義姉 〜不義理チョコ パラレル〜 第6回
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『涼子』

 クソッ! 最近のシロウを見ていると昔のあいつとの事ばかり思い出す。
 ずっと昔、心の奥底に沈めたはずなのに、断りなしに勝手に浮かび上がってくる。
 あいつそのままだ。告白断ったはずなのに、いつのまにかそういう関係になってしまっていた。
 おまけに今日シロウの奴に泣いているのに気づかれたかもしれない。よりにもよって、
 あいつなんかに弱いところをみられるのは嫌だ――
 忘れてしまえ、全部――

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『士郎』

 ――自己嫌悪。
 自慰をした。日常的にやっている行為そのものが嫌悪の対象ではない。
 夢とも現実ともはっきりしない姉と交わった感触、今日抱きしめらた時の感触を思い出してやっただけ。
 一瞬の快楽の後に来たのは重い不快感だけ。
 ――何やっているんだろう、オレ。
 こんなのならまだ、振られた相手を思ってやった方がまだマシだ――

 寝たのか横になっていただけなのかよくわからない一夜を過ごした。
 朝食時姉ちゃんは何かに苛立っていて一言も喋ろうとはしなかった。
 自分もその雰囲気に飲まれて何一つ喋ることが出来なかった。
 ――自分でも言いたいことがよくわからないけど。

 昨日姉ちゃんは忘れてしまえって言ってた。でも本当に忘れてしまった方が楽になれるのかな。
 実の父の顔が上手く思い出せない。怒っている顔しか思い出せない。
 楽しいこともあったはずなのによく思い出せない。
 あいつと一緒に遊んだ思い出、あいつが本当に好きだった気持ち、
 そんな事もいつか忘れてしまうのが怖い――

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『モカ』

 よし、と。士郎君はいつも通り中庭にいる。
 こっそり背後から忍び寄って耳にこっそり息を――あれ? 反応なし。
 よく見ると熟睡している。ちぇ、せっかくインパクトの強そうなの考えたのに。

 これってチャンス? 悪戯しちゃおうかなー。
 っと、その前に。こっそり士郎君のポケットから携帯を抜き出し番号確認っと。
 番号ってなまじ知っている人間からだと特別用事でもないと聞きづらいからねえ。
 私の携帯に士郎君の番号登録よし。
 ついでだから士郎君のにも私の登録しちゃおうかなー。あ、これはちょっとやめとこ。
 私からだと涼子にでも聞いたことにすればいいけど、
 勝手に登録されてたら気味悪がるかもしれないからね。

 さて、どういう悪戯しようかなー。あ、そうだ昨日の続き。
 起こさないようなるべく慎重に士郎君をゆっくりゆっくりと横に、男の子だけあってちょっと重い。
 よし、膝枕完成!
 起きるかなーっと思ったけど相当眠り深いみたい。話できないけど、たまにはこういうのもいいかな。
 なんか寝顔見ているだけでもいい感じになるね。何か私お姉さんかお母さんって感じかな。

 あれ? 周りの視線が妙に気になる。えーと、いわゆるバカップル状態?
 自分でやっておいてなんだけど、ちょっと恥ずかしいな。
 その中で特に気になる目に気がついた。彼女――三沢さん、ちょっと前まで士郎君と一緒にいた子。
 他の人は横目で盗み見るような感じなのに彼女だけが遠くからとはいえ真っ直ぐこちらを見ている。
 逃がした魚は大きいとか思って今頃仲直りしようと思っているのかもしれない。
 あれ、付き合ってて別れたんだっけ? それとも告白して振られたんだっけ? どっちだったかなー。
 いや、そもそも相手って彼女だっけ?
 こういうのって一度聞くタイミング逃すと中々聞きづらいからなあ。
 少なくとも今一緒にいないってことは、まあしばらくは大丈夫な気がする。
 どっちにしろ、ちょっと困ったな。結構いい感じになっているのに。

「おはよう」
 士郎君がうっすら目を開けていたので挨拶をする。
 あれ、そういえばこんにちは時間だ。
「……あ、おはようございます。
 えっと……
 ――!」
 士郎君は状況に気づいたらしく慌てて起き上がろうとしていた。
 でもさせないもんね。起き上がろうとする顔に手で押し、無理矢理太ももに押さえつける。
「照れない照れない、もう少しこのままこのまま」
 そういいながら手に力を込める。
「あの、やめてくれません……」
 口では嫌がっていても体は抵抗らしき抵抗はしない。
「ふっふー、ダメダメ」
 士郎君の顔に手を乗せて視界をふさいだまま。ちょっと向こうから送られてくる視線が気になるから、
 その視線を士郎君に見せたくないから。

 少しそんなやりとりがあった後、士郎君はあっさり観念してまな板の上の鯉となった。
「あの、モカさん――昔好きだった人の事ってスッパリ忘れた方が良いと思います?」
 これは脈ありか、そうでないか微妙――
 こっちの事わかってて言っているのかな。別に気づかれていてもいい、
 というか気づいて欲しいんだけど、士郎君なんだがわかってそうで、
 全然わかっていないところあるっぽいからなあ。
「んー、忘れちゃった方がいいんじゃないかな」
 なるべく当たり障りのない返事をしてみる。
「……どうやって忘れたらいいんですか」」
「そうだね、他の人好きになるとか」
 ――ほら、今すぐここにいる子とか。
「……」
 あれ? 士郎君黙り込んだ、これは脈あり?

 

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『涼子』

 ふーん、そうか――
 たまたま通りかかった中庭でシロウとモカが見えた。最近モカが昼にいない理由、
 それとなくシロウの事を聞いてくる理由がようやくわかった。
 大体二人がどういう関係かは察しがつく。少なくとも告白して付き合ってはいない。
 シロウの奴はそんな事があれば隠し通せる程の面の皮はない。
 モカは昔から知っているが悪い奴じゃない。シロウにとっても悪い話じゃないに決まっている――
 ふーん、よかったじゃん、おめでとう――私はそうでも言って軽く笑いながら
 背中を押してやるべき立場なのだろう。しかし心は別の感情を湧き上がらせ苛立つ。
 さらに少し離れたところに、前にシロウをふった三沢さんが見えた。
 シロウとモカを見つめている――後悔と未練のたっぷり、その目が気に入らない。
 更に苛立ちが激しくなる。
 ふったんならふったで、さっさと忘れてしまいなさいよ。
 半ば無意識に近くの壁を殴っていた。

 この場所にいると苛立ちが強くなる一方だ。さっさとこんな場所から去ってやる。


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