鬼ごっこ 第8回
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「な、なに?なんなの?おにいちゃん?」
「静かに。落ち着いて僕についてきて。」
突然の停電。それに加えて玄関をこじ開けようとする音に、麻理は完全に怯え、混乱していた。
まだ現状を理解している僕は落ち着いていた。
「さあ、こっちだよ。」
麻理の手を引き、台所をでる。さて、どうする。逃げるか?隠れるか?
……前者はたとえ逃げ切ったところで、家で待ち構えられたらまずい。
だとしたら、隠れてまくしかない。
僕は麻理を連れ、そのまま裏口のある部屋までくる。ここの床には地下倉庫の入口がある。
……倉庫とはいっても、使わなくなった衣服等をいれる場所なので、僕と麻理が入ればギリギリだ。
もしバレたら……素早く逃げ出すのは無理だろう。一か八かだ。
ガコン
「麻理、ここに隠れるよ。」
「え?…う、うん。」
まだよくわかっていないのか、言われるように入っていく。その時……
ガシャン!
「アハハハハハハハ!開いたぁ…」
玄関をぶち壊した音と共に、どこか聞いたことのある笑い声が家中に響く。これは本当にまずい。
見つかったら……終わりだ。

「あははははは。鬼ごっこ……鬼ごっこ………見つけたら殺さなきゃ…」
ミシッ
意味不明なことを言いながら、廊下を歩いてくる。普段聞き慣れた床の軋みが、
やたらと大きく聞こえる。僕も麻理の隣りに座るように入り、蓋をしめる。
怯えて震えている麻理を抱き締めながら、携帯をとりだす。とりあえずはマナーモードに。
奴のやることは大体見通せる。
明りのない倉庫は真っ暗なため、麻理を不安にさせないように携帯のカメラのライトをつけ、
互いの顔を確認できるようにする。
「おにいちゃん…」
顔を見て少し安心したのか、ホッと溜め息をつく。
「いいかい、麻理。なにがあっても声をだしちゃいけないよ?…麻理は僕が必ず守ってあげるから。」
「…うん。」
それからしばらくすると……
ブーッブーッ!
携帯のバイブが震える。やっぱりな。音でこっちの場所を探そうとしてたか。
『あれぇ?どこにいったの?もしかして隠れんぼに変更?ふふふ、いいよ。
どっちにしても、私が勝つんだから。賞品はもちろん、海斗君だよV(^-^)V』
……頼むから負けてくれよ。僕はそう祈った。

ギシッギシッ
「ハハハハ、……どこかな?どこへいったのかな?」
だんだんと奴の足音と声が近付いてくる。……なんだろう。やっぱりどこかで
聞いたことのある声だ。それもつい最近……女の子の声……
「かーいーとーくーん!でてきてよー!」
一段と大きい叫びが聞こえ、麻理の体がまた震える。そっと「大丈夫だよ」と耳打ちをし、
落ち着かせる。
そして……ついにその足音は……
ギシッ!
僕達のいる部屋に入ってきた。真上にいるのがわかる。それだけ大きい、床の軋みが聞こえる。
ズッズッズッ
なにかを引きずるかのような、不気味な音。麻理もそれに気付いているのか、顔が真っ青になり、
今にも発狂しそうなほどだ。
麻理の口をおさえ、上をみる。この床一枚をはさんだ向こうに……いままで恐怖をあたえてきた
ストーカーがいるのか……
「海斗君……裏口から逃げちゃったかな?」
今度はハッキリと声が聞こえた。誰だ……思い出せそうで思い出せない。胸にモヤモヤがたまり、
不快感が増す。
ガチャガチャガチャ
ストーカーが裏口のノブを回すが、鍵がかけてあるので開かない。

「開かない……まだ逃げて無いってことだよね?」
誰にとうわけでもなく、ストーカーの独り言は続く。
「ふふふふ…昔は一度も追いつけなかったけど……今はもう違うんだよ……
海斗君を掴まえられる……でもその前に………邪魔者は消さないと……」
ギシッ!
裏口から戻って来たストーカーが、再び倉庫の蓋の上にのり、立ち止まる。
この床の入口は、ただでさえ見つけづらく、蓋を開ける取手も、裏返して床と同じ柄になっている。だから知らない限り、こんな真っ暗闇では見つけられるはずがない………
「………」
「………」
「………海斗…君………海斗君……もーいーかぁーい……アハハハハハハハ…」
「…!」
見つかったか?あきらかにここに立ち止まっている時間が長い。心臓が飛び出しそうなほど
ばくばくしている。
もういっそのことここから飛び出て、暴れてやりたいほどだ。
だが……
「………はぁ、留守だったのかなぁ……うーん、残念。…また今度一緒に遊ぼっと。
次こそは、私が勝つもんね。」
そう言い残すと、ストーカーは部屋から走りさってしまった。

行った……のか?
それからどのくらい経ったのだろう。確信がもてず、しばらく倉庫の中に隠れていたが、
足音や笑い声が聞こえなくなったので、勇気を出して蓋を開ける…
ガコン!
やけに蓋を開ける音が大きく聞こえた。そんな音にビビりながらも、顔を出して辺りを確認。
……いない……
念のため、裏口に置いてある傘と懐中電灯を持ち、家中をくまなく調べる。
台所……トイレ……お風呂場……洋間……リビング……僕の部屋………麻理の部屋……
全て調べ終えたが、どこにもストーカーはいなかった。だが、どの部屋も誰かが漁った形跡が
あるため、ストーカーが僕達を探していたのは確かなことだ。
さらに念のために家の外へ出て、庭や周りの道を見てみるが、こんな雨の夜に外に出ているのは
一人もいなかった。
ブレーカを上げると、家の電気が再びつく。……もうストーカーも見てないし、大丈夫だよね?
まだ隠れたままの麻理を迎えにいく。
「麻理、もう大丈夫だよ。出てきても……って、麻理?」
声を掛けても返事がない。……麻理は気絶していた。そうだよな。あれだけ怖いめにあったんだから。
とりあえず麻理の安全を確認すると、僕も恐怖のためか、腰を抜かすようにその場に座り込み、
しばらく立つことが出来なかった………


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