ハーフ&ハーフ 第1回
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季節は春。出会いと別れが溢れる、良くも悪くも変化に富んだ季節です。
しかし変化が必ずしもいい事とは限りません。もしかしたら変わってしまう
ことで不幸になってしまうこともこの世には腐るほどあります。
そしてそれはこの女の子にも当てはまります。

但し、不幸なことに彼女の場合はそれが普通ではなかったことだった

「プロローグ」

 

「みなさん、今日は転校生を紹介します。なんと可愛い女子ですよ?男性生徒は喜びなさい。」

クラス担任の先生から転校生の紹介、しかも可愛い女生徒となれば喜ばないにしても
少しは気になるっていうのが男子生徒ってもんです。
案の定男子生徒の中には「やったーー!!」や「ヒューヒュー!!」
と騒ぎ始めた生徒もいるようだ。

「はいはい静かに!それでは紹介しましょう!入ってらっしゃい!」

静かに引き戸から入ってきた女性生徒は……はっきり言えば普通であった。

ちょっと肩に掛かるくらいのセミロングの髪
女子としては平均的な身長に体形
人懐っこそうな目に、普通に収まっている鼻に口……

どこをどうとっても普通の女の子であった。
名前と性格以外は……
女の子は黒板の前まで歩き、チョークで名前を書いた。

「半 文子」

「え〜、こほん。私の名は「はんふみこ」です。決して、決して
「はんぶんこ」では無いです!!「はんぶんこ」と呼んだ奴は殺します。それじゃ、よろしく!!」

「はんぶんこだって?あはははははは、面白いなごぶっ」

一人の男子生徒が言い終わる前に文子はダッシュで飛び膝蹴りを顔面に食らわせていた。

「私の話……というか忠告聞かなかった?「はんぶんこと呼んだら殺すから」って。
次は無いわよ……判った?」

クラスにいた全員が顔面が陥没した男子生徒を踏み付ける文子を見て、深く肝に命じた。

一ヵ月後

「文ちゃーん、今度のバレーボールに助っ人に来てー!!」
「あ!文ーー!!頼む!!100M競争出てくれ!!」
「おーい、半分………ごふっ、な、なんだよ冗談、いたたたほ、骨折れる!!」

禁句さえ言わなければその他は明るくてスポーツ万能の文子はクラスに溶け込み、
クラブの助っ人や男女関係なく遊んだりとすっかり学校に馴れ始めた。
そんな新しい学校生活が始まって二ヶ月後、事件は起きた。
なんと文子に彼氏が出来たのだ!!
お相手は隣のクラスの佐々木博史という男子生徒だった。
既に学校ではスポーツ万能で有名だった文子に彼氏が出来たことに学校中が大騒ぎになり、
校内新聞に載るほどだった。

出会いは今から二週間前に遡る……

学校の近くにある商店街を文子はのんびりと歩いていた。

うん、この街は中々良いわね。あんのクソオヤジの転勤話を聞いた時は
「1人で単身赴任しろボケ!!カス!!」って言ったけどいざ来てみると
学校も意外に早く打ち解けたし交通や買い物も便利で気に入ったわ。
何しろ全部が家から歩いて10分以内なんだもん。
ここまで好条件が揃えば気に入らないわけないわ。家が前より狭くなったのは我慢我慢っと。

のんびりと散歩がてら買い物をしていたら、何やら人だかりが出来ていた。

ん?商店街のど真ん中で何だか騒動でもあったのかしら。ちっ、通行の邪魔ね。

野次馬を掻き分けて騒ぎの元を見てみると、いかにも不良と言わんばかりの
ゴロツキ5人がなんだかひ弱そうな男を取り囲んでいた。

「てめえ!!もういっぺん言ってみろ!!」
「で、ですから道の真ん中で座り込んで話をするのは通行の邪魔です、と言ったんです」
「へん!いい度胸だな!!」

多勢に無勢というのか、ひ弱な男はゴロツキ5人にフクロ叩きにされてしまった。

あーあ、弱いものなんかいぢめちゃって。ま、私にゃ関係ないか

「あーすいません、通りますよー」

申し訳なさそうに横を通りすぎようとした文子。
しかしゴロツキの一人と目が合ってしまい

「あん?なんだお前!!邪魔するのか、チビが!!」



「大丈夫?立てる?」
「あ、はい。大丈夫です。助けてくれてありがとう。」
「あー、うん、まあ……そういうことにしとくか」

文子の足元にはさっきまでイキがっていたゴロツキ5人がモザイクを掛けなきゃ見れないほど
「人」として原型を留めていなかった。

「あ、俺の名前は佐々木博史っていうんだけど、君の名前は?」
「あ!え、え、名前?あ、あー、半文子っていうけど……」
「へー、文子ちゃんか。古風で良い名前だね」
「え!良い名前?良い名前……」

今まで名前のことでバカにされたことは数多あったけど、「良い名前だね」と
言われたのは初めてだわ。
ちょっと嬉しい……かも

文子がぼーっとしていた時、不良の一人が立ち上がり、近くにあった木の棒を
振り上げて文子に襲ってきた!

「死ねーー!!」
「あ!危ない!!」

文子の頭に当たる直前、健史が文子を突き飛ばして身を挺して庇った!!

