とらとらシスター 第7回
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 わたしはバイオリンの稽古が終わったことに安堵して、部屋に戻った。時計を見ると、
 時刻はもう深夜を示している。慣れきった稽古にもうんざりだが、それよりもこんなに時間を
 取られたことに怒りを覚えた。折角の個人の時間をこんなにも奪うなんて。
 荒れる心を鎮めるために、部屋の中に視線を移す。そこに居るのは、等身大の彼だ。
 親の金を使うのはあまり好きではないし、それだけで心が汚れていく気がした。
 それは勿論必要最低限のものは必要だし、半分強制的ではあるが与えられる衣服や食事、
 アクセサリなどは受けとるけれども、それもあまり好きではなかった。
 だけれども、それは少しずつ変わってきている。
 その証明が今目の前に居る彼と、先程終えてきたバイオリンの稽古だ。
 彼、正確には寸分違わぬ彼の模型だけれどそれに向かって立つ。彼に微笑みかけて優しくキスをすると
 バイオリンを構えて弓を持ち、静かに演奏を始めた。習い始めたばかりだが幸運にも
 私との相性は良かったらしく、それなりの腕前になってきている。私の奏でる音を
 静かに聞き入ってくれているのが嬉しく、弦の震えも指の運びもこれまでで最高の状態になっていた。
 これを始めたばかりの頃は嫌気が差したものだけれど、上達してくればとても楽しい。

 きっかけなど些細なもの、友達の言葉一つだ。
 音楽の授業時間、虎徹君がバイオリンを美しく弾いていた。その言葉を聞いて同じ土台に
 立ちたくなり、稽古を始めた。人とは不思議なもので、そうなると興が乗ってきて部屋は彼の毛髪や
 使用済みの道具で溢れかえってしまった。ついには等身大のフィギュアなども作らせてしまい、
 自分でも呆れた程だ。
 しかし、後悔はしていない。
 問題はどんなお金をどれだけ使ったかではなく、どのように使ったか、だからだ。
 今ではあまり躊躇いもなく親の金を使うようになってしまい、そのことには少し心が痛むものの、
 それ以上の幸福がそれを拭いさってくれる。
 彼のため、わたしのため。
 問題は無い。
 わたしは彼を愛している。
 愛とは崇高なもの。
 だから、この使い方は絶体に間違ってはいない。
 いけない。
 彼のためだけに演奏をしていたつもりだったのに、余計なことを考えてしまった。そのせいで
 少し音がぶれて曲が少し狂ってしまった。自分のことながら情けない。
 数秒。
 許してくれるだろうかと思って彼を恐る恐る見てみると、演奏前と変わらぬ優しい表情をしていた。
 そのことに安堵をして、再び演奏を開始する。今度は何の雑念も挟まない、本当に彼だけのための演奏。

 数分。
 わたしは曲を弾き終えると、彼の手を取ってベッドへとなだれ込む。ここから先は、
 彼とわたしの至福の時間。一日の締め括りを飾る、最高の瞬間だ。
 まずは、熱いキス。
 強引に舌を割り込ませると、乱暴に彼の口内と舌をむさぼった。それだけで心臓が異常に跳ね上がり、
 自分の股間が湿り気を帯びてくるのが分かる。こればかりは何度行っても慣れてくるということは
 ないだろう、寧ろ行えば行う程に濡れやすくなってきている気がする。はしたないと思うよりも、
 これが愛情の深さだと思う。そう考えると、更に嬉しく愛しくなり、行為の勢いも激しくなってくる。
 口からだらしなく漏れてくる唾液と嬌声も気にせず続けること数分、わたしは口だけで
 軽く絶頂を迎えた。息や鼓動が激しく乱れているが、そんなのには構っていられない。
 大事なのは、これから。
 わたしは意外に厚い胸板に顔を埋めると両足で太股を挟んで、熱くぬめる股間を擦りつける。
 荒れ狂う快感はそれだけで麻薬のように思考をとろけさせて、腰の動きを激しくさせた。
 不意に来た撫でるように髪を鋤く掌の感触が快くて、只でさえ激しくなっている動きを
 更に加速させた。 絶頂はすぐに来た。
 先程とは比べ物にならない程の快感に、虎徹君に覆い被さるように崩れ落ちた。
 擦りつけていた彼の太股を軽く指でなぞってみると、かなりの量の愛液が付いていた。
 下着越しであるにも関わらず付着したそれ程の量に、自分の濡れやすさを実感する。

