鬼ごっこ 第7回
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……沙恵ちゃん、どうしたんだろう。一応内容を確認する。すると……
『frm沙恵ちゃん
いたいよ。』
「?」
たった4文字の簡単な文だった。でも…痛いって?もしかして…もうストーカーが手をだしたのか?
だとしたら危ない!
「どうしたの?おにいちゃん。怖い顔して……」
「え?…いや…な、なんでもないよ。」
麻理にもわかるほど怖い顔してたのかな。でも、やっぱり心配だ。痛いって……普段沙恵ちゃんが
送ってくるメールと全然違う。
時間が経つ度に、どんどん不安が広がっていき、それを内側に隠しきれなくなる。
「それでね……って聞いてる?おにいちゃん。」
「あ……うん……あのさ、麻理……」
「え?」
「ちょっと電話しても…いいかな……」
「だ、誰に?なんで今…」
「うん…ちょっと沙恵ちゃんに……」
そう言うと、さっきまで笑顔でしゃべってた麻理の顔が、一気に怒った顔になる。
「どう……して…」
「え?」
「どうして!?今は私と一緒にいるんでしょ!?なのに……なんで沙恵さんに電話なんかするの!?
他の女の子の事なんか心配してるの!!?」
「ちょっ…ま、麻理…」
「うるさいうるさいうるさい!!もういいっ!おにいちゃんなんか死んじゃえ!バカァッ!!」
バシッ
鞄からなにか袋を取り出した麻理は、それを僕に投げ付けて外へ走って行ってしまった。
突然のことに、呆然としている僕。
麻理に投げられた袋を手に取り、開けてみると………
「あっ!」
中に入っていたのは、僕が前から欲しいと思っていた腕時計だった。もちろん、
安いものなんかじゃない。麻理も時々臨時のバイトをしていたけど……まさかこれを買うために?
「僕は……なんて最低なことを……」
いくら相手が兄でも、一緒にいる時に他の事に気を取られていては、心中穏やかじゃないだろう。
それに……僕は気付いている。麻理の気持ちに……気付かないフりをしているだけで……
「追えよ。」
「え?」
気付けば、さっきの店員さんが声を掛けてきた。
「今は追うべきだと思うぜ。」
「……あ、うん!」
そう返事をした直後、僕は店から飛び出た。
「……お代はあんたの給料から差っ引くわよ。」
「あああ〜〜!!金払ってけぇ!!!!」

街を走る。全力で走る。昼下がりの人の少ない道を、がむしゃらに走る。
麻理は何処へ行ったんだろう。あの様子だと家に帰ったのかな……
不意に立ち止まり、空を見上げるあれだけ晴れていた空が、今では薄暗くなっている。
一雨きそうだ……
と、そのとき
〜〜♪
携帯がなったこの着信音は電話だ。表示をみてみると……
『沙恵ちゃん』
「あっ!」
もう一つの心配の種であった、沙恵ちゃん本人からの電話だった。慌てて電話に出る。
「も、もしもし!?沙恵ちゃん!?」
「あーっ!やっと繋がったよ。いくらかけても電源切ってるっていわれちゃうんだもん。」
僕の心配とは裏腹に、元気な声の沙恵ちゃん。
「沙恵ちゃん!?大丈夫なの!?『いたいよ』ってメール送ってきたけど…」
「へ?いたい?……ええっと……あ、ああっ!ちょ、待った!」
そう言うと沙恵ちゃんはなにやらぶつぶつ言っている。なにをしてるんだろう。
「あ、えへへ、そのー……送るつもりは無かったけど間違えて送っちゃったみたい……
それに、文も『あ』が抜けてたし……あわわっ!じゃなくてっ!う、うん僕は大丈夫だか!」
「とにかく、大丈夫なんだね?」
「うんっ!ヘーキヘーキ。痛くなんてないよ!…ただ…」
「ただ?」
「心が…痛いかな、なんて……」
「心?」
「わーっ!なんでもないっ!あはは、今日の僕、おかしいね!……そ、それより、
麻理ちゃんどうしたの?泣いて家の中に入っていったみたいだけど。」
「え?麻理が?」
よかった。ちゃんと家に帰ったのか。
「うん……喧嘩でもしたの?今日一緒に出掛けたんでしょ?」
「うん、まぁ、そんなとこ。」
「おおー、ついに喧嘩かぁ。ま、キミ達はそれぐらいが丁度いいよ!仲が良過ぎると……
不安になっちゃうから。」
「……うん。」
「じゃ、じゃあ、ボクの誤解も解けたっていうことで、切るね。ばいばい!」
「うん、ばいばい。」
電話を切り、ホッと溜め息。麻理の無事がわかっただけでよかった……でも、今麻理に会ったら
なんて言えばいいんだろう。このままじゃダメなことはわかっている。
答えが見つからないままでは帰れないので、考えながら時間を潰して帰ろう。
そう決めると、僕は適当に街のなかをぶらついた。




