義姉 〜不義理チョコ パラレル〜 第11回
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        *        *        *
『士郎』

「今酔っているんだけど――」
 姉ちゃんの言っている意味がわからなかった。ただ苛立ちの感情が混じった声だった。
 オレはただ顔を俯けたまま。返事はしない。出来ない。子供の様に泣いているだけ。
 そんなオレの強引に掴み上に向けさせられた。姉ちゃんの顔はやっぱり怒っていた。
 姉ちゃんはさっき置いた缶の中身を口に含んだ後、オレの頭を掴み唇を重ね、
 唇をこじあけ舌を口内へとさしこまれ、姉ちゃんの口の中にあったリものを流し込まれていた。
 流し込まれたチューハイを無意識飲み込んだ後ようやく何をされたのか気がついた。
 ――キスされたんだオレ。
「私は酔っている。あんたも酔った。お互い今晩起きたことは朝になれば全部忘れる――」
 オレの頭を掴んだまま目の奥まで見通すように睨みつけてくる。
 まだその言葉の意味が理解できなかった。
 しかし姉の伸びてくる手で理解した。
 抵抗できなかった――いや、しなかった。心の何処かで望んでいた行為だから。

 

 背徳感――
 ただひたすら姉と体を重ね、がむしゃら求めていた時には全く考えていなかった。
 昨日の夜、行為が終了して間もなく何一つ返事をしないまま姉ちゃんはオレの部屋から出て行った。
 一人ぼっちになった部屋で自分の行った行為の恐ろしさに震えていた。

 どんなに震えていようが朝はやってきた。
 朝になれば全部忘れる、確かに姉ちゃんはそんな言葉を言っていた。
 でもオレには普段通りにする自信はない。いつも通り朝食の準備をしたが
 姉ちゃんと顔を会わせるのが怖かった。
 だからオレは姉ちゃんが下へ降りてくる前に一人で食事を済ませ家を出ていた。

 

 一人駅へと向かう。日常的な行為の筈なのに日常と全く違って感じる。
 誰かがオレの事を話す、誰かが後ろからオレの背中を指差す。
 昨日オレのやったことなんて誰も知らないはずなのに。
 ただの被害妄想に過ぎない。少し考えれば分るがはずなのに、その考えを否定しきれない。
 吐き気がしてくる。
 怖い。落ち着かない。この町に初めてきた頃の様に近づいてくるもの全てを恐れている。
 あの頃は無理矢理にでも姉ちゃんが学校まで引っ張っていってくれた――

 心臓が跳ね上がった。誰かがオレの背中を叩く。お前の罰だと言わないばかりに。
 慌てて振り返った先にはいつもの様に笑っているモカさんがいた。
「あ……あの、おはようございます……」
 なるべく平静を装うとしてもできなかった。隠し切れない動揺が全身から滲みでている。
「前にも言ったけど、私でよかったらいくらでも悩み事の相談にのるよ」
 ――大丈夫だ。姉ちゃんは昨日の事をモカさんに話していない筈。
 優しい姉、というより母の様にオレの頭を撫でてくる。
 背はオレなんかよりずっと低いのに何故か大きく感じる。
「――いや、別に人に話すようなことじゃ……」
 人に話せる訳がない、姉と関係をもった事――
「んー、そう? あ、そうそう――」
 会話は間もなく何気ない世間話へと移っていった。そんな会話の中でもオレは動揺がにじみ出ていた。

 日常的な学校の光景も今の自分には不安にさせる材料にしかならなかった。
 廊下で姉ちゃんとすれ違ったが顔を見れなかった。気配でわかる――何かに苛立っている。
 昼休みにモカさんと中庭で過ごす時間が日常と化していた――筈だった。
 落ち着かない。
 そして勝手にモカさんの胸やら腰に目線が行っていた。そのことに自分が気づくと同時にモカさんが
 こちらへと笑いかけていた。慌てて視線を空へとやった。
 いつの間にかモカさんとの距離が近くなっていた事に気がついた。
 なるべく相手に気づかれない程度にさりげなく離れようとした。
 そうだ――今気がついた。背徳感とは別の感情が自分の中にあることを。
 以前の夢とも現実ともはっきりしない間隔ではない。まだ体の奥底で燻っている、あの快楽。
 もう一度やりたい――

