とらとらシスター 第19回
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 部屋で篭って思うのは、一昨日兄さんと姉さんが行っていた情事のこと。
 それについて沢山の疑問が浮かんできては私を苦しめ、それなのに答えを出そうとすると
 足早に逃げていく。まるで答えを出してはいけないとでも言うように。
 どうして、姉さんとなんでしょう。
 今まで私が兄さんを慕っていながらもそういうことを持ち出さなかった理由は至極簡単、
 あの人はふざけているときが多いから普通の人はあまり気が付かないけれども、
 驚く程のモラリストであるからだ。身内には多少甘くするけれども、それが他人、
 更には自分自身のことになると途端に厳しくなる。原因も憶測だけれど分かっている、
 私と姉さんが昔、兄さんと付き合う一歩手前だった女の子を病院送りにしたことがあった。
 そのときの事件から兄さんはその手のことに対して厳しくなり、
 狂信とも言えるくらいにモラルを重んじるようになった。
 二年経った今でもそれは変わっていないし、自分を責め続けているのはたまに寝言で
 あの人の名前を苦しそうに呟くから知っている。
 だからこそ、分からない。
 何故そんな兄さんが人と肌を重ねるようになって、しかもその相手が
 身内である姉さんだったのかが。今までの兄さんの行動からすれば、異常。その一言に尽きる。
 でも。
 絶望だけじゃない。 姉さんから仕掛けてきた可能性もある、
 と言うかその可能性の方がずっと高い。薄汚い
 あの淫売ならば、充分に考えられる。無理に襲ったのか、それとも別の方法を使ったのか。

 どちらにせよ許すことは出来ない、兄さんの純潔を奪った罪は三度死んでも尚足りない。
 私の使命だったそれを横から取ることは、それだけ重い。
 だからこそ私が助けたときには、これまで以上に私を愛してくれるだろう。
 その瞬間のことを考えるだけで、股間が熱くなってくる。
 今すぐにでも自分を慰めたいと思ったけれども、
 これからのことを考えると少しもったいないような気がして指が止まる。
 でも、熱いです。
 まだ兄さんは起きてないようだから今から少しだけしても構わないだろうか、
 それでもやはり濡らす役目は是非とも兄さんにしてほしい。私の小さな葛藤が
 心の天秤を大きく揺らし、不規則なリズムで思考を揺らしていく。
 日曜日は昼まで起きることのない兄さんの性格がこれ程までに恨めしいと思ったことはない。
 あの淫売のせいで疲れているみたいだから、もしかしたらもう少し遅くなるのだろうか。
 全く、姉さんは最悪だ。
 呼吸が乱れてくる。
 不意に、物音。
 姉さんは今進路のことで学校に居る筈だから、兄さんの部屋から聞こえてきたこの音は
 間違いなく兄さん自身が起こしたもの。それは兄さんが一日の行動を開始したことを
 示すものであり、私にとっては夢への第一歩を祝福する幸せな幻想曲の一節だ。

 胸が高鳴り、下着へと伸びていた指が止まる。危なかった、
 危うく自分でするところだったけれど何たるタイミング。
 これは神様からの掲示か、それとも私と兄さんの絆が起こした奇跡なのか。
 どちらでも良い、これはつまり私と兄さんに愛を育めということを示しているのだから
 結果的には何の変わりもない。
 体が尋常じゃない程に熱い、指先が震えて思考が朦朧とし、何も考えることが出来ない。
 これでこれからの交渉が上手くいくのだろうか、いや多分無理だろう。
 こんな状態で話を出来る程に私は強くない。大きく深呼吸をしても動悸息切れ不整脈、
 どれも巧い具合いに収まってはくれない。それどころか秒単位で強く激しくなっていき、
 とうとう目眛さえもしてくる。兄さんとの繋がりが現実味を帯びるというのは
 こんなに甘美なものだったのか、今なら納得はいかないけれど少し理解は出来る。
 あの頭の足りない雌豚は、この誘惑に耐えることが出来なかったのだろう。
 だから兄さんが犠牲になってしまった。
 理不尽ですね。
 姉さんの勝手なことのせいで清らかだった兄さんは汚れてしまい、
 そして少しおかしくなってしまったんだろう。本当の兄さんは、
 あんな馬鹿を相手に腰を振ったりなんかしない、もっと高潔な人間の筈だ。
 妹として毎日毎日飽きることなく見続けてきたのだから、間違いは絶対に無い。
 そうですよね、兄さん。

