Which Do You Love? 第8話
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やはりというか当然というか。俺は親戚中をたらい回しにされた。
そりゃそうだ。犯罪者の息子だなんてレッテルをはった奴の面倒なぞ、誰もしたくない。
結局十数回断られた後、今の家庭に引き取られた。とはいえ、住む場所は別という条件付きだ。
それでもまだ渋っていたぐらいだ。
あの日以来、土曜日は毎週あの喫茶店に来ていた。部屋にいると、あの情景を思い出してしまうからだ。
喫茶店は駅前から少しそれた裏道にあり、客はほとんどいなかった。
それがまた俺にとってもいい環境だった。店に来ては読書に没頭していた。
そんなある日、アイツが……麻子の奴が現れた。
「こんな所に来てるなんて……意外ね。」
全く。この時ばかりは呆れて何も言えなかった。あれだけ卒業式の日に拒絶しといて、まだ話しかけてきたのだ。
「あ、その本!私も読んでるの!」
にやにやしながら鞄から同じ本を取り出した。
「面白いわよねー。特にこの主人公が……」
不愉快だった。自分の不可侵領域をここまで犯されることが初めてだった。だから何も言わず席を立った。
出口のドアを開けようとした時。
「高校……合格したの?」
何気ない……『普通』に満ちた会話だった。ただそれが暖かかった。
「………」
黙って首肯をし、店を飛び出していた。その暖かさが……なによりも堪えたからだ。
翌土曜日
「ふっふっふっ。読めたわよ。あなたが店に来るのは毎週土曜日ね。」
絶句した。
まさかまた来るとは思わなかったからだ。ましてや行動パターンまで推測していたのだ。
「………」
「相変わらず無愛想な奴ね。」
「あ……」
こいつなら。こいつなら俺を必要としてくれるのだろうか?
俺を受け入れてくれるのだろうか?それともただの同級生としてのよしみなのだろうか?
不安と希望を含め、こう言った。
「立ってないで座ったら?」
これが二人の関係の始まりだった………



「ん………」
目が覚めた。不思議と体の疼きは収まっていた。今見た夢は、聖と私の始まりの夢だった。
あの時私は躍起になっていた。どうしても聖と仲良くなってやる、と。そうじゃないと気がすまなかった。
だから初めて喫茶店で会った次の日から、同じ時間帯に毎日店へと足をのばしていた。
今考えれば軽いストーカーだ。でも嫌じゃなかった。少し心地よい気もした。
そして二回めに会った日……
「立ってないで座ったら?」
初めて見た笑顔に、私は墜ちた。
「会いたいよ……聖………」
どうしても聖に会いたかった。あの笑顔を見たかった。声を聞きたかった。彼の……全てを求めていた。
たとえ隣りにあの女がいてもいい。今すぐに会いたい。ダメなら奪うだけ。消すだけ。
時計を見る。もうこの時間なら家にいるだろうか。そんなことを考えながら、すでに体は動いていた。




「やっべぇやっべぇ。」
どうやらあのまま放課後まで一気に寝てしまったらしい。起きれば五時を回っていた。
少し寝冷えしてしまった体を暖めるよう走っていくと、誰も居ない下駄箱で、丁度タカビと行き会った。
「あら、聖さん。今お帰りですか?」
「まぁな。寝過ごしちまってよ。」
「あらあら、相変わらずだらしのないことで。全く、受験生としての自覚が足りないのでは?」
「うっせー。お前だって今帰りだろうが。」
「ふふ、私は今から彼とデートですの。だからそれまで図書館で時間を潰していたんですのよ。」
「へーへー。お惚気はあっちでやってくだせぇ。」
しっしっと手を振って追いやる。
そんなのも意図せず、鼻歌交じりで幸せそうに歩いて行く。
「『彼』か……」
俺はそんなタカビに哀れみと謝罪の視線を送りながら、雨の中を下校した。


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