鬼ごっこ 第1回
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それは小さい頃の、たった一日の思い出。
『一緒に遊ぼうよ。鬼ごっこ。きっと楽しいよ。』
友達がいなくて、本ばっかり読んでいた私を、あの人は誘ってくれた。
『鬼ごっこ?』
『うん!』
それから日が暮れるまで、二人っきりの鬼ごっこ。私が鬼のまま、彼を捕まえられなかった。
でも、彼の背中を追うのは楽しかった。そんな楽しい時間……永遠に続くと思ったのに。
『ごめん……もう行かなくちゃ。』
『え?…だって鬼ごっこ……』
『今日、引っ越しちゃうんだ。だから、もうお終い。』
両親に連れられていってしまう彼。これで終わりにしたくない。そう思った私は……
『名前……あなたの名前は!?』
そして彼は笑顔で……でも、泣き崩れた顔で……
『…海斗……水瀬海斗だよ!』
『水瀬……海斗君……』
彼の名前を、笑顔を永遠に。これが私の最初で最後の恋、けっして逃がさない。
まだ鬼ごっこは終わってない。まだ私は鬼のまま。だから、ね?
私は追い続けるよ?あなたが逃げるのなら、追いつくまで……その背中を……追い続けるから……
カンタンニツカマラナイデネ?

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ…」
夜の街。誰もいない通りを駆けていく。いるのは僕だけ……
タッタッタッタッ
タッタッタッタッ
訂正。僕ともう一人。どれだけ逃げても隠れても、確実にその足音は追ってくる。
毎晩毎晩、学校の帰りに追ってくる。
タッタッタッタッ!
タッタッタッタッ!
「はぁっ、はぁっ、こなくそっ!」
立ち止まって振り返っても、姿は見えない。自分の足音が消えるとともに、
もう一つの足音も消える。ゆっくり歩き出す。それと同時に、また足音が増える。
タッタッタッタッ!!!
タッタッタッタッ!!!
スピードに緩急をつけてみても、その足音は正確に追い続ける。距離は開かず、されど縮まらず。
常に一定の距離を保つ。
「ふふふ……あはははは……」
時折漏れる女の声。追いかけてくるのが女なのだろう。女の子に追いかけられるのは
うれしいことだけど………相手がストーカーだなんて勘弁だ!
バタン!
「はぁ、はぁ……た、ただいま…」
無事に家にたどり着く。
「おかえり……って、また走って来たの?」
迎えてくれるのは、唯一の家族である妹。その顔をみて安心する。

「う、うん。まあね。」
「はぁ、体力づくりだかなんだか知らないけど、恥ずかしいから近所の人に見られないでよね。」
「うん、わかってるよ。注意する。」
それだけを言い残して二階に上がる妹。まだストーカーのことははなしてないから、
こうやって誤魔化してる。
靴を脱ぎ、僕も二階へ上がろうとするが、なにか嫌な視線を感じ、振り返ると……
カラン
「?」
なにか郵便受けが揺れたみたいだけど……気のせい…だよね?
自分の部屋に入り、ベットに寝転ぶ。本当に怖いのはこれからだ……
〜〜♪
着メロが鳴る。手に取って見てみると……
『おかえりなさい、』
と、短い文。相手はわからない、登録されて無い携帯。でも……誰が送ってきたのかわかる。
〜〜♪
『ご飯はちゃんと食べた?』
『シャワーは浴びた?』
『宿題は終わらせた?』
『妹さんと一緒にいちゃだめだよ?』
『まだ起きてる?』
『まだ起きてる?』
『まだ起きてる?』
『眠れないの?』

何日も続いているけど、やっぱり怖い。だけど……相談できない……
部屋の電気を消し、布団にくるまる。そして……いつものように、最後のメール。
『おやすみなさい、海斗君。明日も私が鬼だね。』


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