鏡 True 第2回
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結局次の日は学校を休んだ。流石に行ける気分ではなかったからだ。昼頃まで寝ていると、不意にチャイムが鳴った。
のそのそと玄関まで行き、覗き窓を見ると、真由が立っていた。
ガチャ
「おう、どうし……た?」
顔を見ると、目が赤く腫れていた。泣いていたのだろう。
「あの……一緒にいても…いいですか?」
「ああ、上がれよ…」
そう言って真由を部屋に入れる。万円の笑みを浮かべているのを見て、自分も顔が綻んだ。
「あ、お昼食べましたか?」
「いや、まだ食ってねえ」
「じゃあ私が作ってあげますね。」
頼むと言うと、すぐさま台所に立ち、料理を始める。出された炒飯を食べている間に、部屋や風呂場の掃除、
洗濯までしてもらってしまった。
全て終わり、おかわりを食べている俺の横に座り、ニコニコと横顔を見ながらほほ笑んでいた。
「おいしいですか?」
「ああ、おかわりするぐらいな。」
「姉さんと比べてどっちが旨いですか?」
「え?」
こんな時にそんなことを聞いてくる真由に戸惑いを覚えた。
「どっちですか?」
真剣な顔でせめよられ、思わずのけ反ってしまった。
「えっと…真由…だな。」
これは正直な答えだった。前に真奈に料理を作ってもらったが、真由の方が上手だ。
「ふふふふ、そうですよね。あの女より…上手いにきまってるわ…。いえ、そうでないといけないの…」
後半部分はぼそぼそと言っていて聞こえなかった。
「それじゃあ…」
そう言って俺が食べ終わると、顔を近付け、耳元で囁く。
「はみがき…しましょうか?」
「んん!!!」
突然口付けをされ、混乱する、そんな俺を余所に真由は更に激しさを増す。真奈ではなく、真由としている。
そのことで、強く興奮したが……
「くっ!おい真由!やめろって!」
なんとか引き剥がし、真由を止める。
「どうしたの?何で止めるの?最後まで……ね?」
「そんなの…できる訳ないだろ!」
「なんで?真奈に気を使ってるから?アハハ、それなら大丈夫ですよ。今はあんな状態だし。
私を真奈と思ってください。ほら、こうすれば…」
髪型を真奈と同じポニーテールにする。
「ふふふふ、真奈と同じ。顔も声も髪も…体も。これなら私のことも愛せるでしょ?
いえ、あの女よりもっと強く私を愛して。アイシテアイシテアイシテ。」
狂気じみた目で迫り寄られる。
「だめだ!!やめろ!!お前は真由だ!真奈とは違う!俺は……真奈が好きなんだ!」

「ひっ……」
真由が息を飲んで引きつる。その顔には困惑の色が浮かんでいた。
「どう…して…?どうしてそう昔から真奈ばかり涼に愛されてるの?私たちは同じなのに!!!
同じぐらい…いえ、私の方が強く涼を愛している!私、涼のためだったら何でもできる。
涼の子供だって生める!私の体も心も、みんな涼だけの物なのよ!昔から私は涼を見ていたのに、
あなたは真奈しかみていなかった!なんで?どうして?いつも私と真奈への態度は反対だった!
鏡の様に、映る物は同じでも中は逆だった!私を愛してよ!私にも好きだって言ってよぉ、
同じぐらいに……愛してよぉ…切なすぎるのよぉ…ウゥッ…クッ」
そう言って泣き崩れてしまった。壊れるように泣いている。

(アア、俺はまた…真由を…コワシテシマッタ……)

俺が真奈を好きに…女として好きになったのは、その強さに惚れたからだ。
彼女達の親が死んだ時、二人は近付き難い程に落ち込んだ。
それを何とか元気づけたいために近付き、励ました。それに答えてくれるように、真奈は元気を取り戻した。
だが真由は違ったその悲しみに耐え切れず、壊れてしまった。
俺は弱い人間だ。だからそうして壊れた真由に触ることを恐れた。
だから実際に真奈と付き俺は弱い人間だ。だからそうして壊れた真由に触ることを恐れた。
だから実際に真奈と付き合い、真由とは距離を開けたのだが…
「……」
互いに無言のまま時間がすぎる。

と、突然。
「アーッハハハハハハ!!やっぱりねぇ、真奈が、アノ女が…アノ邪魔者がいるから、涼は騙されてるんだ!!
ふふふふ、大丈夫よ、涼。私が助けてあげるから…もうすこしまってて。真奈を…あなたから引き離してあげる。
もう二度と近付きたくなるように…クスクス。」
いきなり高らかに笑いだし、そう告げるとクスクスと妖しい笑みを浮かべ、部屋から出ていってしまった。
俺はタダその様子をみているだけしか出来なかった。
「くそっ!……」

その様子を見て、真奈が事故でも自殺でもなく、第三者による『事件』に遭ったとわかったのだった。


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