危険な男 第2回
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 私は人ごみが嫌いだ。今私がいる食堂などその典型的一例だ。
 正直言ってこんな場所など来たくない。だがしかたない、あの男の監視の為だ。
 しかし今もう一つの問題点がある。席が空いていない。

 いや正確には一つだけ空いている、あの男の隣の席だ。

 あの男は向かいの席の女と仲良さそうに談笑しながら食べている。
 この女は違うクラスの筈なのによく一緒に話しているのを見かける。
 やはり胸の奥で何かが警告している――
 しかたないので相席がいいか尋ねてみたら二つ返事で了承された。
 尋ねた時何か変なところはなかっただろうか、なにか警戒されたのだろうか、
 そんな不安感が胸に湧き出していた。
 監視としては近い方がいいのかもしれない。
 しかしここまで接近していいものなのだろうか、少し落ち着かなくて顔を見れない。
 隣の男はそんな事おかまいなしに向いの席の女と談笑をしている。
 邪魔だ――何かが言った。
 隣の男は食事がすんだらしく席を立った。
 ここでようやく私は自分の食事に殆ど箸がついていないことに気がついた。
 早く後を追わなければならない、急いで食事を詰め込む。
 そうだ席を立つ前に、あまりにも無防備な彼女に警告しておこう。
 被害者を出さない為、加害者を作らせない為に。
 一言だけ、一言だけ「彼には近づかない方がいい」と彼女に教えてやった。
 彼女は一瞬わけの分らない顔をした後、少しだけ何かに納得して
「大丈夫、私達そういう関係じゃないし、邪魔しないから心配しなくていいよ」と笑いながら言った。
 そういう関係とは、どういう関係のことだ? わからない。
 しかし大丈夫だという人間だという人間ほど大丈夫じゃないことを彼女は気づいているのだろうか。
 多少無理させてでも距離をおかせた方がいいのかもしれない。
 そうこう考えているうち彼女は席を立とうとしていた。
 離れ際に彼女は、あいつ昼はいつも図書館にいると教えてくれた。
 そんな事お前に言われなくても知っている。
 ――いつも見ているから。


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