お願い、愛して! 第5回
[bottom]

 えへへ……。
「良かった……」
 本当に良かったな、嬉しいな。

 えへへへへ……。

 変わっちゃってたのはほんの少しだけ、形だけなんだ。
 キョータくんはキョータくんなんだ。
 わたし、嫌われてなんかなかったんだ!
「ふふふ……」
 思わず顔が綻んじゃう。

「なぁに瑞菜。朝から素敵笑顔の安売り?」
「あれ、理恵ちゃん。居たの?」
「あたしあんたの席の隣なんだけど」
「あ、そうだよね。ごめんね」

 危ない危ない。いつの間にか教室に入っちゃってたみたい。
 キョータくんのことになるとすぐに周りに目がいかなくなって駄目だなぁ。
 気を取り直して鞄の中から荷物を取り出すわたし。
「瑞菜さぁ」
 すると理恵ちゃんが私の机に身を乗り出してきた。
「ん……なに?」
 返事をしながらもあんまり理恵ちゃんとはお話したくなかった。
 夏休み前もそうだったけど、ベタベタと小汚く化粧を塗りたくったその顔を見ると、
 キョータくんと登校した爽やかな朝を穢された気分になっちゃうから。

 

「久しぶりだよね、元気にしてた」
「あ、うん……」
 何だかさっきから意味ありげな笑みを浮かべている。
 なんだろう? この子……。
 社交辞令みたいなことを言いながらも、そんなことより早く何かを言い出したそうなのが
 わざとらしく伝わってくる。
 キョータくんに避けられるようになってからは、ずっと無視してきたのに、鈍感なのか、
 自分が嫌われてるって気付いてないみたい。
 本当に困った子だよ。

「でさ。訊きたいことがあるんだけど」
 さぁ、本題。といった感じで更に身を乗り出す理恵ちゃん。
「なぁに?」
 教科書類を丁寧に机の中に押し込みながら、片手間に返事する。
「今日、君と一緒に登校してた彼、誰?」
 不意に、わたしの手が止まった。

 ……また、この子はストーカーみたいに人が登校するのを見てたみたい。
 正直、凄く気味が悪い。
 でもそんなことより理恵ちゃんの言葉が気になった。

「誰って、理恵ちゃんも知ってるでしょ?」
 その事でキョータくんを悪く言うんだから。
「え! なに? あたしも知ってる人!?」
「うん」
「嘘でしょ? あたしリストに未加入よあんなカッコいい人! 名前は? クラスは?」

「え……?」

 カッコいい人……?
 聞き慣れない理恵ちゃんからのその言葉に、瞬間、わたしは呆けてしまった。
 カッコいい? キョータくんが?
 そんなこと思うのは、わたしだけだと思ってた。
 キョータくんの格好良さに気付けるのは、わたしだけなんだ。わたしだけ特別だって。
 現に理恵ちゃんはキョータくんを馬鹿にしてたし、それでなくてもキョータくんを格好良いなんて
 言う子なんて知らなかった。
 その事に憤りを感じていたし、本当の魅力に気付かない可哀想な子達として哀れんでもいた。
 少しでもキョータくんの『本当』を知ったら良いのにと思ってた。
 なのに……。

「京太君……雨倉、京太くんだよ」
「…………は?」
「だから京太くんだよ。わたしの幼馴染。わたしだけの大切な人」
「え? だって眼鏡も髪型も体型も違うじゃない」

 どうして、こんなに……。

「同じだよ。あなたが、みんなが嫌ってる、ブタちゃんのキョータくん」

 胸が……。

「ちょっと見た目が変わっちゃっただけで、キョータくんを格好良いとか言うの
 止めてくれるかな?」

 苦しんじゃうの……?


[top] [Back][list][Next: お願い、愛して! 第6回]

お願い、愛して! 第5回 inserted by FC2 system