妹(わたし)は実兄(あなた)を愛してる 第2章 第9回
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 突き飛ばされたのだと気づくのに数秒を要した。
 間髪いれず楓がのしかかってくる。
「な、なにを……むぐ」
 抗議の声を上げようとして、唇を塞がれる。
 ぬらぬらとした感触がおれの口内を這い回る。
 穿たれるかと錯覚するほどの力強い愛撫。
 それがおれの弱いところをピンポイントで攻めてくる。
 いつものような、じらされることそのものを楽しむような余裕はまったくない。
 トランクスの前を押し上げているものが、楓の冷たい手に包まれてぞくりとする。
 おれが教えた全ての技術を結集し、楓は俺を蹂躙していく
 しごくなんて生易しいもんじゃない、性器を通して直接脳髄に快感を叩き込む手技。
「あうっ……」
 楓の左手の爪が、おれの胸に食い込む。
 一瞬でもマゾヒスティックな快感を感じてしまったことに羞恥するが、
 楓はそんなことを気にも留めず、どんどんおれを追い詰めていく。
 楓はもどかしそうに下着を脱ぐと、おれのものを入り口に押し当て、一気に挿入した。
 引っかかりは全くなく、いとも簡単に最深部まで到達する。生暖かくぬめった感触。
 一旦落ち着くのを待たずに、楓は高速で腰を動かし始める。
 ぐちゃ、ぐちゃ、という音が今日はとても汚らしいものにしか聞こえない。
 体中で一番敏感な箇所をただ擦り合わせるだけの、セックスとはとても呼べないような行為。
 これはレイプだ。
 楓がおれをレイプしている。
 今まで一度だって、こんなことをしたことも、されたこともない。
 それでも否応なしに体は反応してしまう。
 楓の分泌も量を増し、滑りがよくなるにつれて動きも激しくなっていく。
 楓はおれを気持ちよくさせたいわけじゃない。
 自分のヴァギナを使って、おれを射精させたいだけだ。
「楓、やめろ、もう、ぐっ」
「嘘言わないでください、まだイかないですよね。わたしにごまかしはききませんよ」
 膣壁がぎゅっ、っと締まり、楓の内部の感触が鮮明に入力される。
 そういう意味じゃない。
 もう、こんなセックスはたくさんだ、と言おうとして声が出ない。
 楓の吐息、とろけるようなディープキス、性器全体にまとわりつく湿度と熱と圧倒的な快感、
 それらすべてを一度に受け取ってしまい、脳の処理が追いつかない。
 いつしかおれは涙を流していた。
 雫が目元に溜まるたび、楓がそれを舐めとる。
 次々と溢れて止まらない。
 猫がじゃれつくようなしぐさで、ぺろぺろと目元をくすぐられる。
 そうしているうちに、あっと言う間に射精感がこみ上げてくる。
 もうだめだ、出る、と思った瞬間、楓はペニスを膣から抜き、ぐにぐにぐに、と数回手でしごきあげた。
「くぅぅぅぅっ……」
 びゅく、びゅく、びゅ、びゅ、びゅ……
 玉袋に直接手を突っ込まれて、握りつぶされたような感覚。
 楓によって完全に統制された、完璧なタイミングでの射精。。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」
 息が完全に上がっている。思考が真っ白なペンキで塗りつぶされてしまったように何も浮かばない。
 楓は手のひらにぶちまけられた精液を眺めている。
「……薄い」
 楓はそれをぺろり、と充血した舌で舐めとる。
 頬の裏、上顎、舌裏、歯茎、前歯とまんべんなく塗りたくり、口内全体で性臭を味わっている。
 しばらくもぐもぐさせた後、じっくりと嚥下する。
「……やっぱり薄い」
「……薄い、って何が」

「精子が、ですよ」

「……おかしいですよね」
「……」
「……わたし、ここ最近、兄さんに抱いてもらった記憶がないんですけど」
「……」
「……帰ってきたらすぐ寝ちゃってたのに、オナニーなんかできませんよね?」
「……」
「……したんですね」
「……」
「したんですね! この女とッ!!」

「……どうして兄さんはそうやって約束を破るんですかッ!?
 わたし、前にも言いましたよね!? 兄さんの性欲はわたしが全て面倒をみるって!!
 残業だ泊まりだって言って、本当はこの女と会ってたんですね!?
 どうして、どうしてどうしてどうして!?
 兄さんはわたしを裏切るんですか!? 嘘つくんですか!?
 したくなったら会社を早退してでも帰ってきて、わたしとセックスすればいいじゃないですかッ!?」
 
 ……無茶苦茶言いやがる。
 
「……わたし、情けなくて涙が出そうですよ……
 自分でおかしいと思わないんですか?
 帰れば自分の嫁がいるのにどうして、よその女に手を出さなきゃならないんですか!?
 ……そっか、そんなはずはないですよね。
 この女が、兄さんを誑かしたんですよね。そうよ、そうに違いないわ。
 優しい兄さんが、わたしを、裏切るわけ、ない。
 ねえそうでしょう? この女に泣きつかれて、仕方なくやったんでしょう?
 ……最低。最低のクズ女。他人のものに手を出して平然としていられる、厚顔無恥なメス豚。
 最悪、最悪最悪、最低最悪の人間未満のゴミ人間。
 ――殺す。殺す殺す殺す。包丁で八つ裂きにして、内蔵を抉り出して、細切れにして、
 池の鯉の餌にしてやる。あはは、駄目か。そんなもの食べたら、鯉だって死んじゃうものね。
 ミンチにかけてハンバーグにしてやろうかしら。混ぜた先から玉ねぎとパン粉が腐りそうね。
 やっぱり駄目だわ。存在価値マイナスの犬畜生。居るだけで資源の無駄遣い。
 ――死ね。死ね。死ね死ね死ね死ね! 
 ……わたしが殺してやる!! 絶対、絶対殺してやるッ!!!」
 
「……おい、いい加減にしろよ」
 
「いい加減にしてほしいのはこっちですよ兄さん。
 わたしは被害者ですよ? にいさんも被害者。
 悪いのは全部この女じゃないですかッ!!」
 
「勝手なことばかり言いやがって!
 簡単に死ねだの殺すだの、大概にしろよッ!!」
 
「わたしが毎日、どんな思いで兄さんの帰りを待ってるか知らないから、
 こういう真似ができるんですッ!!
 心のない人間に、まっとうな人間扱いしてもらえる価値なんてありませんッ!!」

 カチン、ときた。

「お前はただここで待ってればいいんだろうよ。
 でもおれは違うッ!!
 お前との暮らしを守るために毎日必死になって働いてる!!
 それなのにお前はいつもいつも夢物語みたいなことばっかり言いやがる!!
 お前とこの先暮らしていくのだって一筋縄じゃいかないのはわかってんだろうが!!
 その上、よく知らない人間のことをさんざん悪し様に言いやがって、
 お前のほうがよっぽど―――」

 ……その先はさすがに自制する。

「―――ちょっと出てくる」
「待ってください、話はまだ終わってません!」
 
 
 
 着替えを済ませ、追いすがる声を無視して部屋を出た。
 盛大にやらかしてしまったというのに、足は何故か軽い。
 やけっぱちになって、背負った荷物も何もかも投げ捨ててしまったからか、
 全身が不思議な開放感に溢れていた。
 初夏の風が肌に気持ちいい。
 さて、今日のところはホテルにでも泊まるとして……
 ……おしおきしてやらないとな。


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