とらとらシスター 第12回
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 玄関の扉を開き、私は一息吐いた。我慢が既に限界に達している体は熱り、呼吸が酷く
 乱れているのを感じる。友達と歩いていたときに我慢できていたのは、殆んど奇跡に近い。
 若しくは、普段から培っている精神訓練の賜だろうか。
 いや、今はそんなことはどうでも良い。
 靴を脱ごうとして、あまり力が入らずに膝から崩れ落ちた。その衝撃のせいか、
 熱くぬめった液が太股の内側を伝っていく。もったいない、と思いながら指先で掬うと
 口に含んだ。指の腹がなぞった部分が快感を呼び、更に蜜が溢れ出てきて廊下に垂れた。
 規則的に続く軽い音を聞いて、このままではすぐに限界を突破してしまうと思い立ち上がった。
 部屋まで、戻らないと。
 力の入らない足で歩きながら考えるのは、世界で一番愛しい兄さんのこと。一定の拍子で聞こえる
 液体が床を打つ音や、一歩踏み出す度に体に響く粘着質な液体が下着と擦れる音、
 そしてそれらの度に股間から伝わってくる快感でより一層心地良くなってきた。
 いつもよりも刺激が強いのは、やはりあの泥棒猫のせいだろう。あの姉さんと同じく、
 無駄に大きくてだらしなくてはしたないその乳で、悪しくも兄さんを誘惑した雌豚。
 その悪魔の手から兄さんを救い出せるのは、もう私しか居ない。今だってどんな破廉痴なことを
 しているか分からないし、創造したくもない。高潔な精神を持つ兄さんのことは
 信用しているけれど、それ以上の手法を使ってくるのが泥棒猫というものだ。

 憎い。
 兄さんも、早く帰ってくれば良いのに。
 つい玄関を振り向くと、私の軌跡を示す浅い水溜まりが点々と続いていた。
 後できちんと処理をしなければ、と思うけれども、まず先にすることがあるので
 自分の部屋に向かった。掃除は、その後でも十分だ。
 熱い。
 暑い。
 漸く自分の部屋に辿り着くと、重箱を抱えたままベッドに倒れ込んだ。皺になるのも気にせずに
 体を横たえ、重箱の包みをほどく。一分一秒寸暇を惜しみ、兄さんが使っていた箸を取り出すと
 迷わず股間に当てた。水気を含んだ布がたてる音と、兄さんの唇や舌が触れた箸の感触が
 脳髄の中に侵入してくる。更に快感を得るように割れ目に沿って動かすと、
 我慢していた声がとうとう漏れた。はしたないと思いながらも、しかし割れ目を擦る動きは
 止まらない。
 一度達した後、空の水筒の蓋を開いた。目的は一つ、兄さんの為のお弁当に入れる、
 最高の調味料の獲得。とめどなく溢れ出てくる蜜を指先で丁寧に拭うと、栓を抜いた水筒の中へと
 垂らしていく。何度も達しながらも暫くその行為を続け、念を押して普段の倍近い量を
 入れたところで止めた。本音で言うならば全て使ってしまいたいけれど、この後の本番では
 充分な量の液がないと辛いので苦渋の決断だ。唾液で水増ししているのが、心の底から口惜しい。
 本当ならば母乳も入れたいところだけれども、残念なことにそれは当分先になりそうだ。
 それにあまり直視したくない現実だけれども、私は胸がとても小さいから。