 

 帰りの電車の中で姉ちゃんとバッタリ会った。
 姉ちゃんからは何も言ってこなかった。そしてオレからも何かを言う機会を失っていた。
 目をあわせられない。
 都合よく携帯が震えたので目をそちらへと向ける。
 ――三沢からだ。『私達友達だよね?』短い、一行だけのメールだった。
 少し考えた後『友達だよ』と返信した。別にいいんだ、これで――
 でも何故か泣きかけていた。
 姉ちゃんがオレを睨んでいた――

 その夜、姉を再びオレの部屋に来た。そして抱いた――

 姉とのそんな関係が何時の間にやら日常と成りかけている。
 口移しで何かを飲ませる、それが行為の開始の暗黙の了解となっていた。
 ただ姉ちゃんとの会話は殆どなくなっていた。その代わりと言わんばかりに夜はお互い求め合っていた。
 行為が終ると姉ちゃんは不機嫌そうな顔して部屋から出て行く。その事が寂しかった。
 傍にて欲しいのに――
 昔一緒に寝たいって言った時はなんだかんだ言いながら笑いながら受け入れてくれた。
 その時とは歳も意味も違っているのはわかっている。でも一緒に居たい。

 いつの間にかモカさんとは屋上で過ごすようになっていた。
 姉ちゃんとも三沢ともは随分話らしい話をしていない、そんな心の隙間を埋めて欲しいと
 言わんばかりにモカさんと話している。
 そしていつもの様に頭を撫でられている。子供扱いされている様で少し腹が立っていたが
 慣れてしまえば一種の挨拶にすら思えてくる。姉ちゃんが人の頭の上に手を置いてくる時は
 大抵叩く時だった。
「んー? 士郎君」
「なんですか?」
 頭を撫でていた手がいつの間にか肩に下りていた。その次の瞬間に抱き寄せられていた。
「ちょ、ちょっと」
「大丈夫大丈夫、人間って誰かと密着している落ち着くんだって。いつだって力になってあげるから」
 落ち着く以前にドキドキする。
 姉ちゃんとそういう関係になっている事を話してもモカさんは力になってくれるのかな――

 

        *        *        *
『涼子』

 シロウと関係を持った――
 最近のシロウを見ていると苛立ってくる。あの日はその苛立ちがピークに達していた。
 自分自身の苛立ちを解消する手段・相手は何でもよかった。
 それが毎晩の行為と化していた。
 そして一つ困っている。情が移りかけている――そのことが新たな苛立ちの原因となる。
 昔シロウが拾ってきた猫と同じだ。私が戻してきなさいって言っても変に頑固なって頑なに拒否した。
 母さんが帰って来る頃には私にしっかり懐いて私も無下に出来ず一緒に頭を下げていた。
 本気じゃない、ちょっと危険な火遊び、そんなものにしか過ぎない行為。
 おまけに今友達が好意をよせている相手。
 もう少ししたら母さんが帰って来る。その頃にはお互いそんな事をやろうとも考えすらしない筈。
 いや、やれない筈。
 しかし先日母さんから電話があった、帰るのはもう少し遠くなると。
 火遊びを止めるタイミングを失いかけている――

 最近無理矢理にでも表情から苛立ちをけしいる。表情に出さないからって苛立ちが
 消えてなくなる訳ではないが、出したからって綺麗サッパリ消えてしまう訳でもない。
 モカは相変わらず毎日が楽しそうだ。
「涼子、ちょっと頼みたいことあるんだけどさ――」
 本人は隠しているつもりなのかどうなのか知らない、ただ長い付き合いだからわかる。
 何かやりたがっていることを。


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