義姉 〜不義理チョコ パラレル〜 第10回
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『智子』

 前言った事全部忘れていいから――
 さっきかかってきた電話の言葉。
 どういう意味なんだろう、ついこの間付き合わないかって言われたのに。
 最近士郎と仲良くしている二年の人――恋人には別に私じゃなくて誰でも良かったのかな。
 なんであの時おいかけてでもちゃんと言うべきだったのかな。
 明日からなんて顔して会ったらいいんだろう。
『あの時私に言ってくれたことは何だったの?』
 そうメールを打とうとしたが全部消した。
『私達友達だよね? 私はまだ好きだから――』
 「好きだから」の続きを書こうとしたら指先が震えて何を書いていいのかわからない。
『私達友達だよね?』
 その文だけが残った。これを送ったらどうなるんだろう。怖い――
 その日は泣きながら眠った――
 結局メールは送れなかった。

 

 秋に落葉樹の下で掃除をすること程馬鹿げてるとしか思えない行為はない。
 掃いても掃いてもすぐに新しく落ちてくる。そのせいもあってか今掃除当番はもっといるはずなのに
 私を含めて二人しかいない。
 イノは動きを止めている私に目もくれず黙々と箒を動かしていた。
「ねえ、イノ、話あるんだけどいい?」
「いいけど」イノはこちらに向かず手を止めることなく返事をしていた。
「……あのさ、男の人って付き合ってくれるなら女の子って誰でもいいのかな?」
「俺の事知ってて言ってる?」ようやくこちらを向いたイノは苦笑していた。
「あ……ごめん……」
 忘れていた。彼が田中と昔付き合っていた事。そして今でも好きだと言う事。
「……よかったら教えてくれないかな、詳しく」
 知りたい。別れた相手だというのに何事もないかのように親しい友達として振舞っていられるのか。
 イノは少し考え込んで頭をかいていた。普段顔に出していないだけやっぱり気にしていること
 なのかもしれない。
「ごめん、言いたくないんだよね、やっぱり――」
「まあ、隠す程のことでもないから」
「中一の秋にあいつと同じ学校に転校して、あいつと隣の席になって、その日のうちに
 ワイワイ言える仲になった。まあ、あいつあんな性格だから誰だってそうしてたんだろうけど、
 初めての転校でうまくやっていけるか緊張してた俺には随分助かった。
 あいつのおかげで直ぐ友達できたしな」
 そういえば私が士郎と遊ぶようになったのは彼女に誘われるままついていったら、
 あいつが居たからだった――
「それから一緒に遊んだりしてて、中二の春ぐらいからこいつのこと本気で好きなのかなって
 思うようになって。二学期に駄目元で告白したら二つ返事でOKだった」
 笑っていた。前から思っていたがやっぱり笑い顔が様になっている。
「うん、それで――」
「女の子と付き合ったのなんて初めてだから何から何まで緊張しっぱなしで――変だろ?
 ついこの間まで一緒に遊んだり話していたりしてたのに。
 俺なりに精一杯気を使ってみてたんだけど、それがあいつには気に食わなかったらしくて、
 ある日友達に戻ろうって言われてな。あんたとはもっと自然体でいたいとか言われて――
 こっちは本気だったから一時間以上くらいついてたけど結局別れた……」
 そこまで言って一旦言葉を止めて空を見上げていた。
 泣いているのかな? やっぱり思い出すと辛いのかもしれない。
「友達に戻ろうって言ったって前みたいに話せるわけないと思ってたのにな、次の日学校で会ってみたら
 何にもなかったように挨拶してくるんだよ? 傑作で友達の中には数ヶ月たってもまだ 付き合って
 いるものだと思っていた奴がいたぐらいだよ……まあ、なんだかんだ言って未だに普通の友達やってる」
「イノって強いんだね……」
「――全然そんな事ない。ふられると胃薬が必要になるような神経細い奴だからな。
 今のところ告白は二勝四敗、またそのうち気が変わるかもって何処かで期待してて、
 それまでは友達でもいいかなって。……まあ良くも悪くも微妙な関係なんだけど」
「……そうなんだ」

 震える指先で未送信になっているメールを送った。
 激しい動悸を抑えながら返信を待っていると『友達だよ』と一言だけ帰ってきた。
 ――何故だか泣いた。

 返信はあったがそれっきり、それから学校で会ってもお互いおどおどして話せない。
 どちらからとなく避けている。
 前みたいに一緒にお昼を食べれない、士郎はいつもあの人と食べている。
 ――イノ、あんたやっぱり強いよ。

「……あの……いいですか」
 彼女――二年の先輩との関係は勘違いかもしれない。
 そんな僅かばかりの望みの元に勇気を出して廊下で偶々見かけた彼女に声をかけていた。
「――士郎とはどういう関係なんですか……」
 その言葉を吐き出すだけで心拍数が上がる。只の友達、従姉、そんな返事を期待しつつ、
 別の返事が返ってくる恐怖に怯えながら彼女を見つめる。
「多分見たままだと思うけど? 少なくともあなたよりは付き合い長いと思うよ。
 彼の家には何度も泊ったことあるし」
 彼女の方が背が低い事もあってか、自然と見下ろす形になっている筈なのに向こうの物怖じしない態度
 こちらが見下ろされている感じすらする。
 家に泊った――小学生じゃないその言葉の意味ぐらいわかる。
「他に用がないのなら私もう行くけどいい?」
 もう何も言える訳がなかった。
 ――全身が震えていることに気づいた。


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