優柔 ENDING 最終話B
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別れてから1週間経ちました。
あんなに僕のことを束縛したのだから、当然何らかのアプローチがあるだろうと思って身構えていました。
しかし、意外なことに何もありませんでした。
電話が掛かってきたり、登下校の時に待ち伏せされたり、呼び出されたり・・・そんなことは一つもありません。
クラスも違うので、用事がない限り隣の教室へ行くこともないので顔も合わせていません。
あまりにあっけなかったので肩透かしを喰らった感じです。たかが恋愛、彼女も冷めたということでしょうか。
まあそういうわけで僕は晴れて自由の身、これからは悠々自適の学園ライフが待っています。
これで良かったんです・・・よね。

「よう愛原、こんなとこで何やってんだよ?」
屋上のベンチで流れる雲を見ていると、入り口の方からよく聞き知った声が僕を呼びます。
「ああ・・・先輩ですか・・・ご無沙汰してます」
「何そのやる気のない返事。こんないい女が声掛けてやってんだから、もっと嬉しそうにしろよ」
杉山綾乃先輩。去年、体育祭実行委員に選出された時に知り合った人です。
実行委員の仕事を続けているうちに、いつの間にか仲良くなっていました。
先輩は男言葉を遣い、性格もサバサバしています。
それとは対照的な、女性を意識させる外見―腰の辺りまで伸びた髪に透き通るような白い肌、そして、
ブレザー越しからでもはっきりと分かる豊かな胸―黙っていれば相当モテると思います。
体育祭が終わってからも何度か遊んだり、メールのやりとりをしましたが、
彼女ができてからはすっかり疎遠になっていました。
『あの先輩はゆう君をたぶらかす悪い人なの。きっとあの大きなおっぱいで男の人を手篭めにしてるんだわ。
だからゆう君、騙されちゃ駄目』
そんな根拠のないことを言い聞かされて、先輩との接触を禁止されていたんです。
「はあ・・・すみません」
「ったく、元気ないな・・・さては、彼女に振られたか!?」
たぶん先輩は冗談のつもりだったのでしょうが、僕には痛い言葉でした。
「・・・」
「えっ、図星かよ・・・いや・・・その・・・ゴメン」
「謝らないで下さい。先輩は悪くないんですから。それに、振ったのは僕なんです」
「そうか・・・でもよ、それだったら落ち込むことなんかないのに」
先輩の言う通りです。僕はどうして落ち込んでいるのでしょうか。
彼女の事・・・引きずっているとでもいうのでしょうか。
自分のことなのに、いえ、自分のことだから分かりません。

 

そんな僕の様子を見かねてか、先輩は大きなため息を吐きました。
そして、何かを決意したように言いました。
「何があったか話してくれ。あたしで良かったら力になるよ。
何も話したくないって言うんなら愚痴でもいい。付き合うから」
それはいつもの先輩ではありませんでした。目の前いるのは、僕のことを心配してくれる1人の女性です。
優しい眼差し・・・先輩って、こんな表情できるんだ。思わず見惚れてしまいました。
同時に、僕は驚いていました。
長いこと会ってなかったのに、突然現れて僕の力になってくれるというんですから。
でもそれが、今の僕にはとても嬉しかったのを覚えています。
「はい・・・じゃあ、聞いて貰おうかな」
「よしっ!それじゃ決まりだな」
いつもの快活な先輩に戻りました。そして立ち上がり、手を差し伸べてきました。
「場所変えよっか。静かなとこ知ってんだ」
僕はその手を握りました。細くて長くて、柔らかな指。強く握れば、壊れてしまうような・・・

午後3時半。隠れていた太陽が、待ち望んでいたかのように現れ、僕達を照らしました。


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