合鍵 第14回
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「いただきます」
食卓テーブルについて、三人声を合わせて言った。
カレーを一口。美味しい。

サキ「あら、美味しい」
素直な感想を口にするサキ。

それを聞き、藍子の方を見る元也。
てっきり、褒められて、照れているかと思ったが、藍子の顔は無表情だ。いや、何か、
怒りが透けて見える。
…何も言わず、知らない人連れてきたから、怒ってんのか?
それとも、こいつ、人見知りする方だっけ?

そんな事考えていると、サキが話し掛けてきた。
サキ「ねえ、元也君。こんな料理上手な『オトモダチ』に御飯作って貰ってきたなら、
   私の御飯じゃ、不満あったんじゃないかしら?」
元也「え?そんな事ありませんよ!
   十分、美味しかったですよ!!」

それを聞き、サキがクスクスと微笑む。
想像通りの元也の返答。r
ああいう風に聞けば、元也君は、絶対『美味しかった』って返事するはず。
そのセリフを、藍子に聞かせてやりたかった。
藍子を見ると、案の定、スプーンの動きが止まって、サキを見つめていた。
いや、彼女に自覚は無いだろうが、睨んでいる、と言っても構わない表情だ。
それを微笑みながら、睨み返すサキ。

藍子「……もと、くん…
   サキさんに、ごはん、つくって、もらって、いたの?」
うん、そうだけど、と元也が返事しようとすると、それをさえぎり、サキが先に答える。
サキ「そ、一昨日、昨日と『私のおうち』で御飯、食べて貰ったの
   そうよね、元也君」
元也「はい、美味しかったです。ご馳走様でした」

藍子が息を飲むのが分かった。構わず喋り続けるサキ。
サキ「ね、このカレー、とっても美味しいけど、何か秘密あるの?
   今度、元也君が来る時、作ってあげたいわ」

返事をしない藍子に、元也が、おい、と声をかけた。
藍子が我に帰り、搾り出すように、
藍子「しり、ま、せん…………」
と答えた。

あまりに愛想の無い藍子に、元也が表情で叱る。
視線を落とし、絞り出す様に、
藍子「玉ねぎを、よく、いためれば、いい、ですから」
とだけ答える。

サキ「ああ、美味しいカレーの秘訣には、それ、よく聞くわね。
   けど、面倒で、結局、そこそこ炒めただけで、止めちゃうのよねえ」
嘘おっしゃい。この味、隠し味で、ウスターソースに、コーヒーかしら?
入れてるでしょう。
  
「ねえ、もとくん」
スプーンを握り締めながら、藍子が元也に話し掛けた。
藍子「もう、サキさんのとこ、いっちゃ、だめだよ」
え?と、元也が藍子の方を見ると、彼女は視線を落としたまま、続けた。
藍子「サキさんも、めいわく、してるだろうし、これいじょう、
   ひとに、めいわく、かけるの、だめ、だから」
視線は、下を向いたまま。

そうでしたか?と、サキの方を見る元也。
サキは、微笑みながら、首を横に振る。

サキ「そんな事無いのよ、藍子ちゃん。むしろ、私の方から、頼んでる位だから。
   …藍子ちゃんの方こそ、わざわざ、元也君に御飯作るの、面倒でしょう?
   私のは、自分が食べるついでだから、これから、ずっと私が作ってもいいのよ?」
   そうする?元也君?」

藍子「もとくん!!!!!!
   わたしと、そのひと、どっち!!!!」

急に大声を出されて、驚く元也。
ええと、御飯の事?
元也「いや、どっちも、十分、うまいけど…」

サキ「じゃあ、これから、どっちの御飯、選ぶのかしら?」
サキの方を見ると、いつもの笑顔のままで元也を見つめていた。

何だよ!?どしたんだよ、二人とも!
どっちの料理も、美味しく、選ぶ事が出来そうにも無いので、こう答えた。
「ええと、その、よろしかったら、変わりばんこでお願いします」


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