 本当に、はしたない女だ。
 やや自虐的に思いながら体を丸めて、彼の太股を舐めた。独特の味がするぬめりを口に含むと、
 彼に口付ける。わたしの唾液と共にそれを流し込むと、言いようのない幸福感が湧き上がってきた。
 思考のほぼ全てを浸食するそれは、まるで毒だ。
 なんとなく時計を見た。正確には、腕時計が巻いてある彼の手首を持ったときに
 視界に入ってきたのだけれども。
 深夜二時。
 もう結構な時間だ。次で終わりにしようと思いながら、パジャマを脱ぐ。寝る直前だったから
 ブラは着けておらず、下半身の一枚を脱げばもうほぼ全裸だ。ほぼと言うのは靴下を
 着けているからで、最近はこのような姿ですることが多い。彼の何気無い一言を小耳に挟んでから
 始めたもの。最初は珍妙だなと思って始めたものの、姿見に映した自分の姿を見たときに納得し、
 驚いた。扇情的と言うのか倒錯的と表現するのか、妙な色気がそこには存在した。
 特に彼の好みだという膝上の長さのものは、自分でも気に入った。
 君はこんなことも教えてくれるのだな。
 心の中で小さく呟いて彼にキスをすると、残りの下着に手をかけた。ゆっくりと下ろしていくときの、
 絹が滑らかに肌を滑る感触が心地良い。僅かな衣擦れの音と共に聞こえる粘着質な水音に
 目を向けると、愛液が長い糸を引いていた。

 荒い息を吐きながら今日何度目かになるキスをすると、彼の手を股間の割れ目に持っていく。
 指先が触れただけで軽く達してしまったが、満足を出来ずにその指を膣内へと滑り込ませた。
 中を指でかき混ぜてもらいながら親指で淫核を撫でられると、それだけで頭が狂いそうになった。
 少し恥ずかしいが、もう片方の手を尻に持っていく。撫でられ、やわく揉まれ、
 ついには穴の中へと指が侵入するともう何度目だろう。絶頂に至り、キスをする。
 行為の最中はずっと続けていたせいで、彼の口元は唾液にまみれてどろどろになっていた。
 きっとわたしも同じような状態だろう。
 わたしは笑みを交したあと指で軽く彼の口元を拭い、その顔に跨った。唇が触れただけで
 軽く達したが、ここで止める訳にはいかない。ゆるく擦りつけながら両手で胸を揉み、突起をこねる。
 彼の鼻で淫核を刺激され、唇や舌で股間の割れ目をついばまれる。彼の手は尻をいじり、
 五点から与えらる快楽で何度も絶頂を迎えた。
 ぐったりと彼の胸に崩れ落ちる。
 下着を脱いだあと一度だけと決めてしまったのに、結局何度もしてしまった。虎徹君が関わると、
 何もかもこうなってしまう。理性の箍が外れ、歯止めがきかなくなる。人を好きになるというのは、
 多分こういうことなんだろう。
 念のために虎徹君の顔色を見てみると、いつもと何も変わりのない優しく穏やかな笑顔。
 そのことに安堵をすると、彼の胸に頭を埋めた。広くて温かいこの居場所は、
 何物にも代えがたい安堵と幸福感を与えてくれる。今日だけで何度思ったかも分からない、
 わたしの心の言葉。
 寄り添って寝そべっていると、急に睡魔が襲ってきた。時計を見ると、もうかなり遅い時間を示している。
「おやすみなさい」
 わたしは彼にキスをすると目を閉じた。


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