 夫を思いやる妻というものは、大変なものですね。
 兄さんに心で話し掛けると、誉めるように微笑んで返してくれた。今はあの雌豚の策略のせいで
 隣には居ないけれど、繋がっている心はいつもきちんと答えを返してくれる。
 私と兄さんの昔からの絆、勉強も運動も苦手で体の発育もあまり良くない私を、
 それでも愛でてくれた微笑みは、いつも私を潤してくれる。
 愛しています。
 兄さんに告げるように念じてから、やっと制服を脱ぎ始めた。靴下以外身に付けていない
 自分の裸体を見下ろすと、悲しい程に起伏がない。姉さんや雌豚のような下品な大きさは
 要らないけれど、それでももう少し大きくなってほしいと思う。兄さんも男性だから、
 大きい方が良いだろう。出来れば身長ももう少し高い方が良いのかもしれない。
 同じ殺虎の血筋を引いているのに、この差は何なのだろうか。
 溜息を吐いた後、丁寧に乳を揉み始める。今のところ効果は薄いけれど、
 いつか大きくなっていくために。
 数分。
 そろそろですか。
 私は箸を手に取ると、片方を股間の割れ目の中へとゆっくりと滑り込ませていった。
 中の粘膜を傷付けないようにゆるゆると掻き混ぜながら、奥へ奥へと侵入させていく。
 幕を破ってもらう人は兄さんと決めてあるから、僅かでも内部を傷付けないように、繊細に。
 兄さんの舌や唇、唾液が触れたものが私の中で擦れあい、体を侵食していく。それと同時に
 私の液が箸に染み込み、今度は兄さんの口の中へと入り込む。

 それを想像するだけで、更に体温が上がっていった。何て素敵な円環なのだろう、
 無駄がなくそこで完結している。誰にも壊されることのない、究極無比の不文律。
 奥まで辿り着いて一本目を差し込み終え、続いて二本目を手に取った。
 その細い先端を当てがうのは後ろの穴、軽く揉みほぐすように入口を数回掻き混ぜた後に
 ゆっくりと侵入させていく。前の穴もそうだったけれど、始めたばかりの頃は痛みしか
 なかったのに、今では動かすどころか差し込んでいるだけで快感が溢れてくる。
 足りない、まだ足りない。
 差し込んだままゆっくりと回転させ、中の壁にまんべんなく擦り付ける。余すところなく、
 全体に、まぶすように、少しも残さないように念入りに。粘液と箸が混ざりあい、
 お互いに染み込んでいく度に快感は比例するように増していき、幾らも経たない内に
 達してしまった。前から後ろから伝わる余韻が快い。箸が細長く二本一組であるのは、
 まさに神様の慈悲なのだろう。愛する人の体に比べると少々物足りないのも、きっとそうなのだ。
 それでも、達してしまうことも。
 ふと、考える。今回も気持ちが良かったけれど、いつもよりも時間が短かった。それはやはり、
 兄さんがこの家に居ないからだろうか。
 寂しさからか、溜息が出てきた。
 あまり遅くはならないと言っていたから、夕飯の前には戻ってくるだろう。
 腕時計で時間を確認してみると、夕食を作るまでには若干の余裕があった。

 まだ後一回は出来そうだ。

 そういうことですか、神様も粋ですね。
 つまりは、兄さんが居ないことの埋め合わせをするように時間を空けてくれた。その分、
 愛を育てなさいということだろう。昔の歌にもあった、会えない時間が愛を育てるという言葉も
 今なら少し意味が分かる。兄さんの顔を思い浮かべると、やはり私と同じことを
 考えていたらしく、微笑んで頷いていた。
 今兄さんも、私との愛を育てている。
 きっと、そうだ。
 そうに決まっている。
 考えている間にも、指は自然と動いていたらしい。粘着質な水気のある音が鼓膜を震わせ、
 割れ目から溢れた愛液のせいでシーツには水溜まりが広がっていた。
 もったいないですね。
 兄さんが少し怒ったような表情をする光景が見えて、申し訳のない気持ちになった。
 こうなるのならば、もう少し多目にとっておいても良かったかもしれない。次からは、
 気を付けないと。大切な人のためとはいえ、結構大変なものだ。
 でも、苦にはならないですよ。兄さんのためですから。
 そう語りかけると、兄さんは再び微笑んだ。その表情を見て今日何度目かも分からない
 絶頂を向かえ、ぐったりと横になる。
 ゆるゆると視界をずらして時計を見ると、もう良い時間になっていた。
 愛する兄さんに料理を作る、先程の自慰行為と並ぶ至福の時間の一つ。
 気だるい体に鞭を打ち、みだしなみを整え、重箱や水筒、何より大切な兄さんの箸を持って
 立ち上がる。
「愛して、います」
 今までのそう長くない人生の内に、内外で何度呟いたか分からない言葉を吐いて、
 私は歩き出した。


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