお前のほうだ!……ってね。」
「や……夕子さん?」
樹の後ろに弥生が立っていた。
「全く……暴れるだけ暴れて……まるで台風ね。さて、夜も更けてきたし寝ましょ。」
「そうですね。」
いつものように二階へ上がり、布団を敷いて後は寝るだけとなった。
(あ、そうだ。晴香ちゃんに貰ったビールでも飲むか)
一階に戻り、周りを見るとテーブルに、幾つか栓が開いたビールが置いてあった。
「ごくっ…ごくっ…ぷはぁ、うん、美味い。」
「なんだ?樹、寝る前に水分取るとトイレが近くなるぞ。」
二階から弥生がパジャマ姿で降り、樹が晴香が持ってきたビールを飲んでいる姿を見て、
眉を潜めた。
「全く…こんな夜に何飲んでんだか。飲んだら早く寝てよ。」
弥生はやれやれといった感じで二階に戻ろうとしたその時、何かが倒れた音がした。
「樹?」
覗いて見ると樹が床に倒れていた。
「樹!大丈夫?」
「あ、ああ……なんか急に眠気が来て……もう寝るか」
覚束ない足取りで二階に上がっていく姿を見て、弥生も上がろうとした時
ちょっとした胸騒ぎがした。
(……晴香が持ってきた……か)
少し気になり樹が飲んだビールを見て、少しだけ舐めてみた。
(この僅かに残る味は、確かあのアホ教授が持ってたアレと同じ!まさか……。)




「子供はもう寝る時間なのになんで起きてんのよ!」
明らかに晴香は動揺していた。普通なら子供はとっくに寝ている時間なのに
夕子(弥生)が起きてて、しかも自分が来ることも知っていたのだ。
「遅効性の睡眠薬を飲ませて、その間にエッチしようだなんて浅はかなのよ!!」
「ちっ!これぐらいじゃ諦めないから!!」
捨て台詞を吐いて晴香は入ってきた窓から飛び出し、一目散に走っていった。
「あっ、待ちなさい!!……色んな意味で無駄に行動力は有るわね。」
静かになった部屋で弥生は酷い有様になっていた樹を元に戻し、また眠りについた。
(もう……今日でバイトも終わりか)

「お二人さん、今まで有難う。今日でアルバイトは終わりだね。それじゃ最後まで頑張ってね。」
「「はい。」」
本当は夏休みはまだまだあるのだけど、大学のレポートの提出もあるし、
あまり部屋を空けっぱなしにするのもまずい、ということで今日でアルバイトを辞めて
帰ることにした。少し名残惜しいが、オーナーは「いいよいいよ」と言ってくれるので
その言葉に甘えることにした。
今日は隣町で夜に花火大会があるということで、やはり海もお店も大混雑していたが、
最後ということで、樹と弥生はいつも以上にウェイターや調理を頑張っていた中、
懲りずにまたあの女がやってきた。
「樹さーん、今夜の花火大会行きましょー!!」
もう弥生はこの女の声を聞くだけで頭が痛くなるようだった。
(よくもまあ毎日毎日朝も夜も来ること。大体花火大会が始まる頃には私たちは帰っているわよ。
あんた1人で見てな)
そんな弥生の思いとは裏腹に樹の答えは意外だった。
「花火大会?うーん、直接会場に行くのは時間的に無理だけどここからでも見れるからそうしない?」
ちょっとちょっと樹!!なに言ってんのよ。私たちは今日帰るんでしょ?
なにこの女の誘いを受けんのよ。しかも何そんなに嬉しそうなの!
……もしかしてその女と花火が見たいの?
駄目!駄目よ!樹は私と一緒に帰るんだから。花火が見たいなら私とだけ見ればいいのよ。
そんな女と見ないで!!
「ここから?まあ樹さんがそう言うなら。」
何照れながら言ってんのよ!あんたの魂胆なんてお見通しなんだから!!どうせ二人っきりで
色々しようと考えてんでしょう?そうはさせないわよ!
晴香はまた夜にくると言い残して去っていったが、お店では怒声が飛んでいた。

「樹!!どういうつもりなの?あの女の誘いを受けて花火を見るなんて!!今日帰るんでしょ!!」
樹を睨みながら、ここがお店だということを忘れて弥生は叫んでいた。しかし樹は
「いや、帰りますけど、電車の終電だったら花火を見れるかな?って思ったんでいだだだ」
弥生は頭にきたのか樹の足を踏みにじった。
「この鈍感!無神経!何でよりにもよってあの女と花火を見るのよ!!
私だって花火は見たいわよ!でも絶対あの女が誘いに来ると思ったから今日帰ろうって言ったのよ!
それなのに……それなのに……」
「弥生さん……」

 

 

夜、浜は花火の見物客で一杯だった。それでも現場で見るよりもゆっくり見られるということで
ちょっとした人気スポットだった。夕子(弥生)は思ったより多い見物客が晴香の牽制になったので
安心したのかご機嫌だったが、晴香は……

何でこんなに見物客がいるのよ!もう……これじゃ何も出来ないじゃない!!樹さんも樹さんよ!
何のんびり花火なんて見てんのよ!花火はあくまで口実で、本当は人気の無い所に連れ込んで、
愛を語らい、確かめ合おうと思っていたのにーー!かといって引っ張り込もうとしてもたぶん
あのチビが邪魔するだろうし…ん?何チビ見てんのよ?何その勝ち誇ったような顔は!
キーーー!!むかつく!!今に見てらっしゃい!!
「このままじゃ終わらないんだからーーーーー!!!」
晴香は周りに人がいるのも忘れて叫んでいた。