 何故か心の中に兄さんの笑顔が浮かんでこない。どうも最近コテツミンが不足している、
 いつからだろうと思い返してみれば答えは簡単で単純なものだ。
 あの泥棒猫が兄さんを横からかっ拐ってからだ。全く忌々しい、
 あんなクズはさっさと死んでしまえば良いのに。
 兄さんは青海さんを悪く言うと怒るけれども、きっと何か洗脳をされているに違いない。
 だから、私が兄さんを助けてあげないと。
 大丈夫です、もうすぐですから。
 目を瞑っても、やはり兄さんの顔は浮かんでこない。
 会いたい、今すぐ会いたい。
 指は、自然と下着に伸びていく。さっき兄さんに触ってもらうまでは自分で触らないと
 決めた筈なのに、自然に動いてしまう。でもこれで良いのかもしれない、
 どうせこのままだと上手く話も出来ないかもしれないし、そうなったら全てがおじゃんだ。
 ガス抜きをしてから行った方が冷静に交渉が出来る。
 言い訳を少しみっともないと思いながらも、指の動きは止まらない。
 兄さん、サクラは悪い娘です。
 誓いを破ったことよりも、兄さんの元へ行くことが遅くなることに申し訳がない。
 救いが今すぐにでも必要なのに、すぐに駆け付けてあげることが出来ないのは心苦しいけれど
 これもきっと必要なことだと諦めた。
 だって、兄さんの為ですから。

 目を閉じて、三度目になってようやく兄さんの顔が浮かんできた。
 それで、やっと調子が戻ってきたことを確認する。顔が浮かんでくればもうすぐだ、
 指の動きは自然と早く激しくなり、快感もより強くなっていく。
 もう一度兄さんの部屋から物音がしたことで隣に居ることが伝わり、一気に絶頂が来た。
 今まで何度も一人でしていたけれど、それらとは比較にならない程の、
 これまでで一番の波がやってきた。
 意識が真っ白になり、強い脱力感が体を襲う。
 数秒。
 幾分冷静になった思考の中に浮かんでくるのは、強い使命感。
 今の兄さんを救うことが出来るのは、私だけだという強い気持ちだ。
 姉さんなんかは、あてにならない。寧ろ、私の邪魔にしかならない。
 泥棒猫と同様に兄さんをたぶらかす端女は居なくても良いと言うより、居ない方が良い。
 兄さんの肌に触れて良いのは私だけだから例え家族でも許さない。
 姉さんは兄さんに触れすぎた。
 でも、それも今日まで。
 少し荒療治になるかもしれないけれど、それも兄さんの為を思えばこそ。
 最初こそ辛い思いをするかもしれないけれど、それも仕方のないこと。
 泥棒猫の毒牙にかかったり、乳ばかりの雌豚に抱かれているよりはずっと良いと思う。
 良い薬は口に苦いと言うけれど、ちゃんと体も心も治してくれる。
 その後に待っているのは甘く楽しい生活だ。未来の妻として、そのために頑張ろう。
 気合いは十分。
 深く、深呼吸。
 よし、大丈夫です。
 まだ幾分荒い気もするけれど、それでも呼吸などは大分落ち着いてきた。ギリギリだが
 話をする分には殆んど支障はないだろう。
「待ってて、下さい」
 私は立ち上がると、兄さんの部屋に向かうべく歩き出した。


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