さよならを言えたなら 第20話
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カランカラン
「いらっしゃいま……」
「大変申し訳ございません、お客様。本日、カップルの方ははお断りですので。」
「え、で、でも…」
「お断りですので。」
「前来た時は大丈夫……」
「お断り、ですので。」
ゴウッ!
「は、はひ。」
「ごめんなさい!」
セレナの黒いオーラの恐怖に背を向けて走って帰ってしまうお客様。ああ、せっかくのお客様なのに。
(マスター!ちゃんと注意してくださいよ!帰っちゃったじゃないですか!)
(無理。死にたくない。)
マスターとの目でのやりとり終了。頼りにならないな、……俺もだが。
「あーあ、ほんと、カップルなんて一回滅べばいいのよねぇ。
そうねぇ、有志を募ってカップル解散運動を勃発させて……」
なにやらブツブツぼやいているセレナはほおっておこう。「ふぅ……」
また客がいないので、ひとつ溜め息をつく。そこで思い出すのは昨日のこと……
葵のやつ、可愛かったよな。ああいう状況になっても、おとぼけで天然なのは変わらないんだな。
いや……少しというかかなり怖いところもあったよな………

『あ、あのっ、晴也さん。こういうことってはじめてですかぁ?』
こういうこと。隠さずにいえばセックス。
『…いや、一度だけ…経験ある。』
高校の友達と、風俗に行った。あの時のことは緊張のし過ぎでまったく覚えて無かったが。
『はぁ、そうですか……残念です。』
『別にその風俗嬢が好きだとかいうんじゃないから。』
『はじめてを取られたから悔しいんです。そうですね、過去に行けるならその風俗嬢をころしてでも
晴也さんのはじめてをうばいとりますね。』
『………』
『良ければ今からでも殺しに…』
『いえ、勘弁してください。』






あそこまで独占欲が深いのな。女って。葵とかそういうあたり気にしない様なタイプかと
思ってたけど……
あ、いけね。またそんなことばっかり考えてたな。なんか俺のキャラが変わったような……
恋は人を変えるというやつか?いや、少し違うか。
カランカラン
おっと、お客様だ。
「いらっしゃいませー。」
「晴也さん、来ちゃいましたぁ。」
ひょこっと現れたの、当の葵だった。が、セレナが立ちふさがる。

「お客様、申し訳ございません。葵という名前の方は……」
「晴也さぁーん。」
ギュム
葵は……恐れ多くもセレナをスルーして俺に抱き付く。
「お断り……させて……」
「そろそろ終わりですよね、晴也さん。一緒に帰りながら夕飯のおかずを買いましょぉ。
今日はなにがいいですか?なんでもつくってあげますよ?」
「いだだいて………っああ嗚呼あ!!こんなとこでイチャつくなぁ!!!!」
セレナが暴走し、トレイで襲いかかってくる。が、葵はヒラリとかわし…
「あのぉ、負けたセレナ先輩は黙っててくださいっ。今は晴也さんと話してるんです。」
言っちゃったよ。葵。
「ほぉぉぉ……急に態度をかえましたねぇぇぇ……それがお前の本性カァッ!」
「きゃあっ!は、晴也さぁん!助けて〜」
「またハルにべたべた抱き付きやがってぇ〜!死んで詫びろぉぉぉぉ!!葵ーー!!!」
一瞬にしてレストランは戦場に。飛び交う怒号。追いつ追われつの二人。目茶苦茶な店内。
あーあ、マスターったら、血の涙流してるよ。………あまり大事にならなけりゃいいんだがね。


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