鬼ごっこ 第6回
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日曜日
「麻理ー!仕度できた?」
「ま、まだっ!女の子はいろいろと準備がいるから時間がかかるの!」
「はぁ。」
待つのは男の甲斐性とはよく言うけど……妹が相手じゃなぁ……あまりに遅いので
麻理の部屋のドアの前で待つ。
「ぶつぶつ……」
「ん?」
部屋の前まで来ると、麻理がなにやら呟いているのが聞こえる。なにを言ってるんだろう。
ちょっと趣味が悪いが、聞き耳をたててみる。
「うーん……これじゃあ派手すぎるかなぁ……かといってこれは地味過ぎだし……
おにいちゃんはどんなのが……」
ははは、麻理も女の子だなぁ。兄と出掛けるのにも服を選ぶのに一生懸命だなんて。
妹の成長を微笑ましく思いながら、そっと立ち去り、玄関の外に出る。
今日は絶好のお出かけ日和だ。天気予報じゃまだ残暑のせいで暑くなるって言ってたんな。
………不意に道に出て、自分の部屋を見てみる。あの位置だと何処からでも丸見えだな……
こんなことになりまで気にして無かったけど。頼むから、今日ぐらいは静かにしててくれよ。
「えへへ、お待たせー。おにいちゃん。」
「ん、ああ……」
仕度が終わった麻理が出て来たので、振り返って見てみると……
「………」
「ど、どう?じろじろ…見てるけど……」
不覚にも実妹に対してかわいいと思ってしまった。友達曰く、義理ならまだしも
血が繋がってたらタブーらしい……けど…
「うん、すごくかわいいよ。」
悩むに悩んで着てきた服は黄色いワンピースだった。シンプルだけど小柄な麻理には
とても似合っていた。それに加えた麦藁帽は、それこそ夏の少女というイメージだった。
「ほ、本当?えへへー。」
かわいいと言われて嬉しかったのか、万円の笑みを浮かべる麻理。……うん、やっぱりかわいい妹だ。
「……むー…」
そう思ったのも束の間。僕を見た途端に拗ねた顔になる。
「ど、どうしたの?」
「おにいちゃんももっとお洒落しなくちゃだめだよっ!」
「えぇ!?」
自分の服装を改めて見てみる。履きこなしてるジーパンに明るめのタンクトップ。
その上に学校の半袖Yシャツを羽織ってるだけだ。
「これで十分じゃないかな?」
「だーめ!おにいちゃんのことだからどうせ適当に手に取ったのを着ただけでしょ?」

「うっ。」
図星。だって麻理と映画見に行くだけだし……
「あーあ。デートに誘ってくれるから、期待しちゃったけど………やっぱりおにいちゃんは
おにいちゃんだね。」
「む。なんだよ、それ。」
「なんでもないよっ!ほら、早く行こ。」
また笑顔の花を咲かし、腕をぐいぐいと引っ張って行く。はぁ。女心と秋の空。
ころころと変わっていくな。
〜〜♪
「……今日ぐらいは…」
さすがに一日中なりっぱなしなんてのは勘弁なので、携帯の電源を切る。
うん、僕もリフレッシュしよう……





「この映画?」
「うん。結構友達からの評判がよかったから、見てみたいなって思って…」
麻理が選んだのは、今話題のラブストーリーの洋画だった。
「うん。この俳優さん好きだし、楽しめるかな。じゃ、早速入ろうか。」
チケットを買い、入場するここは僕がお金を出したというのは言わずもがな。
たとえ妹でも女の子だからね。
適当にジュースを買い、中にはいる。人の入り具合はそれなりだ。まだこれから混むだろう。
真ん中辺りの席を見つけ、麻理と座った。







上映中





やはりラブストーリーというだけあって、それなりにラブシーンがちりばめられているわけだ。
しかも洋画。キスシーンだけにとどまらず、ベットシーンもあるわけだ。
キスシーンだけで顔を真っ赤にしてる麻理は、もう直視できないのか、
こっちへ目をそらしてしまっている。照れているのか、かなり強く手を握ってくる。
「大丈夫?麻理。」
「う、うん……まともに見れないけど…」
それは大丈夫とは言わないぞ。
「お、おにいちゃんは……平気なの?こういうの。」
「ああ……まぁ。」
平気かどうかと言われれば恥ずかしい。とはいえ僕も男。それなりの耐性はついているので、
目をそらさず見ることぐらいはできる。
「むぅ〜……おにいちゃんのスケベ。」
「なにゆえ。」
結局それ以降、麻理はビクビク震えながら最後まで見ていた……まだ麻理には早かったかな?
映画が終わり、外へ出る。時計を見たらちょうどお昼だった。
「あそこのレストランで休もうか?おなか空かない?」
「うん、お昼にしよっか。」裏路地にはいった所に、こじゃれたレストランを見つけた。
看板には『Fan』と書いてある。このレストランの名前だろうか。なかなかいい雰囲気の店だ。
カランカラン
麻理と二人で店内に入ると……
「いらっしゃ…」
僕と同じ年ぐらいの男の声……
「申し訳ございません、お客様。本日カップルのご来店はお断りさせていただいておりますので。」
「へ?」
を、遮るように綺麗な女性が笑顔で、だけども何処か怖い顔で割り込んで来た。
「あ、いや……僕たち兄妹なんですけど……」
「え?兄妹!?あ、あははぁ…失礼しましたぁ。二名様、ご来店〜」
反転したような態度で案内され、なんだか拍子抜けな感じだ。男の人はやれやれといったかんじで
溜め息をついていた。
席に着き、メニューを見る。レストランというより喫茶店と言った感じだな。
とりあえず腹にたまりそうなものを頼むと、麻理が身を乗り出して聞いてきた。
「ね、ねえ。私達、カップルに見えるのかな?」
「うーん……若い男女って言う組み合わせなら、大抵そう見えちゃうんじゃないの?
よくわからないけど。」

「『私』と『おにいちゃん』が、カップルに見えるかどうかだよ。他の女の子じゃなくってっ!」
「え、ええと……」
「あんまりここで色恋沙汰は話さないほうがいいぜ。」
「うわっ!」
「きゃあ!?」
二人間を割るように、さっきの男性店員が飲み物をテーブルに置いた。
「あ、ワリィ。驚かせるつもりじゃなかったんだがな……それより、あいつ、
機嫌悪いからカップルだの恋だのは止めたほうがいいぜ。」
「……フられたりでもしたの?あんなに綺麗なのに…」
「まぁ、な。そんなとこ…」
「はいはいはい、お客様口説いて無いでさっさと仕事しましょぉーねぇー!」
「あだだだだっ!やめっ、ひっぱんな!ちぎれるってば!」
その女性にひっぱられ、店員さんはいってしまった。確かに……機嫌が悪そうだ。
それから一通り食事を済ませ、休んでいる時に携帯を確認してみた。
センター問い合わせ………
50件
「ぶっ!」
思わず食後のコーヒーをはきそうになった。誰からかは予測できるけど……
一応送信者だけ確認していく。
……やっぱり、登録されて無い……『あの』アドレスだった。
「…あれ…」
だが、途中に一件だけ…
『frm沙恵ちゃん』
沙恵ちゃんからのメールがあった…


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