Why Can't this be Love? 幕間
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 今でもあの日のことは鮮明に覚えている。 彼――吉田紅司君と始めて話をした日のことを。
 あの日私――藤村美嬉は駅で途方にくれていた。
 その日は珍しく遠出した帰り路。
 改札口を通ろうとした時、切符が無い事に気付いた。
 鞄の中もポケットの中も思い当たる所は全部探したけれどキップは出てこなかった。
 しかも間の悪い事に出かけた先で散財しすぎたせいで財布も殆ど空。
 電話を掛けようにも携帯もバッテリー切れ。
 どうしようか途方に暮れ涙まで溢れそうになったそのとき助けてくれたのが紅司君だった。
 でも私は其の頃人見知りが激しく、特に男のヒトが苦手でロクにお礼もいえなかったのに
 彼は優しくしてくれた。
 気にしなくていいよ、困った時はお互いさまだよ、と。
 
 その後も特にこれと言った変化も無く会話する機会もなかった。
 正確には勇気が無くて話し掛けられなかったと言った方が正しい。
 でも気付けば私の目はいつも彼を探していた。

 そして気付いた。
 ああ、コレが恋なんだ、と。

 でも告白できなかった。 だって彼には、吉田君にはとっても仲良しの女の子が居たから。
 とっても元気で明るくて活発で、私なんかとは正反対のコだった。
 そして其の間に私なんかが入り込む余地は見出せなかった。
 だから決めた。 この気持ち打ち明ける事無く胸にしまっておこうと。
 そう決めたはずだった。

 でもそんな私の諦めた気持を奮い立たせ背中を押してくれる出来事があった。
 それはある晴れた日曜日、従姉の由花お姉ちゃんが遊びにきた。
 いつも昔っからおばあちゃん家に行くたびに遊んでくれた優しいお姉ちゃん。
 その日来たのは結婚の報告だった。 でも相手のヒトの名前を聞いた時私はちょっと驚いた。
 由花お姉ちゃんにはとっても仲良しの、お姉ちゃんと同い年の男の子が居た。
 そして当時の私は幼心にきっと将来おねえちゃんはこのヒトと結婚するんだろうな、と思っていた。

 だけどおねえちゃんの口から出てきた名前は私の全く知らない人だった。
 だから私は疑問に思ってその事を聞くとお姉ちゃんは笑って答えた。
 幾ら仲が良がよくってもそれは言ってみれば兄弟姉妹みたいなもので恋愛とかとは全く別物だって。
 其の言葉を聞いて私は誰にも言ってなかった思いを打ち明けた。
 好きなヒトが居て、でも其のヒトにはとっても仲良しの幼馴染の女の子がいるから、と。
 その事を打ち明けるとお姉ちゃんは笑った。
 ヒトが真剣に相談してるんだから笑わないでと言うと、お姉ちゃんは笑を堪えながら謝り、
 そして応援し励ましてくれた。
 お姉ちゃんの言葉に私は勇気付けられた。
 そうか幼馴染で仲良しだからってそれが恋人同士とは限らないって。

 そして次の日、私は意を決して気持を打ち明けた。 あの日助けてもらってとっても嬉かった事。
 気付けば何時しか好きになってた事を。
 思いのたけを伝えた私は気付いた。 ことの一部始終を見ていた人が居た事を。
 その人は吉田君といつも一緒にいる例の幼馴染のヒトだった。
 瞬間、吉田君の顔がこわばった。 其の表情はまるで悪い事をしてるところを見つかったかのような。
 其の表情が私の心をたまらなく不安にさせる。
 でも次の瞬間そんな不安は跡形も無く消し飛んだ。 ああ、お姉ちゃんの言ったとおりだ。
 この二人もやっぱりおねえちゃんと其のお友達みたいな兄弟姉妹みたいな仲だったんだ。

 嬉しかった。 吉田君が受け入れてくれた事が。 願いが叶った事が。
 気付けば私の両の目からは涙が溢れていた。 そしてそんな私を吉田君は優しく抱きしめてくれた。
 ああ、このヒトを好きになって良かった。 心の底からそう思えた。
 きっと私はこの時のことを一生忘れないだろう。 吉田君の温もりを、そして優しさを。


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