優柔 ENDING 最終話ノ種
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電車の中。僕は軽い放心状態で、外の景色を眺めていました。
(先輩を抱いたんだよな・・・)
さっきの出来事はまるで夢のようにさえも思えてしまいます。
ですが、身体に立ち込める倦怠感が、それを現実のものだと認識させるのです。

僕は昔から女性に対して、神聖なイメージを持っていました。
女性は僕ら男性とは違う生き物なんだ、そういう固定観念です。
だから女性と話す時も、そういうのを意識してしまって・・・女性が苦手でした。
それを見事に吹っ飛ばしてくれたのが先輩でした。
女っぽさを感じさせない雰囲気と、誰にも媚びない態度。
一緒に活動を続けるうちに、女性への苦手意識は無くなっていきました。
初めて親しくなった女の先輩であり、女の友達・・・それが先輩でした。

友達だから、男と女という風に考えたくありませんでした。
女性だと意識しなければ、これ程素晴らしい人はいないと思います。
恋愛感情の伴わない男女の友情、それを壊したくなったんです。
先輩はその・・・率直に言って、とてもいやらしい身体つきをしています。
胸は絶対90を超えているだろうし、くびれとかもすごいし、脚もすごい綺麗だし・・・
だから僕は、そういうことを意識的に避けてました。
じゃれ合ってお互いの身体が触れた時も、考えないようにしていました。
あぐらをかいて座っててパンツが見えた時も、わざと目を逸らしたりしていました。
考えちゃ駄目だ、見ちゃ駄目だ、意識しちゃ駄目だ・・・
そうしないとこの関係は終わってしまうから、と。

その反動でしょうか、ワイシャツの下から覗かせる柔肌を見た時、
先輩の女としての素顔を見た時、僕はどうしようもなく興奮してしまいました。
同時に、ある種の背徳感を感じていました。本当に一線を越えてしまっていいのか、
そんな考えが頭の中を支配しました。
理性と本能の衝突・・・結局、本能には逆らえませんでした。
今までみたいに自然に会話ができなくなるかもしれない・・・
そんなこと、知ったこっちゃない。
先輩は僕を慰めてくれるって言ってるんだ、僕はそれに甘えればいいんだ。
もう、彼女はいないんだ。僕は何でも自由にできるんだ。僕を縛る鎖はもう・・・ないんだ。
カラオケボックスのソファの上で、僕は先輩を抱きました。

先輩は処女でした。身体を使って癒してくれるというぐらいでしたから、
経験があると思うのは当然です。僕はひどく狼狽しました。
「いや・・・あ、あれだ、あれ。この歳で処女なんてダサいだろ?」
「誰でもいいってわけじゃなかったんだ・・・その・・・お前だったら気心が知れてるし
・・・お前のこと、嫌いじゃないし・・・」
「お前だってほら、こんないい女とヤれて良かっただろ?」
「だから・・・あんま気にすんな。アタシも気にしないからさ」
平静を装っているつもりでしょうが、先輩の顔は明らかに紅潮していました。
行為が終わってから駅で別れるまで、目を合わせてくれることはありませんでした。

これからきっと新しい生活が始まる、そう思った矢先のことです。
203号室、僕の住む部屋の入り口の前に、1人の少女がうずくまっています。
うちの学校の制服を着たその子は、僕を目にすると、安堵したような表情を見せました。
そして今度は、泣きそうになって僕の名前を呼ぶのです。
「・・・ゆう君」
・・・その顔には見覚えがあります。いえ、忘れたくても忘れることなんてできません。

彼女はまだ、僕を諦めてなんかなかったのです。


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