合鍵 第8回
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藍子が元也に抱っこして貰い、サキが元也に手料理を振舞った日の翌日の朝。
今日も藍子は元也を起こしに行く。

昨日は結局、元也を待って、そのまま寝てしまい、抱っこされて家に帰ったので、夕御飯を
食べ損ねた。
おかげで、ひどくお腹は空いていたが、昨日の抱っこを思い出し、ついつい笑みがこぼれてしまう。
まだ、ふわふわとした陶酔感があった。

「おはよう、もとくん、朝だよ」
朝ご飯の用意もでき、元也を起こしに行く。
一回ぐらい声をかけた位では彼は起きない。いつもなら、ここで彼の体をゆさぶって
起こすところだが、今日はそうしない。

「ねえってばあ、朝だよう。起きてってばあ。」
元也の耳元に口を近づけ、甘えた口調で、囁く。それでも起きない。
「もーう、しかたないんだからあ」
元也の耳元に、更に口を近づけた。
はむっ、と耳たぶをあま噛みする。

元也「おうのわあっっ」
飛び起きる元也。
元也「な、何した!?」
藍子「んー?何の事ー?」
首をかしげる藍子。とぼけられて、自分が寝ぼけたのかと思う元也。ばつが悪そうに
耳をを擦っている。
藍子「ふふ、へんなもとくん」

元也「……まあいいや、下に降りようぜ」
先に部屋を出る元也。藍子もついて出て行くが、その前に、チラッとベットを見た。
あそこには、私の汗が染み込んでいる。
もとくんは、その、私の汗が染み込んだ布団で今まで寝ていたのだ。
そして、元也の後姿を見る。
体がゾクゾクッと震えた。
今まで感じたことの無い程の充足感があった。
元也「……?どうした?」
立ち止まってる藍子に呼びかける元也。
藍子「ううん、なんでもないよ、……ふふ」

 

藍子「はい、これ、お弁当ね」
朝ご飯を作りにキッチンに行くと、昨日作った晩御飯が手付かずで残っていた。
あんなに遅く帰ってきたので、やはり外で済ませてきた様だ。せっかく作ったのに
食べて貰えなかったのは残念だったが、捨てるのも勿体無いので、今日のお弁当に
再利用した。
お弁当箱は、幸い元也の家に二人分あった。
お揃いのおべんと箱に、お揃いの中身。

家を出て、学校に向かって歩く二人。
藍子「今日も晩御飯作っておくね、何がいい?」
そう聞かれ、そうだなあ、と考える元也。
しかし、思い出す。確か、昨日サキ先輩と、今日もお邪魔しに行くと約束していた。
元也「いや…今日はいいや」
藍子「え?…どうしたの?」
なにか、嫌な予感。
元也「それは、その、美術部の先輩と食べる約束しちゃってるんだ」
藍子「そっか、それじゃ、仕方ないや」
残念だが、部活の付き合いではしょうがない。
けど、安心した。
一瞬、誰か、私以外の女の子との約束が有るのではないかと思ってしまった。
そうじゃなくて、良かった。
そんな事、あるはず、ないのに。
そうだよね、もとくん。


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