もし、神様がいるのなら……。 外伝 『星を見てれば』 第21回
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パッチリと目が覚め、視線の先に見慣れた天井が写る。
どうやら、いつの間にか眠ってしまったみたいだ。

……何か悪い夢を見ていた気がする。 理由は特にない、ただなんとなく。
ひとまず悪夢から解放されたのだ。
目が覚めてよかったと思う、だけど、すぐに目が覚めなければよかったとも思う。
ここもまた悪夢のつづきだから………。

 

 

布団がずいぶんと湿っている。
大分うなされて汗をかいたみたい、それに喉もカラカラだ。
わたしは時計を確認すると、ベッドから起き上がり、何か飲み物を求め台所へ向かった。

階段を下りている途中、居間から光がもれているのに気付く。
現在午前二時、こんな時間に誰だろう?

わたしは静かに居間へ近付き、わずかなドアの隙間から中の様子をのぞきこむ。

あっ……………。

中ではお兄ちゃんが真剣な表情でTVを見ていた。

……そうか、今日はサッカーがあったんだっけ。

現在ヨーロッパではヨーロッパ最高のチームを決めるチャンピオンズリーグが開かれている。
スカパーのない我が家では地上波で見れる数少ない世界トップレベルのサッカー。

 

ところで、わたしはサッカーをよく見る方だ。少なくとも年40試合は見ている(お兄ちゃんの試合も含めて)。
だけど、サッカーを詳しく知っているかと聞かれたら、答えはノーだ。

理由は主に二つ。
まず一つ目の理由はわたしの耳。音のない世界に生きるわたしにとっては、
試合中に得られる情報が極めて少ないのだ。
そのため、解説を聞けないので今のプレーがいいプレーなのか、
それとも悪いプレーなのかも分からないし、メンバーも最初に字幕で現れるが、実況が聞こえないので、
試合中誰がどこにいるかも分からない。頼りのお兄ちゃんもだいたい試合に熱中してしまい、
わたしにかまってくれない。

二つ目の理由(実は十中八九こっちの理由なのだが)はソファーだ。
今もお兄ちゃんはお気に入りのソファーに座りサッカーを見ている。
あのソファーは生前お父さんが買ってきた物で、曰く二人用なのだそうだが、
実際のサイズは一人で座るには広く、二人で座るには狭いと何とも微妙だ。
お兄ちゃんとわたしは子供の頃からよくあのソファーに座りながらサッカーを見ていた。
高校生になった今でもそれは変わっていない。ただ、わたし達の体が大きくなるにつれ、
肩を寄せあうようになっていった。
サッカー観戦中、お兄ちゃんがすぐそばにいる。そのため、どうしてもサッカーに集中出来ないのだ。
いつもは見せない真剣な表情に、わたしの心臓はいつも高鳴る。
気付くと、わたしはお兄ちゃんの事ばかり見ていた。

 

今すぐ、あそこに行きたい。
お兄ちゃんを独占したい。
だけど、もうあの場所に行くことは出来ない。
お兄ちゃんには恋人がいるから。
唇をかみ、必死で欲望を抑える。

なぜか自分がひどく惨めな存在に思えた。

 

……もう、お兄ちゃんの事は諦めよう。

だから、せめて今だけはこのままお兄ちゃんを見させて。

わたしの頬に一筋の涙が流れた。


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