Which Do You Love? 第10話
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「はぁ、はぁ、はぁ。」
静かに始まり、静かに終わった性交。いや、性交とは言えないだろう。愛撫だけだったのだから。
聖の性器は治まったまま。麻子は快感で完全に脱力状態だった。だが不満だった。
「なんで……勃たないの?……私、そんなに魅力ないの?」
そうじゃない。確かに麻子は女としての魅力はある。精神的にも興奮はする。
でも、体はそう素直に反応してくれない。
いわゆる精神性の不能だ。
「あの…女が。あの女がいいって言うの?!私なんて抱きたくもないの!?」
「違う!そうじゃ……」
「嘘!!体は正直じゃない!!お願いだから……私を抱いてよ…聖しか…いないのよぉ…。」
うつむいていて麻子の表情はわからない。ただ小刻みに体が震えていた。
ただなにかブツブツ呟いていた。
「ふふ…ふふふ。そうよ…そうよねぇ…それがダメなら……奪ってやる……聖の全てを奪ってやる!!」

ガッ!

急に首を締め、一気に力をこめる。
「がっ!は…ま、麻子……!」
「聖は……私とだけ仲良くしてればいいの……!他の人には、無愛想でいなさい
!変わらないで……私の知ってる聖のままでいて!!」
「麻子…ちょ、ブレイク、ブレイクだ……」
麻子の肩を何度か叩くと、気を取り戻したように力を緩める。
「あ…ご、ごめん!」
麻子をどかして立上がり、ふらふらと歩く。ただ水が飲みたかっただけなのだが……
「ま、待って!」
腰にしがみつかれ、また身動きがとれなくなる。
「ごめんなさい……酷いことしちゃって……謝るから……謝るから嫌いにならないで。ここに居てよ…」
泣き声になりながら訴える。
「そ、それとも、この前の喫茶店ではたいた事に怒ってるの?だったらそれも謝る。
でも、勘違いしないでね!?聖が好きだからこんな酷いことしちゃうのよ?」
最早自分で何を言っているかも理解していないのだろう。ただ感情のままに口が動いているのだろう。
「麻子…俺もお前が…」
「はん!首を締めておいて、よく好きだなんて言えたもんですわね?」

ドアから響く第三者の声。自分の言いかけた言葉を止め、咄嗟に振り向く。
「あの…女ぁ!」
飛び付きそうになる麻子を必死に押さえる。
男女が絡み合っているのを平然と見てられるとはな……ホント、血が凍ってるんじゃないか?こいつ。
「はぁ、はぁ、うふふ…でも、残念だったわね…来るのが遅かったわ。
もう聖は私を抱いてくれたの……愛してもらったのよ…ふふ、悔しいでしょう?」
奏でがやれやれといった様子で肩をすくめる。
「そんな行為、先だろうが後だろうが何ら違いはありません。それに、遅いのはあなたの方ですわ。」
「?…何を言って……!!!」
そう言って鞄から紙切れを一枚麻子の目の前に突き出す。
それは婚姻届だったが……俺の書く所も既に記入してあった。
「これで決まりです。私たちはもう夫婦同然ですので、あなたの入り込む余地はありません。」
「そんな…嘘よ!!嫌!!嫌ぁ!!」
「お前!!なんでそんなのを持って…」
思わず奏に詰め寄る。そんなものを書いた記憶など無いからだ。
「あら?あなたが書いて渡したんじゃありませんか?覚えてらっしゃらないの?」
この前もらった紙は手を付けてないはずだ。
「聖……どうして……どうしてこの女なの?!私にしてくれたことは嘘だったの?!」
「違う!俺は書いてない!!こいつが勝手に……。」
「イヤァァァ!!やめて!!なにも聞きたくない!」
俺が言い訳をする前に、麻子は大声で叫んで飛び出していってしまった。
「…言いましたでしょう?どんな手段もいとわないと。
それに、あなたの事だから、あの人を抱いてなんていないのでしょう?」
「ちくしょう……ちくしょう……」
麻子が出ていったドアを見てうなだれながら呟いた。奏の言葉なんか耳に入らなかった。
全てこいつの思惑通りに進むことが悔しかった……


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