義姉 〜不義理チョコ パラレル〜 第9回
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『モカ』

 ――かかってこない、かかってこない。せっかく今日のお昼教えてあげたのに。
 思わせぶりに言ってるだけじゃわかんないタイプかな。
 ちゃんと「士郎君の電話番号知らないからそっちからかけてね」って言わないと。
 んー、こっちからグイグイ押していかないと駄目なタイプかな、やっぱり。
 こっちから電話かけちゃおーっと――って、私まだ表向き士郎君の携帯番号知らないんだった。
 こんなことなら普通に番号交換しとけばよかったかな。
 もどかしい、もどかしい。足がバタバタ布団を叩く。
「うー、寝よ……」

 

 いつもより少し早く起きたから、少し早く家を出てみた。早起きするといいことあるもんだね。
 駅前にて士郎君発見。
「おっはよー!」
 一気に駆け寄り背中を叩く。
「――!」士郎君の全身に電流が走ったかのように跳ねた。
 あれ? そんなに滅茶苦茶強く叩いたつもりないんだけどな。
「あ……あの、おはようございます……」
 声、顔を見てみると、なんだか元気が無い。
「前にも言ったけど、私でよかったらいくらでも悩み事の相談にのるよ」
 頭を撫でてあげながら、よく見ると震えている。悩んでいるっていうより怯えている感じすらする。
 ああ、私よりずっと体大きい筈なのに、なんだか小動物みたい。このままギュッとしちゃたいぐらい。
「――いや、別に人に話すようなことじゃ……」
 昨日の夜に怖い映画でも見たとか?
 後で涼子からそれとなく聞こうかな。

「おは……」
 朝の教室にていつも通り涼子に挨拶しようとしたけど脊髄がそれを止めた。
 オーラが出ている。強烈すぎる苛立ちと不快感をあらわにしたオーラ。
 こういう時は近づいちゃいけない。物心ついた頃から一緒に遊んでいる私の経験上
 このオーラが見えたら近づかない、話しかけない、話しかけられても無難な相槌ぐらいで済ませる。
 そうしないと寿命が縮む事になる。
 こうなったら最低でも三時間、最長記録で一週間近くこの状態が続く。
 この前の彼とは結局上手くいかなかったんだろう――相手は知らないけど。
 士郎君の事聞きたいんだけどこの調子だと聞けないな。

 

 昼休みになっても士郎君の調子は相変わらずだった。あんまり話してくれないからちょっと寂しい。
 普通怖い映画みたからここまで怖がるかな? 直後ならまだわかるけど、映画とかなら
 ここまで後引かないでしょ普通。
 涼子の八つ当たりの対象になったとか?
 これは同じ家で過ごしている分その辺の対処法についてはなれてそうな気がするけど。
 士郎君の目が私の腰やら胸やらに来ている。私と目線が会った瞬間慌てて目線を逸らした。
 んー、そういう事か。それならそうとズバーっと、ズバーっとアタックかけて来てくれてもいいのに。
 ほんと恥ずかしがり屋さん。
 試しにちょっと士郎君との距離を詰めてみる。士郎君は少し離れようとする。
 やっぱり楽しいなこういう反応。

 士郎君のそんな様子は数日続いた。それからしばらくして吹っ切れたというか、なれたというか、
 開き直ったというか、とにかくよくわからないけど結構調子は戻ってきた。
 自分から私に頼ってこなかったのはちょっと寂しかったけど。
 ちなみに涼子のオーラは引っ込みがつかないまま。むしろ増大している傾向あり。
 よくも悪くも現状維持。
 ――いや、実害はないんだろうけど一つ困ったことがある。
 彼女――士郎君と同じクラスの三沢さん、中庭で時々こっちを見てくる。
 その目で士郎君は困った表情になる。
 彼女の顔を見ていると何となくわかる。ああいう子は放っておくと胸の奥に色々と溜め込んで
 腐らせていくタイプ。本当は言いたいことあっても口を噤んでしまうタイプ。
 実際に以前廊下などで私に会った時に何かを言いかけて止めている。
 直ぐにどうこうって訳じゃないけど、士郎君は苦手っぽいし、それとなく避けといた方がいいかな。
「明日から屋上とか行ってみようか」

 

「……あの……いいですか」
 ある日廊下で呼び止められた。
「――士郎とはどういう関係なんですか……」彼女、三沢さんは今にも噴出しそうな色んな物を
 押さえ込みながら声を出していた。。
 はあ、動き出したか。一応放っておいても直接的な行動には出ないと思ってたけど、ちょっと計算外。
「多分見たままだと思うけど? 少なくともあなたよりは付き合い長いと思うよ。
 彼の家には何度も泊ったことあるし」別に前もって練習したわけでも考えていた訳でもないが
 口はすらすらと言葉を並べていた。
 嘘はついてないもんねー。士郎君はこっちに来て間もない頃から知っているし、
 涼子の家は士郎君の家でもあるからね。
 彼女は顔を俯け、両手をギュッと握り締め息を止め体を小刻みに震わせている。
 ほんと今にも泣き出しそうな顔。どこまでの関係だったかは知らないけど早く忘れて
 新しい恋でも探した方がいいよ、本当に。まあもうちょっと違う状況なら両者の背中押すぐらいは
 してあげてたんだろうけど。
「他に用がないのなら私もう行くけどいい?」
 返事はない。彼女は全身を振るわせたまま黙り込んでいる。
 その沈黙を返事とし私は再び歩き始めた。

 彼女から見えなくなった所で深呼吸。
 わざわざ私の方に聞きに来た、それに「私達は付き合っている」とか言ってこない事から
 未だ士郎君と上手くいっていないのは確かだ。
 でも何となくあの子無視し辛くなってきたな。士郎君とはもうしばらく程よく生温い感じの
 友達以上恋人未満の微妙な関係楽しんでいたかったのに。
 私から言っちゃおうか、もう思い切って。本当は向こうから告白してくれるのが
 一番よかったんだけどなー。

「士郎君の場合『それとなく』じゃ駄目だよね。ダイレクトにいかないと」
 決行は今週末。頭の中でどうやって行こうか作戦をめぐらせていた。


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