「ぐっ!!」

健史はまともに木の棒を背中に受けて、倒れこんだ。

「おーおー、女を庇うたぁお優しいこって。それじゃあお前から先に……!!!」

殺気を感じて振り返ったその時、不良は見た。文子から立ち昇る怒りの赤オーラを。

「な、何だお前。やるってのか?……う、う、うわーー!!」


「ちょっと、怪我とかない?大丈夫?」

向かって来た不良を壁にめり込ませて文子は助けてくれた健史に駆け寄った。

「ちょっと背中が痛いけど、何とか。けど助けたつもりがまた助けられちゃったな」

ちょっと恥ずかしいのか健史は、はにかんだ笑顔をしていた。

ドクン

「殿!城攻めの準備が整いました!!」
「うむ。あの難攻不落の城、落としてみせる!!城攻め開始!!」

自分でも動悸が激しくなったのが判った。
あれ?おかしいわね。この助けたモヤシ男の笑顔を見ていたら何か……心臓が熱いな。
たぶん疲れているのね。うんそうだわ。ここんところ色々あったから。

この場は適当に話を切り上げ、文子は逃げるように走っていった。

しかし次の日

「あ!やっと見つけた。文子ちゃーん!」
「ん?……あ、あんたは!ど、ど、ど、どうしたのよ。な、な、な、何か用?」

いきなり教室に現れた佐々木博史に文子は冷静を装っていたが、動揺してしまい、
どもってしまった。

「うん、お昼でも一緒に食べようと思って。どお?屋上で」
「お、お、お、屋上!い、い、いいわ。行きましょ」

な、何で急に来るかなこの男は。まあいいわ。こいつのことをもう少し知っておくのも悪くないわ。
べ、別に嬉しくないんだから。本当なんだから!

必死に自分自身に言い訳しつつ、顔が真っ赤になっていた文子は、博史の後に付いて屋上に行った。

「殿!内堀も埋め終わりました!本丸に切り込みましょう!」
「うむ。ついにこの時が来たか……。皆の者行くぞ!!」

「え!佐々木くんってそんなに頭良いの?」
「博史でいいよ。……そんなことないよ。今の成績なら何とかなるし、
金銭的にも国公立の方が安いしね」

文子の脳みそには

国公立の大学=天才

とインプットされているので、そこを受験するということは少なくとも自分よりも
遥かに頭が良いってことは分かった。

私なんて真っ赤っ赤かか、よくてギリギリだもんな……

「文子ちゃんは進学するの?」
「文子でいいわよ。……そうね。どうせ私の学力じゃ大学は無理だし……はなから諦めてるわよ。」

何?もしかして自分の頭が良いのを自慢してんの?えーえーそうですよ!
あんたは大学を受験できるぐらい頭が良いんでしょうけど、私なんか頑張ったって
せいぜい専門学校止まりよ!そうやって頭悪い人間馬鹿にして楽しい?

文子は我慢出来なくなって文句の一つでも言ってやろうと博史の目を見た。
しかし、その目に映っていたのは蔑視や嘲笑ではなく、ただただ自己卑下していた自分の姿だった。

あれ?え?え?何で?何でよ!頭の悪い私を馬鹿にしてんでしょ?違うっていうの?
そんな目で見ないでよ……自分自身が馬鹿みたいじゃない……

「そんなに自分を卑下しない方がいいよ。人にはそれぞれ向き不向きがあるんだから。
例えばいくら頭が良くても昨日みたいに不良に絡まれても何の対処も出来ずに
やられっぱなしだった自分とそれを助けてくれた文子ちゃん……もとい文子。
果たしてどちらが人として上か下か分かる?」
「え?そ、それは……うーん……」

急にそんな哲学的なこと言われても……分からないわよ

博史は食べていたパンの袋などのゴミを片付けて、立ち上がった。

「たぶん急に言われても分からないかもしれないけど、人の価値を一面だけで
判断しちゃ駄目ってこと。その人全部を見てからでも遅くないよ」

全てを悟っているかのような口振りで、博史は屋上を後にした。

人の価値……考えたことなかったわ。

それから博史はことあるごとに文子の教室へやってきた。
帰宅時、昼休み……
最初こそ文子はめんどくさそうにしていたが、いつのまにか博史のことばかり
考えてしまう自分がいた。しまいには

放課後のひとコマ 教室にて
「博史、今日は来るの遅かったわね。どうしたの?」
「ごめんごめん。ちょっと数学で分からないことがあったから先生に教えてもらってたんだ」
「そう……」

文子は眉間にシワを寄せて、明らかに機嫌がわるそうだった。

「それなら許してあげる。じゃ、帰りましょ」

文子はそう言って博史の手を握り、顔を真っ赤にして帰っていった。

こんな生活を暫く続けていたある日、運命の日はやってきた。
この日、放課後に屋上に呼び出された文子は博史の姿を見てにやける顔を必死に押さえつつ、
近づいていった。

「どうしたの?急に呼び出したりして。」
「うん、どうしても話したいことがあるんだ」

何か変な雰囲気ね。緊迫した空気……そんな感じだわ。それにしても今更話なんて
あるのかしら。大体のことは話尽くしているような……。!ま、まさか!!

「うだうだ考えていてもしょうがない!文子!俺の彼女になってくれ!!」
「!!!!!!!」

あーびっくりした。話しってそれか。答えなんてもう決まっているわ。今更考えるまでもない。
もう少し遅かったら私から告白していたわね。でも博史に出会ったおかげで初めて分かったわ。
この燃えるような心………そう、これが……恋。初めて会った時に生まれた心……

「殿!見て下さい!!本丸が燃えております!!」
「難攻不落と言われた城が遂に落ちたか……」

「うん……うん!彼女になってあげるわ!特別だよ!感謝しなさいよ!!」

目に涙を溜め、精一杯強がっているが、顔から滲み出る嬉しさと手足の震えは隠しようがなかった。

そんな青臭いラブラブワールドを展開していた二人だったが、反対側の校舎の屋上にいる
人物の怒りの視線には気が付かなかった。

そしてこの時、学校の近くの公園で事件が起きた。本来なら文子には全く関わりが無いし、
知ることも無かったはずだったが、この事件の波紋は意外な形で文子に降り掛かるのであった……


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