合鍵 第9回
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元也「じゃあな、藍子、また明日」
授業も全て終わり、放課後。
いつもは部活が終わるまで待っていてくれる藍子を今日は先に帰らせる。
サキと一緒に帰る約束だからだ。
藍子「あ、待って!もとくん」
慌ててた様子で藍子が呼び止める。
藍子「ねえ、明日は?明日は予定、無いでしょう?
   明日は私の御飯、食べてくれるよね?」
振り返って藍子の方を見る。その表情に、すがりついて来るようなものを、一瞬、感じた。

元也「予定は無いから…じゃあ、お願いするよ」
その返事に、顔を輝かせる藍子。
藍子「うん、分かった。絶対だよ!
   そうだ!指切りしましょう、指きり」
なんだい、それは…と思っても、藍子の勢いに負けて小指を差し出す元也。
藍子「じゃあ、嘘ついたらハリセンボンだからね、指切った」
元也「はい、指切った」
指切った…と言っても藍子はその絡めた小指を放さない。
放せば、そのまま元也が何処かに行ってしまう気がした。

元也「こら、放しなさい」
そう言われて、しぶしぶ指を離す。
元也「それじゃ、バイバイ」
そう言うと、元也は去っていき、美術室に向かっていった。
寂しさが胸に残る。

そして美術室。
粘土をこねくり回している元也。表情は真剣そのものだ。そこに、後ろから忍び寄る影一つ。
「今日は、来るのが遅かったんじゃないの?」
元也に後ろから目隠しをして、声をかける影の主。その声に不機嫌さが混じっている。
元也「だ、誰だっ!貴様!」
その答えにムッとしたのか、押さえてる元也の目をググッと圧迫してきた。
元也「痛い!痛いってばサキさん」
サキ「ハイ、せいかーい。
   よくできましたー」
そう言うと、ご褒美とばかりに、後ろからギュウ、っと抱きしめてきた。サキの胸が当たる。
サキ「ところで元也君、今夜は何が食べたい?リクエストある?」
後ろから抱きついたまま、話しかけるサキ。
元也「特には!あ、ありま、せん」
サキの腕から逃れようと、もがく元也。逃がすまいと更に強く力をこめるサキ。

サキ「今日は中華にしたけど、どう?おいしい?」
元也「はい、とっても」
サキの家で、ガツガツと料理をたいらげる元也。
それを見て、微笑むサキ。
そして感じる。元也に対する強い感情を。

この子を手に入れたい。
昨日までは、自分の、この想いの強さが分かっていなかった。隣に、いつも女の子がいるなら、
諦めた方がいいかも、諦めもつくかな、と思っていた。
けど、こうして近くにいると、何であんな風に考えれていたのか分からない。
諦めれるはずが無かった。

いつからそうなったのか、分からない。
けど、昨日、はっきりと自覚した。この子を手に入れたい、と。
この子の隣に、女の子がいるというなら、いいだろう。しょうがない。
けど、これから先は許せなくなるであろう自分がいることを知っていた。

これまで、男の子をこんなに好きになったことは無かった。
そして気が付いた。自分は結構さばさばした性格だと思っていた。
けど、違った。
こんなに、元也に執着心がわくとは思いもよらなかった。

実を言えば、今日、授業が終わるとすぐに元也の教室まで彼を迎えにいったのだ。
すると、そこで見たのは彼と幼馴染の女の子の指きりシーンだった。
気に食わなかった。女の子を張り倒してやろうかと思った。髪の毛を引っ張って、
引きずりまわして、ええと、それから、どうしよう、
とにかく、気に入らなかった。そして、そこまで不快になる自分に驚いた。
自分がこんなに嫉妬深い事を、初めて知った。

元也「どうか、しました?」
サキが黙り込んでしまったので、元也が不思議がる。
ああ、なんでもないのよ、と答え、自分が今考えてたことを元也に言うとどんな反応を
示すのか、想像すると、クスクスと笑ってしまった。
驚いて、私から離れて行くかもね。冷静にそう思う自分がいた。


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