陽の光のなかで舞う雪 第2回
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「それではこれより〜第一回〜山田優治攻略会議を〜開始しまぁ〜す」
――ヒューヒュ〜 ――ドンドン〜 ――パフパフ〜
「はい、そんなわけで主賓の佐藤陽子さんでーす。みなさん拍手〜」
――パチパチパチパチ ――いよっ、待ってました! ――パチパチパチパチ
なんだろうこれは。
ドアを開けた瞬間のまま、陽子は固まってしまっていた。
狭いカラオケルームにはぎっしりと、陽子の友人たちがすし詰めされていた。
すでにテーブルには飲み物やケーキが並び、中にはビールっぽいのも持ち込まれていて、
まあつまり早い話が、彼女たちはすっかり出来上がってしまっていた。
「遅刻だよ陽子ー、あんたが主役なのにさぁー」
「そのパフェ一口食べさせてー」
「もっとどんどん歌うべー」
「あたしmyマイク持ってきてるんだけど」
「ちょっとあんたら、本題分かってんの?」
「陽子ーここ座りなー」
指差されたところには、ちょうど一人が座れるくらいの空間がぽっかりと空いていた。
勧められるまま、安っぽいビニル張りのつるつるしたソファに、陽子はおずおずと座った。
いったいなにがなんだか、陽子には理解できなかった。
今日は何人かでカラオケをするだけじゃなかったのか。
どうしてクラスの女子の半分くらいが集まっているのだろう。
「さて、佐藤陽子さん」
カラオケ用のマイクを陽子の方にぐいっと突き出してきたのは、
面倒見が良いことでクラスでは"姉御"として知られる少女だった。
「ズバリ直球で訊くよ。あんた、山田君のこと好きなんでしょ?」
直球過ぎた。
陽子は一瞬呆気にとられて、次におもしろいほど狼狽した。
「な、なななななな、なに言ってんのよ? 違う。違うって。違います。何回言ったらわかるの?」
「違わないでしょ。寂しいんでしょ、陽子。最近はずっと彼と話せてなくて、すっごく落ち込んでるもんね?」
「だから、それは……」
それは、の次の言葉が出てこなくて、陽子は俯いてしまった。
うまい言い訳が思いつかなかった。
言い訳?
なにを言い訳する必要がある?
なにを誤魔化す必要があるんだ?
「正直になりなよ、陽子」
「もう、いい加減に――」
と顔を上げて、陽子はハッとした。


姉御の厳しい瞳が、じっと陽子に向けられていた。
いや、他のクラスメイトたちだって、驚くほど真剣な顔つきだった。
姉御が続ける。
「例えばさ、陽子。このまま鈴木さんが山田君をゲットしちゃったらさ。
あんたますます山田君と話せなくなっちゃうんだよ?」
「…………」
「二人が話してるところとか、抱きあってるところとか、もしかしたらキスとかだって、
見ちゃうのかもしれないのよ?」
「…………」
「そういうの、どう思うの?」
わからなかった。
わからなかったけれど、陽子の口からは自然に言葉が出てきていた。
「……いやだ」
なぜだかとてもリアルに想像できた。
鈴木さんとこんなことを話したんだ、と笑う優治。
明日は雪さんとデートなんだ、何を着ていこうかな、と笑う優治。
雪が弁当を作ってきてくれることになったから、君のはもう要らないよ、と嗤う優治。
「……それは、いやだ」
「だったら頑張りなよ。みんな応援してるんだからさ」
部屋にいる全員が、陽子に微笑みを向けていた。
それがとても温かくて、陽子はいつのまにか泣き出していた。
「いやだよ、……っ、あんな女に、優治を取られるなんて、ひくっ、いやだよぅ……」
「はいはい、だったら一緒に頑張ろうね」
「わたしたちはみんなアンタを応援してるからさ」
「あんな冷血女に負けちゃいけないよー。陽子なら絶対いけるってー」
「ほらほら、泣いちゃダメでしょう。笑ってないと山田君に嫌われちゃうわよ」
口々にかけられる励ましの声。
陽子は思った。
彼女たちの想いを無駄にしちゃいけない。
そして、彼女たちによって気付かされたこの想いも、大切にしなきゃいけない。
――明日、優治に告白しよう。
陽子は決意した。
「みんな、ありがとう。ありがとうね」
狭い室内の中で、その「ありがとう」は何度も繰り返された。
何度も、何度も……。


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