「それじゃ樹さん、先に帰りますね。」
「うん、こっちも電車で帰るよ。」
晴香たちは一足先に帰路につこうとしていた。
「ごめんなさい……出来れば樹さんも乗せたかったんですけど、この車運転手以外は「男子禁制」
だって言うんで……」
「だめだよ晴香ちゃん、男の子乗せたら私がパパに怒られるんだから〜。」
「うっ……分かってるわよ!」
バスが動き出したその時、夕子(弥生)が現れ、
「晴香さ〜ん、さようなら〜。私たちは「なかよく」電車で帰りますから〜。」
挑発的な笑みを浮かべながらバスに向かって手を振ったら、気付いたのか晴香が車の窓を開けて
「あ!こら!手を握るな!くっつくな!帰ったら覚えてろ………」
「最後の最後まで騒がしい奴ね。あ、そうそう樹、オーナーが呼んでたけど」
「親父さんが?何だろ」

 

「はい樹くん、夕子ちゃん、給料。」
「ありがとうございます。」
「オーナー、ありがとう!!」
「礼を言うのはこっちだよ。君たちのおかげで売り上げ倍増、店の評判も上がって
至れり尽くせりだよ!!ぜひ来年もよろしくね!!あ、そうそうこれは弥生さんに渡して、
また宜しくって伝えておいて。」

終電の電車はまるで貸切かのように静まり返っていた。
電車の揺れる音だけが響く車内で、弥生は―――
ねえ樹、あなた晴香とは高校生の頃から付き合っている、って言ってたわね。
私の知らない樹を晴香は知ってて……そして体の関係も持ってて……
それで樹、あなたは晴香が好きなの?それとも………
……いや、この問いは止めましょう。昔はどうであれこれからなんだから。
それにしても、よく寝てるわ。……確かにこの可愛い寝顔は独占したいわね。
……渡さない、絶対に渡さないわ。他の誰にも……樹の全ては私の物よ。

壁に寄りかかって寝ている樹に、寄り添うようにして弥生も静かに目を閉じた。

―――数日後―――

「ねえねえ晴香ちゃん、海面白かったね〜。」
「どこがよ!!全く……散々だったわ。それもこれもあのチビと巨人のせいで…」
晴香と麻奈美は課題の仕上げのために大学の構内を歩いていた。
終始ご機嫌な麻奈美に対して晴香はご機嫌斜めだった。
「よし、ちょっと樹さん宅へ遊びに行こう!」
そう晴香が言った時
「あ、いたいた。晴香ちゃーん。」
「う〜ん、樹さんの声がどこからか聞こえてくる……これも愛ね。」
「なにをぶつぶつ言ってるの?」
「え?………きゃう!い、樹さん!いつの間に?」
「今来たとこだけど……それよりちょっと話があるんだけど、いい?」
(え?え?樹さんが話?もしかしてプロポーズ?いやぁ〜ん)

「……それじゃ晴香ちゃん、私先に帰るね。」
二人を気遣って去る麻奈美だったが、人知れず目には殺気が宿っていた。

「ごめんね麻奈美ちゃん。……で話っていうほどのものじゃないけど……」
この時、晴香の頭はスパークした!

「わかってます!わかってますよ!やっと樹さんも決心してくれたんですね。いえいえ
遅いってことはないですよ。むしろ世間的には早いぐらいです。でもそんなことを
樹さんが考えていたとは思いませんでした。もう少し遅かったら私がプロポーズしていた所ですよ。
でも弱りましたね。今日は婚姻届は持ってこなかったんですよ。あ!いえ!問題ありません!
今から区役所へ行き、サインと判子をパパッとしちゃえば後はもう……」

「晴香ちゃん大丈夫?頭から煙が出てるよ!とりあえず今晴香ちゃんが言ったことは違うから。」
「え?そうなんですか?なーんだ……はぁ。」
がっかりした晴香の前に樹が包みを出した。
「はい。プレゼント。」
見るとそれは小さな包みだった

「プレゼント?ま、まさか!指輪!!きゃーー!きゃーー!!いやぁ〜〜ん。そんな…
樹さんったら……こんな所でプロポーズだなんて……あ、でも学生結婚だったら
大学ってのもありかも。樹さんって意外にロ・マ・ン・チ・ス・ト♪」

「どう言ってもそっちの方に話を持っていくんだね……ともかく開けてみて。」
晴香が包みを開けるとそこには
「わぁ……綺麗……これ、腕輪?」
中には簡単な模様が彫りこまれたシルバーの腕輪が入っていた。
「海の家のアルバイトのお金で作った手作りの腕輪なんだ。裏を見てごらん。」
見るとそこには―――
「え?H・I?まさか……」
「そう、晴香ちゃんの頭文字を入れてみたんだ。お誕生日おめでとう。気に入ってもらえたかな?」
「……………………」
晴香は喋れないでいた。今口を開けたらあまりの嬉しさに発狂しそうだったから。
「い、いつきさんありがとう」
違う!違うわ!!そんなことを言いたいんじゃないわ!もっと気の利いた言葉を言わなきゃ。
で、でも頭がぐるぐる回って上手く喋れない……そうだ!言葉より行動よ!
「晴香ちゃんどうしたの?何か様子が…んん?」
何か喋ろうとした樹の口を晴香はキスをして塞いだ。
しかしいつもの強引なキスではなく、とても優しい……柔らかなキスだった。
(晴香ちゃん……)
体を離して、晴香は猛ダッシュして樹から離れた。ある程度離れた所で振り向き、樹に向かって
「樹さーーーん!ありがとーーー!私大事にするーー!!……えへへへ。惚れ直しちゃった。」

次回第七話「とある日常@」


[top] [Back][list][Next: 教授と助手とロリコンの微笑み 第2部 第8話]

教授と助手とロリコンの微笑み 第2部 第7話 inserted by FC2 system