茜ちゃんが屋上にやって来た。
ふふふっ、作戦通り、風呂でのぼせなからも考えた甲斐があった。
私は茜ちゃんに気付かない振りをし、思わずにやけそうになった顔を、必死で抑える。
すぐに茜ちゃんは私に気付いて、私に近付いてくる。
きっと私以外に誰かいないか確認するつもりなのだろう。
私は優しい笑みを浮かべて彼女を迎える。
茜ちゃんは私が笑顔を向けると、すぐに下を向いてしまった。いつものように……。
茜ちゃんはいつもおどおどしている。
私は茜ちゃんと話をしたことはないが、数回廊下ですれちがったことはある。
その場合、ほぼ茜ちゃん一人で、必ず下を向いて歩いていた。
せっかくかわいい顔してるんだから、前を向いて歩くくらいすればいいのに……。
当時、私は茜ちゃんと廊下ですれちがう度にそう思っていた。
……きっと、私とは違い子供の頃から耳のことでいじめられてきたんだろう。
少し茜ちゃんがかわいそうな気がした。
そんな事を思い出していると、茜ちゃんは私のすぐ側まで近付いていた。
"こんにちは"
茜ちゃんが私に話しかけてくる。相変わらずおどおどと、そして私の顔色をうかがうかのような上目使いで。
"屋上に、誰か男の人、きませんでしたか?"
"茜ちゃん、あのラブレターは私が書いたものなの"
私は茜ちゃんの質問を無視して、一人話し始める。
さぁ、作戦開始だ。
キョトンとした顔を浮かべる茜ちゃんを一気にたたみかける。
"私ね、純也くんと付き合っているの"
"だからね、いくら妹だからと言って、私の純也くんにベタベタくっつかないで欲しいんだけど"
"純也くんもね、そう思っているみたい。純也くん優しいから、面と向かっては言わないけど、
私に正直迷惑だって愚痴言ってたわよ"
そこまで言い終わり、チラッと茜ちゃんを見ると、信じられないといった表情をし、
今にも溢れそうな涙で瞳をうるませている。
目の集点があっていない。
ふふふ、あと一息ね。
私はとどめとばかりに、呆然としている茜ちゃんにある写真を見せる。
その写真を見た途端、茜ちゃんの瞳からはせきをきったかのように涙があふれだす。
作戦通りね。
目的を達成した私は、膝まづき両手で顔をおおい泣きじゃくる茜ちゃんを横目に静かに屋上をあとにする。
ひとまずこれで茜ちゃんは純也くんにベタベタくっつかなくなるだろう。
それに、純也くんが誰のモノかも理解しただろう。
ふふふ、全てこの写真のおかげね。
私は屋上から下っている途中の階段で立ち止まり、さっき茜ちゃんに見せた写真を眺める。
……先日私は純也くんの家に忍びこみ、純也くんの部屋を探索した。
首尾よく目当てのアルバムを見つけ、使えそうな写真を全て抜き取る。
本当はアルバムごと欲しかったんだけど、さすがにそこまでやったらバレてしまうだろう。
まっ、それでも特に気に入った写真は抜き取ったんだけどね。
にしてもよくできてるなぁ。これ。
私は自分の作った写真に感心する。
この写真、部屋に飾ろうかな?