鬼ごっこ 第4回
[bottom]

「沙恵ちゃん……」
「部活…遅かったね。こんな時間まで先輩となにしてたの?」
ゆっくりと立ちながら聞いてくる。
「なにって……部活だけど?遅くなったから送ってくって言ったんだ。」
「そう……優しいんだね、海斗は…」
うーん、そうかな?誰だって同じ事すると思うけど……
「それより、沙恵ちゃんの方こそどうしたの?部活がないのに、こんな時間まで…」
「え?あー…いやぁ……えへへ。実は急に部活が有るって事になっちゃってさ、
いままでやってて……今から帰りなんだ。」
それは…嘘だとわかった。部室からグラウンドが丸見えだからだ。今日は誰もグラウンドで
走っているのは見なかった。でも、僕は……
「そう。」
それだけしか言えなかった。僕を待っててくれたの?なんて言ってもひっぱたかれるのがオチだからね。
「あ、えっと…こっちは秋乃葉華恋先輩。…って、沙恵ちゃんは知ってたっけ?」
「うん…名前と顔だけなら。」
「先輩。この娘は、高坂沙恵ちゃん。僕の幼馴染み。」
「はじめまして……秋乃葉先輩……噂には聞いてますよ。学園のアイドルだって。」

「え、ええっと…はじめまして…高坂…沙恵ちゃん、でしたっけ?うふふ、よく部活の時に
海斗君から話を聞いてますよ。」
「えっ?」
「いや…よくって言っても一回じゃないですか……それより、沙恵ちゃんも今から帰り?」
「う、うん…そうだよ。」
「じゃあ一緒に帰ろうよ。構いませんよね、部長?」
「………」
部長は聞こえていなかったのか、返事もせず、ただ沙恵ちゃんのことをじっと見ていた。
いや、睨み付ける、といったほうが近いか。それはいつもの部長とは違う、なにか怖い雰囲気だった。
「…部長?どうかしたんですか?」
「…へ?あ、いい、いえ、いえ。大丈夫ですよ。一緒に帰りましょう。」
なんだか様子がおかしかったけど…大丈夫かな?
「ほーらっ!そうとなったら、こんな所にいないで早く帰ろうよ。ボク、お腹空いちゃったよ。」
「うわっ。ちょっと沙恵ちゃん、引っ張らないでよ!」
「ふふ…じゃあ、帰りましょうか。」
その後、部長の家が有るという自然公園に行くまでは、二人とも仲良く話していた。
さっきの変な雰囲気は気のせいだったのかな?

「それじゃあ、私はここで……」
「え?もういいんですか?家まで送っていきますよ?」
「いえ、大丈夫ですよ。すぐそこですし、商店街とは逆方面になってしまいますから。
………それに……」
「それに?」
「…いえ、なんでもありません。おやすみなさい!」
そう言い残すと、暗闇の中に走って消えてしまった。なんだったんだろうなぁ。
またさっき沙恵ちゃんのこと見てたけど……
「ねー。早く帰ろうよ。かいとーぉ。」
「あ、うん。そうだね。…ちょっと買い物してきたいんだけど、いい?」
「むぅ、しょうがないなぁ。ジュース一本!どう?」
「はいはい。わかったよ。」
それから麻理に言われたように醤油を買う。そういえばシャンプーとリンスが切れてたんだ。
買い足して……
「げ。」
いつも使っている物が売り切れだった。仕方ない、他のやつを買おう。
……髪に合うといいんだけどね。麻理とかそういうのにうるさいし。
買い物を終え、帰り道。……今日は足音がついてきてないきがする。沙恵ちゃんの足音もあるが、
それ以外は特に聞こえない。さすがに二人の時はついてこないか。
もし、ストーカーが沙恵ちゃんに手を出すようなら……なんとしても守らないと。
こうやって二人で帰るのを見ていたら、黙っているはずがない。
沙恵ちゃんにもなにかしらの被害が及ぶはずだ。
「ね、ねぇ。海斗?」
「ん、ん。なに?」
沙恵ちゃんの事を考えた時に、本人に声を掛けられて少し戸惑う。
「今日みたいに…秋乃葉先輩を送ってくってこと、多いの?」
「まさか。そんなの今日が初めてだよ。たまたま沙恵ちゃんが一緒になっただけさ。」
「たまたま、か…」
なにかつぶやいて、少し歩くと、沙恵ちゃんは急に走って前に出て、こっちを振り向く。
その顔には、いつも笑顔があった。
「いい、海斗!最近は日も短くなってすぐに暗くなっちゃうじゃない?」
「うん。」
「だからっ、このボクが変質者に襲われないよう、毎日放課後は一緒に帰ること。いいね?」
「………」
「海斗?」
「うん。なにがあっても。絶対に沙恵ちゃんだけは守ってみせるよ。」
「っ〜〜。や、やだなぁ、そんな真面目に……か、海斗はいつもみたいに照れ笑いしてればいいの!
恥ずかしいじゃんか。」

「そ、そう?あはは……でも、本当に守るからね。」
「あーっもうっ。じゃあ約束だからね。忘れちゃだめだよ。ばいばい!」
そういって、沙恵ちゃんは走って家の中に入っていった。
「ただいま〜…ぁ…」
玄関を開けると、そこには鬼のような……麻理が仁王立ちしていた。まずい。絶対に怒ってるよ…
「随分と遅いお帰りですね。お兄様?」
ほら、怒ってる。
「あはは…部活に夢中になっちゃって…ごめん…」
「それならそうと連絡してよねっ!夕飯作るのにお醤油欲しかったんだから!!」
「うわっ、ほ、本当にごめんってば。ほら、お醤油…」
それをひったくるように取ると、麻理は台所に入ってしまった。
「今からご飯作るから、先にお風呂にでもはいってて!」
「うん、わかった。」
言われたとおりに風呂場へ。こういう時の麻理には逆らえないもんなぁ……





「ふぁーぁ……」
やっぱりお風呂は気持ちいい。なんでも洗い流してくれるっていうのは本当だね。
あの新しいシャンプー、意外と髪に合うな。今度からあれ使おうかな……麻理がなんていうか
わからないけど。
「お風呂、あがったよ。」
「こっちもご飯できたわ。私は……お風呂は後でいいかな。どうせ洗い物とかあるし。」
「うん、じゃあ食べようか。」
二人で向かい合い、少し遅めの夕飯。今日は和食だ。それにしても麻理のご飯のレパートリーは
日に日に増えていくな。今度感謝の印にどこか連れてってあげよう。
「麻理。」
「え?」
「今度の日曜……」
〜〜♪
「…携帯、なってるわよ。」
「ごめん。」
折角話し掛けたのに、出鼻を挫かれた感じだ。誰からだろう………
ピッ
『今日いつものシャンプーと違うの買ったんだね。だから私も海斗君と同じやつ買って、
早速使ってみたよ。海斗君はもう使った?
うふふ、海斗君と同じ匂いのする髪の毛だっていうだけで、クラクラしちゃう♪』
……髪の毛を触り、掌の匂いを嗅いでみた…
「……どうしたの?おにいちゃん?」
「ああ…いや、なんでも……」
確かに『クラクラ』した。
「ま、麻理?」
「え?なに?さっきの続き?」
「うん……今度の日曜日、暇だったらどこか遊びに行こうか?」
ついでにいつものシャンプーも買ってこよう……


[top] [Back][list][Next: 鬼ごっこ 第5回]

鬼ごっこ 第4回 inserted by FC2 system