さよならを言えたなら 第18話
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「俺は……俺はぁ!」
葵か…セレナか……どっちを選べだって?いまここで?観衆のど真ん中で?
あこがれを抱いていたセレナ……ほんの数日だけど、よく一緒にいた葵……
その二人が、勇気ふり絞って告白してくれたんだ。俺も……答えを出さないと……
「俺が好きなのは…!」
「んん……」
「っ……」
二人が息を飲むのがわかる……期待と不安が入り交じってるんだろう。
そのどちらかを……傷付けないといけない……断った方も、今後仲良くしてくれっか?
いや、考えるな……俺が思ったままに、素直に……叫ぶんだ!大きく、気持ちを伝えるんだ!
「俺は、葵が好きだ!」
一瞬周りが水を打った様に静まる。そりゃそうか……生徒会長兼ミス浅野を振ったんだ……
こりゃ、一大事ってこったな。
「「「うおおぉぁぁぁぁ!!!」」」
喜びとも悲しみとも聞こえる男の叫び声が響く。後から聞いたことだが、
葵は次期、ミス浅野として名高かったらしい。(本人は全く自覚なし)
そんな葵を狙ってた奴等も多かったのだろう。泣いているのも見掛ける。
……当の葵も……泣いていた。

急いで葵のそばに寄り、手を引っ張り連れ出す。もうこれ以上ここにいられない。
人込みを掻き分け、ガンガン進む。
周りの奴等が顔を覗こうとしてくる。アーッもう、じゃまだぁ!
逃げながら後ろを振り向くと、セレナは呆然としたように立っていた………
と思ったらいきなりマイクを掴み、腰に手をあてて………叫んだ。
「はーるー!!私をフった事!!!後悔させてあげるからなぁ!!!!!」
そんなことを叫んでいたのが聞こえた。後悔、か。実際していない。
今こうやって葵の手を握っているだけで自然と嬉しくなる。好き……なんだろうな。
「は、晴也さん、もう少しゆっくり……」
「後ろを見てみろ!」
「え?……えぇ!?」
驚くのも無理は無い。大勢の人が俺達を追っかけて来るんだ。恐らく大半は葵のファンだろう。
まさに殺気立っている。掴まったら……命は無いな。
「とにかく走れ!俺の家まで逃げるぞ!」
「は、はぁい!」
それから二十分に渡る鬼ごっこは、浅野学園祭の伝説となった。
無事に逃げきり、俺の家までたどり着いたのは言うまでも無いだろう。

俺の部屋………
「はぁ、はぁ、はぁ、大変なめに……あいましたねぇ。」
「ふぅーー……一体誰のせいだと……おもってんだよ……」
「えぇー、私のせいですか?」
「それ以外に考えられるのか?」
「うぅ……」
一息つき、落ち着いて話し始める。さっきはどやどやと騒がしかったが、
こうなってみるとかなり互いに恥ずかしくなってきた。葵は顔を真っ赤にしてうつむいている。
「あ、あのっ!晴也さん!?」
「ん……」
「そのぉ……こんなことになって言うのもなんですけど……わ、私でよかったんですか……か?」
こいつは…あれだけ大勢の前で宣言したっつーのに、まだ信じられないのかよ。しかたねぇなぁ……
ぽん、と頭に手を乗せ、撫でてやる。
「ああ、絶対に後悔なんてしてねぇ。確かにセレナには憧れてはいたさ。
でもな……好きだって言う感情は、お前に対してだけだ。」
「は、晴也さぁん……うぐ……」
泣きそうな顔をして抱き付いてくる。
「お前こそ……なんで俺なんかがいいんだか………」
「いいんですよーだ。」
よっくよく考えれば、俺を好きになるところなんてないんじゃないか?

「いや、なぁ……俺、無愛想だし。」
「はい……」
「非社交的だし……」
「はい………」
「怒りっぽいし。」
「ふふ………」
「好きになれる要素なんて無いだろう?」
「……他の女の子にとったらそうかもしれませんけど………私は好きです。…大好きです!」
まいった……惚れた弱みか。骨抜きになっちまいそうなほど気が抜ける。
「それに、私以外の女の子に評判のいい性格だったら困ります。私だけの晴也さんなんだから、
私だけが好きになっていいんです。」
「ま、俺を好きになる物好きなんざいないさ。」
「物好きですよーだ。晴也さんも、私以外の女の子に気を向けたらだめですよ?」
「ああ、約束しよう。」
「本当に?もし浮気したら、末代まで祟りますよ?」
「その第一子孫は、誰が生むんだ?」
「うぅっ………」
言い返されたためか、トマトのように顔を真っ赤にして黙ってしまった。
どうやらこういう話しには弱いのだろうか。
「も、もちろん……」
「んー?もちろんなんだ?」
「もちろん私が生むんです!他の人なんかは有り得ません!」
また……恥ずかしいことを言う………


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