生きてここに… プロローグ 第4章
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どうしよう!
まだドレスが決まらない
一番大事な人を呼んだんだよ?
半端なものは着れないよ
でも・・・・・どれもいまいち
もう時間が・・・・当に過ぎている
トントン
ノックされた
「まだで〜す」
「時間なんてございません!」
強い口調のお手伝いさん
これはワガママ言ってられないかな?
「すいません、着替えを・・・・手伝ってくれませんか?」
数秒置いて「お邪魔いたします」とお手伝いさんが入ってきた
お手伝いさんは散乱するドレスを見て呆れがちに肩をすくめた
私は結局一番のお気に入りのドレスを選んだ
手早く着付けを始めるお手伝いさん
「いつもは着るもので迷ったりしないのに、どうしてかしら?」
くすくすと笑みながら前に回ってくる
私より人生経験の豊富なこのお手伝いさんの女性はなんでもお見通しのようだ
「お化粧・・・・してみますか?」
私は力強くうなずいた
するとお手伝いさんは待っていましたとばかりに化粧道具を取り出した
手際よく化粧が施されていく
少しは綺麗に見えるかな?
喜んでくれる?仁ちゃん・・・・
子供が化粧してるって笑うかな?
それはないか
だって仁ちゃん、いじわるも言うけどデリカシーに欠けることは言わないものね

「自信を持ってください、あなたはとても魅力的な女性ですよ」
自信か・・・・でも、どうしても詩織さんに対しては
あの人以外なら?でも基準はどうしても彼女になってしまう
もしかして勝つ必要ないのかも
そうだよ、私は私だもんね
いくら願っても彼女にはなれないし
なれたとしてもごめんしたい
私は私なりに仁ちゃんにアプローチしてみよう
準備が終わり私は勇んで立ち上がる
不意に窓の下に仁ちゃんを見つけた
なんか・・・・正装してると別人みたい
もちろん仁ちゃんはなにを着ていても似合うけど
なんかどこかの国の王子様・・・・
と、思ったらやる気なさげに持っていた袋を置いてため息を付いている
少し不真面目なんだよね・・・・仁ちゃんは
でもね、ボクシングをしている時の仁ちゃんはとても真剣な目をしている
その瞳に何度も吸い込まれそうになった
試合は正直・・・・こわい
仁ちゃんが殴られる度に目を閉じてしまいそうになる
でも、勝った時のあの表情は言葉では表せないほど充実感に満ちている
私は自然と笑みを浮かべていた

私は部屋に置いてあった袋を持つと駆け出して階段を降りる
そして人ごみを通って行く
途中私の存在を気づかれたが私は気にすることなく駆けていく
後姿を確認して深呼吸する
意を決し声を掛ける
「じ〜ん・・・・・ちゃん!
いつものようにそう声を掛け仁ちゃんの背中にダイブ!
しっかりと首に手を回して絡める
ああ、幸せ・・・・
いけない、いけない・・・・これじゃあ、仁ちゃんが困ってしまう
「ちゃんはやめろ」
私は渋々ほんとに渋々と仁ちゃんから離れた
「仁ちゃんは・・・・仁ちゃんだよ」
いつもどうりだね?
でもね私って意外とめざといんだよ?
仁ちゃんってば頬をかくふりして赤くなってるの隠してる
「え、へへ・・・・どうかな?」
回転してみせる
私だってやればできるんだよ?
どう、女の子らしいでしょ?
お・・・・今度は隠せないよ
真っ赤かだ
でもついカワイイなんて口にはしないよ
だって男の子なんだもんね・・・・私ってそういうのわかってるよ
「な〜に、赤くなってるのかな〜?」
仁ちゃんは顔を背けてぶっきらぼうに袋を手に持って私に渡した
「ほら・・・・お望みのものだよ・・・・お姫様」
お姫様だなんてそんな・・・・
いけない・・・・・いけない
私はすぐにそれを受け取ると袋を破って中身を確認する
「おぉ〜!ボクシンググローブだ!」
ああ、やっぱりやさしいね、仁ちゃんは
私ね仁ちゃんがこれをくれるなんて思ってなかったよ
だからね、期待しないで待ってたの
だって、一番大事なものだよね?
一緒にずっと戦ってきたんだから
一番輝いている仁ちゃんが身に着けているモノ
すりすり・・・・仁ちゃんの匂いだ
胸がいっぱいだよ
「ありがとう〜、ありがとうだよ〜・・・・」
泣いているのを自覚しているけど・・・・
いいよね?

本当にうれしいよ・・・・ああ、そうだお礼にって買っておいた
「あ、そうだ・・・・これ」
私はいま思い出したかのようにそう言って仁ちゃんに袋を渡した
仁ちゃんは不思議そうに袋を見ている
「なんだこれ?」
「開けてみんさい・・・・」
驚くよ?好感度アップだよ?
ほら、早く開けてみてよ
絶対にビックリするから
なんだか私の方がわくわくしてるみたい
でも好きな人の喜ぶ顔ってなによりも嬉しいんだよ?
中身が私にも確認できた
よし今だ!
「じゃじゃ〜ん!新しいボクシンググローブ!
どう?ビックリしたでしょ?嬉しい?
「俺が前から欲しいって思ってた・・・・」
そうなのです、私は仁ちゃんのことに関しては鋭いのです
前に一度仁ちゃんがぼんやりと見ていたカタログ
こっそり後ろから見てみると
その視線はある一点に集中していた
青と白のカッコいいやつだ
ちゃんと心も込めたよ
だってそのグローブはね
私が自分で探して買ったんだから
お金もね、お手伝いさんのお手伝いしてお小遣いという感じで貯めたものだよ
仁ちゃんを見つめる
ああ、喜んでる喜んでる
よかったな〜♪
私にとってはこれが最高の誕生日プレゼントだよ
仁ちゃんも私を見つめる
いやん、照れるな・・・・
あれ?私のこと不思議そうに見てるだけ?
ああ、そうか・・・・どうしてわかったのか・・・・でしょ?
だってわかるよ
ずっと見てるんだから
あなたのこと
「仁ちゃんのことならなんでもわかるよ」
ね、仁ちゃん・・・・


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