まだ雨は降り続いていた。どうもこの特有の匂いは苦手だ。
冷えた体に更に寒さが染み渡る。
………と、前方にタカビを発見。あれが『彼』か。
「よ!タカビ。」
「あ、…ま、また会いましたね。」
いつもと違い、お淑やかなタカビ。なんか不自然で新鮮だ。
腕を組んでいた隣りの『彼』が顔をしかめる。こんな時に俺に会うのに困惑しているんだろう。
しかたない。ここは相手に合わせてやるか。この茶番に。
「これがさっき言ってた彼かい?はじめまして。園崎のクラスメートの高嶋です。」
「ええ……はじめまして…」
「そうです。こちら、お付き合いさしていただいている聖さんです。お会いするのは初めてでしたわね。」
成り立っていないようで成り立つ会話。当事者のみが気付かない状況。
ねじれた愛情。幸い周りに人がいなくてよかった。
「じゃ、邪魔者はさっさと帰りますか。またな。」
「…さようなら。」
「また明日。」
二人と手を振って別れる。二人が見えなくなるまで見送った後、
雨音にかき消されそうなほど小さくつぶやく。
「認められるといいね……」
そして再び歩き出した。
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アパート前
アパートに着いた時はもう六時を回っていた。ここまで遅くなるのは初めてだった。
傘を閉じ、階段を上っていく。
部屋のドアの前。人影があった。体育座りでうずくまっていた。
「!!……ま……麻子……」
「えへへ……来ちゃった……」
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取りあえず部屋へ上がらせた。傘もささずに来たのだろう。全身ずぶ濡れだった。
タオルを渡したが、全く拭こうとしない。パジャマのままの服装だった。
その濡れた布地が肌にくっついている。
「っ!………」
よく見ると下着……ブラを着けていないようだった。
胸元まで外れたボタンから見える肌や頬の色が、ほんのりと赤くなっていた。
それに加え腰まで伸びている長い髪が纏わりつき、かなり色っぽかった。
自分の腰が熱を持ち、疼き始める。
まずい……
このままじゃあ……
「ふふ……どうしたの?」
ぼうっと見ていると、上目遣いで覗いてきた。
「!!。あ…いや。なんでもない。体、冷えただろ。風呂沸かしてくるから、ちょっとまってろ。」
慌てて立ち上がり、風呂場に行こうとすると……
「どこにも行かないで!!」
グイ!
急に腕を引っ張られた。
そのままの勢いでベットに押し倒される。
起き上がる前に両肩をがっちりと押さえ付けられ、身動きがとれなくなった。
「うふふふ…そんなの待ってたら風邪引いちゃうわよ………。
今まであなたのことずっと待ってたのに…まだ待たせるつもり?」
ぎりぎりと肩を掴む力が強くなる。
「だったら……体拭けよ…」
なんとか言い訳を試みる。
女特有の甘い香りが鼻をくすぐる。それとともに理性の壁が音を立てて崩壊する。
麻子はそっと耳元へ口を寄せ、こうつぶやいた。
「じゃあ……聖が暖めてよ……私だけを…」
それが引き金だった。