義姉 〜不義理チョコ パラレル〜 第5回
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 姉弟ゲンカだった。
 お菓子の取り合いという極めてよくあるの理由で。
 手が出れば勝者はほぼ間違いなく確定する。
 ただ、この日は先に母の雷が落ち、ケンカ両成敗となった。
「いいかげん仲良くしなさい」母が言った。
 しぶしぶ姉は弟に「あんたの事好きになるように努力するから、あんたもしなさい」と言った。
 弟は頷きながら、「好きになる努力って何だ?」と思った。

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 ベッドの中に入り込んでだいぶたつが混乱したままだ。
 頭が中でぐるぐる回る。
 そういう関係があったのに姉ちゃんは何一つその事に関しては言ってこなかった。
 なんでそういう事あった後平気な顔していられるんだ。オレが子供なだけなのか?
 それとも姉ちゃんも酔って忘れていたのか? あの状況だ、少し考えれば簡単にわかるに決まっている。
 最近ある種の感情を姉に対して僅かばかりだが抱き始めている。
 それを自覚してしまうのが怖かった。姉は異性である、女であることを。
 その感情を肯定されているともとれる行為があった。
 明日の朝からどんな顔をして話せばわからなかった。

 結局その日は外が白くなってくるまで寝付けなかった。

 

「そろそろ起きないと遅刻するよ」
 誰かに布団越しに蹴られた。
 被っていた布団を無意識で跳ね除けていた。
 ――そこにいた。
 いや、起こされたのだから、いなきゃいけないのはわかっている。
「い、いや、別に――」
 オレは姉ちゃんの顔を直視できなかった。

 

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『涼子』

 シロウが私に対する目つきが最近少し変わってきていることに気づかない程私は鈍感ではない。
 男の子からこういう目線を送られたことは今まで何度もあった。
 しかし弟から送られてきたのはつい最近のことだ。
 理由は大体検討つく。初めての相手だからってことだろう。
 今朝など初めて家に来た日のように酷く落ち着いていない様子だった。
 禁断の関係? 馬鹿げている。
 でも、シロウのことだ、どうせ胸の奥に閉じ込めたまま終らせてしまうだろう。それでいい。
 だから私もあえて口に出して警告を促すようなことはしない。
 そんなこと口にしたらよけい意識してしまうから――

 

「そういえば、モカって急に付き合い悪くなったけど男でも出来たの?」
 昼休みに先週あたりから昼には必ず姿をくらますようになっていたモカを教室から抜け出す前に
 捕まえてみた。
「んー、ま、まあ似たようなところかな」
 少し歯切れの悪い返事。なんだ隠しておきたい相手か。
「で、相手誰よ? 紹介しなさい」言いたくないのをわかりつつ聞いてみる。
「いや、まだ付き合っているとかそういうんじゃなくて、ちょっといい感じってレベルで。
 あ、うん――涼子も知っている相手だから心配とかそういうのしなくていいよ」
 誰だろう? 同じ学校の奴か中学の時、もしくはバイト先の人間か。
 でも最近いい感じになったのって誰かいたっけ?
 そんな事に思考を巡らしている間にモカはそそくさと教室から逃げ出していた。

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『モカ』

 セーフ。あの感じだと士郎君とは話してもいなければ気づかれてもいない。
 涼子って時々滅茶苦茶勘が鋭くなるから冷や冷やしたよ。
 いや、まあばれてもいいけど、友達の弟ってちょっと恥ずかしいかなって。
 それに話すならちゃんと付き合いだしてからでも遅くないかな。

 いつもどおり、士郎君は中庭にいた。
 でも、さすがに二度目になると後ろから突如頭撫でるだけでは反応が薄い。
 もう少しインパクのある登場のしかた考えてないとな。
 そんな事を考えながら士郎君の顔を見ると少し元気ない。
「何か悩んでいる? 前にもいったけどドーンと相談してきなさい」
 士郎君の前だと体は小さいけどお姉さんぶって行動しているな、私。
「いや、別に――ただの寝不足です」
 ふむ、それなら私がしてあげる行動は一つだ。
「ヘイ、カモン!」私の太ももを軽く叩いてみせる。
「へ?」
 この顔はわかってないな、私が言いたいこと。
「ほら、膝枕してあげるって言ってるの」
「い、いいですよ、そんなの……」
 ちぇ。恥ずかしがっているのはいいけど、少しぐらい「じゃ、じゃあ……」なんて言いながら
 甘えてくれたらもっといいのに。
 まあ、ライバルが居る訳でないから、慌てず急がす程よく恋は進めていこうか。

 

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『智子』

 ――放課後はダッシュで追いかけろ私、
 今日も今日とて士郎は私避けているし、私も臆病になって中々言い出せない。
 このままだと、この状態のまま数ヶ月が過ぎてしまいそうな気すらする。
 だから今後こそ勇気だす。がんばれ私。

 本日最後の授業が終ると駆け足気味で士郎は教室を出て行った。
 よし無理矢理捕まえてでもちゃんと言うんだ。
 でも――無理矢理捕まえちゃったりしたら嫌われるかな……
 あ、そんな事考えていると士郎が逃げていく。
 慌てて体を動かし始めた。

「待って!」
 どうにか校門前で呼び止めれた。
 士郎はこっちは向いているけど視線は合わせてくれないし、何も言ってこない。
 こっちからちゃんと言うんだ。
「あ、あの、あのね、私……」
 緊張して舌がまわらない。全身が小刻みに震えている。

「シロウ、早く帰るよ」
 ――うん、そう。前みたいに一緒に帰ろうよ。
「ね、姉ちゃん?」
 アレ? アレアレ? 何で士郎は女の人に襟首掴まれて連れて行かれているの?
 頭が混乱して体が動かなかった。

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『士郎』

 電車から降りた後も姉ちゃんはオレの襟首を掴んだままムスッとしたまま歩いている。
 はっきり言って偶々帰り道で一緒になった時ぐらいしか一緒に帰ったりはしなかった。
「普段普通にしていても、あの子に顔あわせるどころか、考えるだけでも辛いんでしょ!」
 ようやく姉ちゃんが口を開いた。
「――うん」
 だから、さっきだって辛かった。
「全部忘れて最初から無かったことにしてしまえば楽になるんだよ」
 姉ちゃんの口調が何故かいらだっている。
「でも――」
 もう恋人にはなれなくてもいい。
 でも――前みたいに一緒にご飯食べたり遊んだり出来る関係にだけにでも戻りたいんだよ。
 そう考えるだけで少し涙ぐんでいた。

 しばらく黙って歩いていた後、強引に頭を下げさせられ胸に押し付けさせられた。
「ねえ――」
「あんたマザコンの癖に甘えるの下手で――辛い時ぐらい少しは素直に甘えなさい……」
 ――姉ちゃんが泣いてる?
 何で姉ちゃんも泣いているんだ? 分らない。
 いつも強気で勝気な姉ちゃんが弱音や泣いているのは見たことがない。
 いや、一度だけある確かオレが中二の頃三年の人が亡くなって、
 姉ちゃんがその葬式から帰ってきた時しばらく泣いていた。
 抱きしめられているはずなのに姉ちゃんがやたら小さく感じられた。
 背はオレより低くてももっと大きく感じていたのに。


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