六時を回った頃に家についた。その頃にはそらは真っ暗になり、雲も不気味に黒かった。
とりあえず麻理に会ったらあやまろう。そう決めて家はいる。
「ただいまー。」
……やっぱりいつものおかえりはない。怒って…るよね……
靴を脱ぎ、真っ先に麻理の部屋までいく。
コンコン
「麻理…」
ノックをし、声をかけるが、返事はない。そんなに怒ってるんだろう。
コンコン
再度ノックするが、やっぱり返事はない。仕方ない……ちょっと失礼して。
「麻理?開けるよ?」
ガチャ
断りをいれてドアを開けると……
「なっ!?」
麻理の部屋は衣服で目茶苦茶になっていた。まるで争ったような形跡……そうだ、麻理は?
どこにもいない!?もしや……
再び不安が広がり、家じゅうを探し回るが、麻理の姿はどこにも見当たらない。
「嘘だろ?……麻理、麻理!!」
いてもたってもいられず、家から飛び出た。外はいつの間にか雨が降りはじめていた。
かなりの土砂降りだ。でも、気にしていられない。麻理を探しに、再び街の方まで駆け出した…………

 

「麻理ー!麻理ー!!」
恥も外聞も無く、街中を駆け回る。周りの人がどう思おうが関係ない。今は……麻理を見つけないと…
息が上がってもペースを落とさず走った。けれども努力は虚しく、麻理はいくら経っても
見つからなかった……
「麻理……麻理…」
気付けばもう八時。あれから二時間も探したのか。絶望に包まれながら家に入ると……
「え?」
台所からいい匂いがしてきた。靴を脱ぎ捨て、台所に駆け込むと……
「あ、おにいちゃん……どうしたの?…こんな時間に、ずぶ濡れになって……きゃ!?」
自分でも無意識のうちに、麻理を抱き締めていた。
「よかった……よかった…」
「ど、どうしたの?冷たいよ……」
「心配したんだよ……家に帰ったって聞いたのに……何処にもいなくて……
部屋だってあんなに荒れてたから…」
「夕飯の買い物に行ってたのよ……って、部屋に入ったの!?」
「う、うん。」
「あーっもう!出掛ける時片付けなかったから、服散らかしっ放しだったのよ。」
そうだったんだ。よかった。
「でも……そんなに心配してくれたなら……許してあげる。今日のことは……」
「うん……そのことは、本当にごめん。麻理の気持ち、何も考えてやれなくて……
それとこれ、ありがとな。」
そう言って、さっきの時計を見せる。
「あ…う、うん…」
麻理が照れたように下を向く。なんだかこっちも照れくさい。しばらく沈黙が続いた後……
麻理がさきに口を開いた。
「あのね、おにいちゃん……」
「ん?」
「わ、私…ね。……お、おにいちゃんの……おにいちゃんの事が……す…」
フッ
と、急に目の前が真っ暗になった。
「きゃぁ!?」
不安になったのか、麻理が力強く抱き付いてくる。それを守るように、僕も麻理を抱き留める。
停電だろうか。……いや、周りの家は電気がついている。ならブレーカ?ウチのブレーカは
外にあるから一旦出ないと………
〜〜♪
その時、携帯がなった。今度はメールだ。暗闇の中、メールを見てみると……
『鬼ごっこ再会(^-^)
ターゲットは…その抱き付いてる女!……私は鬼だからね、殺すまで追いかけちゃう♪
それでは、スタート〜』
そのメールを読み終えた瞬間…
ガチャガチャガチャ…ダンダンダン!
玄関をこじ開けようとする音がした……
僕は別の意味で、目の前が真っ暗になった。


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