わたしは見慣れた天井を見上げながら、今日おこった出来事を考えていた。
今日、学校の屋上で円香さんが、あのラブレターを出したのは私だ、
みたいな事を言い出した時にはいろんな意味で衝撃的だったが、
次に発せられた言葉はもっともっと衝撃的だった。
"私ね、純也くんと付き合っているの"
頭に何か鈍器で殴られたかの様な衝撃が走る。
……お兄ちゃんと円香さんが付き合っている。
お兄ちゃんはわたしを邪魔に思っている。
円香さんがまるでたたみかけるかのように発する言葉を理解するごとに、
何か深い闇にのみこまれていくのを感じた。
……きっと、これは何かの間違いだ。
わたしは混乱した状況から必死に希望の光を見い出した。
しかし、わたしの儚い希望は円香さんがわたしに見せた写真を前に脆くも崩れさってしまった。
お兄ちゃんと円香さんが腕を組んだり、手を繋いだりしている写真。
写真の中のお兄ちゃんはとても楽しそうな顔をしていた。
頭がお兄ちゃんと円香さんが付き合っている事を認識した途端に目の前が真っ暗になり、
何も考えられなくなる。
……その後の事はよく覚えていない。
ただ、最後に円香さんが見せた妖艶な笑みだけが脳膜にやきついていた。
そして、気が付いたらわたしの部屋のベッドの上だった。
どうにかして家には辿りつけたみたいだ。
……お兄ちゃん、盗られちゃったんだ……。
今日おこった事を考えるだけで、再び胸に深い悲しみが沸き上がってくる。
わたしは悲しみをまぎらわすために、ギュッと布団を抱き締め、必死でお兄ちゃんを感じようとする。
この布団は、お兄ちゃんのお下がりだから……。
……いや、お兄ちゃんのお下がりは何も布団だけではない。
洋服も、枕もタオルだってお兄ちゃんのお下がりだ。
わたしの部屋にはお兄ちゃんのカケラであふれている。
だけど、肝心のお兄ちゃんはここにはいない。円香さんに、盗られてしまったから……。
結局、この部屋の全てがわたしを余計に悲しくさせた。