鬼ごっこ 第2回
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「ゴール……ふぅ、海斗、またタイムが速くなっとるぞ。」
「え、本当ですか?」
今は体育の時間。五百メートル走でのタイムをはかり、ゴールしたとたんに先生に溜め息をつかれる。
「まったく……陸上部でもなければ運動部でもない。ましてや文化部だというのに
なんでそんなに足が速いんだ……」
「あ、あはは……」
「もったいない……三学年全部合わしてもダントツで速いぞ……どうだ?陸上部に入らんか?」
「い、いえ、遠慮しますよ。」
そうか、とつぶやきながら、先生は去っていく。まさかストーカーのせいで足が速くなったなんて
自慢できるはずもなく、陸上部も当然はいらない。
「はぁ……体力もまだまだ余裕あるしな……」
五百を全力疾走してもまだ余る体力。うれしいのやら悲しいのやら。とても複雑な気持ちだ。
「はぁ、はぁ、か、海斗……おま…化け物かよ…」
クラスの友達が息絶え絶えになりながら聞いてくる。
「え……あはは、帰り道を走って帰れば、これぐらい普通じゃないかな?」
「いや…はぁ、はぁ…お前だけだと思うぜ、それは……」

「はぁ…」
体育の授業が終わり、昼休みに入った。着替えようと廊下を歩き、教室に向かって行くと……
「かーいとっ!」
バッ
「う、うわっ?なに…って、沙恵ちゃんか……」
いきなり後ろから乗っかってきたのは、同じクラスの高坂沙恵ちゃん。こっちへ来て小さい頃からの
お隣りさん……いわゆる幼馴染みというやつ。
グリグリ
「い、痛いよ!沙恵ちゃん!」
「むふふ〜。海斗ったら、また足速くなったんだって?」
「え?もう知ってるの?」
「うん、さっき先生に見せてもらったよ、記録。ほーんと、まいっちゃうよねぇ。
陸上部のボクより速いんだからさ。あの速さは性別の差以外にもなにかあるね。」
「あ、あはは……」
うーん。さすがに彼女を廊下のど真ん中で背負ってるのは……人の目が恥ずかしいかな?
「ま、私には、この豊かな胸が重いからねー。」
「うわっぷ!」
その豊かな胸とやらをさらに押しつけてくる。豊かな、とはいえ他の女の子とあまり変わらない
気もするけど……それは言わないのが優しさかな。
「うぅ……胸……当たってて苦しいよ……沙恵ちゃん…」

「ボソ…当たってるんじゃなくて当ててるのに……」
「え?なに?」
「なんでもないよーっだ。それよりボク、お腹空いちゃったよ。」
「うん、じゃあまた屋上でまってて。」
「うんっ。」
背中からおりた沙恵ちゃんをみると、自称チャームポイントである髪を留めているリボンが、
いつもと違っていた。
「あ、リボン、変えた?」
「え?…う、うん。」
「へぇ、似合ってる。かわいいよ。」
「っ〜〜〜!」
そう言って髪を撫でるとなぜか沙恵ちゃんは真っ赤になって黙ってしまった。
「?…どうしたの?」
「こ、こいつは〜……そうやって無意識にそんなこと言えちゃうから〜…もてちゃうのよ〜。」
「え?なに?」
「な、なんでもないっ!いちいち独り言を追及するなー!」
そう言い残して、走って去ってしまった。
「……な、なにか気に触るようなこと言っちゃったかな?……」
でも本当に似合ってたんだもんな。
〜〜♪
「ん……」
ピッ
『私にも、リボンが似合ってるって頭撫でてくれる?あの女より似合ってるって言ってくれるよね?
海斗君?(^〇^)/』

「お兄ちゃん。」
「あ、麻理。」
中庭で待っていると、いつものようにお弁当を作ってくれている麻理が、弁当箱を届けに来てくれた。
「ありがとう、麻理。いつも悪いね、作らせちゃって。」
そう言って頭を撫でる。どうやら僕のこの癖は、昔から麻理にやっているかららしい。
なにかをしてもらってうれしいと、ついつい頭を撫でてしまう。
「うぅ…べ、別に、お兄ちゃんのために作ったっていう訳じゃないんだからねっ。
私のお弁当の余り物よ!」
「うん、それでもうれしいな。麻理が作ってくれるんだから。」
「あぁ〜うぅ〜……えと、お、お兄ちゃん?」
「なんだい?」
「そ、その……一緒にお昼…た、たべ、ない?」
あちゃ〜。いきなりっていうのはマズいなぁ。
「えと、ごめん。沙恵ちゃんと約束しちゃってて……」
「え?……そ、そう、なんだ……」
「うん、だからまた今度。それでいいかい?」
「い、いいわよ!別にどうしても一緒に食べたいっていうんじゃないんだからっ。
ほら、沙恵さんが待ってるんでしょ?早く行けば?」
急に怒ったように行ってしまう麻理。
「うーん。女の子って難しいなぁ。」

「某女子生徒は見た。」
「…ど、どうしたの?いきなり……」
屋上の金網にしがみついたままの沙恵ちゃん。
「海斗君は誰彼構わず頭を撫でる男の子でした。私だけの特別な行為じゃありませんでした。」
「……ああ、屋上から中庭、丸見えだもんね。あはは…恥ずかしいなぁ。
別に、シスコンっていうわけじゃぁ…」
「海斗はお鈍さんだからわかってないだろうけど、麻理ちゃんは重度のブラコンよ。」
「えー…それはないと思うなぁ。だって自分で作った残り物だって言ったし…」
「その端から端まで全部手作りのお弁当がっ、手抜きに見える?ボクの冷凍物とは雲泥の差だよ?」
「うーん…でも、麻理が言ったんだから、きっと本当だよ。」
「あー!もう、この馬鹿兄貴わぁっ!」
「お、怒らないでよ。仲が悪いよりマシじゃないかよ。」
「仲が良過ぎるの。キミ達二人の場合は。ま、血が繋がってるぶん、向こうは不利だよねー。
本人は唐変木だし、このままいけばボクが一番優勢かな?」
…また沙恵ちゃんがわからない事を言い始めたなぁ。
〜〜♪
『あははは、何言ってるんだろうね。私と海斗君との間に割り込める隙間なんて、これっぽっちも
無いのに。妄想女って空しいね┐('〜`;)┌』


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