生きてここに… プロローグ 第5章
[bottom]

料理はなかなかのモノに見える
手をつけようとしたが高田さんが咳払いをしている
まだ・・・・だめ?
「主役が来ていないのですよ?まだ我慢です」
言ってもいないのに答えてくれた
すごいなこの人・・・・
俺は退屈になって大きな窓をまたいで外に出た
プライベートプールのある庭に出ると俺は手に持った若干大きな袋を地面に置いた
「・・・・・・」
こういうパーティーはもう何度目だろう?
多すぎてわからないよ・・・・まったく
会場の方を見てみる
知っている人が大勢だ
みんな暇だな
俺も・・・・だけど
「じ〜ん・・・・・ちゃん!」
後ろから飛びつかれる
そして首に両手を絡めてしっかりと抱きついてくる
「・・・・・う」
背中の感触・・・・・に俺は一瞬戸惑った
冷静に・・・・冷静に・・・・だ
「ちゃんはやめろ」
「仁ちゃんは・・・・仁ちゃんだよ」
身体は離れていくのを感じた
振り返ると俺は一瞬にして時間が止まったような錯覚を覚えた
「え、へへ・・・・どうかな?」
クルッと回転してピンクの綺麗なドレスを見せてくれる
肩ほどまでの髪がひらっと舞う
ドレスを着るとまた違った印象を受ける
女の子らしい容姿の彼女は普段着もそんな感じだが
今はうっすらと化粧を施して綺麗なドレスを着てる
「・・・・・っ」
思わず声が出てしまった
もしかして・・・・奈々さんはあと数年したら化けるかもな
数年どころか今も・・・・充分
何を考えているんだ俺は
美人を見慣れてる俺でも一瞬目を奪われてしまった
やるな奈々さん・・・・

「な〜に、赤くなってるのかな〜?」
からかいがちに顔を近づけてくる
どうやら中身はそう簡単には変わらないらしい
「ほら・・・・お望みのものだよ・・・・お姫様」
適当な感じでそれを渡す
ごまかした感がするがこれはいつも奈々さんがやってることだ
文句は言わせない
「・・・・・?」
奈々さんは一瞬きょとんしたがすぐにハッとして袋を破っていく
破るのかよ・・・・その服で・・・・まったく
「おぉ〜!ボクシンググローブだ!」
高らかにボクシンググローブを空に向けて大げさにリアクションする
すぐに頬にすり寄せる
なにをしたいのか・・・・まったく
「ありがとう〜、ありがとうだよ〜・・・・」
今度は泣いている・・・・コロコロと表情が変わるな
やっぱりどうしても詩織と比べてしまう
悪いとは思いつつも・・・・
「あ、そうだ・・・・これ」
なぜか俺が渡した袋と同じくらいの袋を渡された
「なんだこれ?」
「開けてみんさい・・・・」
奈々さんと違って俺は丁寧に袋を開けていく
中身を確認・・・・・
「じゃじゃ〜ん!新しいボクシンググローブ!」
胸の前で両手を合わせて声を張り上げる奈々さん
これって・・・・まさか!
「俺が前から欲しいって思ってた・・・・」
前にぼんやりと見ていたカタログの目に止まった物だ
まさかあれを見てたのか?
でも数ある中でこれを選んだとは思えない
俺がこれがほしいと知っていたんだ
目の動きだけでわかるなんて・・・・すごい洞察力だな
「仁ちゃんのことならなんでもわかるよ」
どうやら俺は顔に出てしまうらしい
以後気おつけよう


[top] [Back][list][Next: 生きてここに… プロローグ 第6章]

生きてここに… プロローグ 第5章 inserted by FC2 system