作られた命 第6回
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闇に包まれた空間。
僅かに聞こえてくる呼吸の音が部屋の静寂を際立たせる。
その中央に糸のように弱々しい光が差し込むと同時に。
パチッ
軽い火花の弾ける音に合わせ、
暗闇の部屋は嘘のように姿を消し、明かりに満ち溢れた。

「あはっ!」
…いけない。思わず笑ってしまった。
あまりにも調子良く進んでいく研究に呆気なさすら感じる。
私に与えられた使命、新エネルギーの開発。
手強かったら嫌だなとは思ったがやってみるとサクサク進む。
まず目につけたのが従来の太陽電池だ。

太陽光。ほぼ無限に降り注ぐ光を電気に変える。
まさに理想的だが今まではその変換効率とコスト。
この二つが乗り越えられなかったらしい。
しかし私は今その一つを乗り越えた。
今の実験からするとこの太陽電池は
夜の月明かりでですら発電出来るんじゃないかと思う。
この成果を郷護に話したら褒めてくれるだろうか。
私の頭をよくやったと撫でてくれるだろうか。
うん。
郷護なら褒めてくれる。それは、確実だろう。
いや、それにとどまらずだ。
こう…強く抱きしめてもらっちゃったりなんかしちゃったりして…
そのままの勢いで…

感動の再会に抱きしめ合う男女。
男の存在を全身で感じた女はふと顔を上げる。
そこにははにかんだような男の表情。
しばし見つめあい、やがて、どちらからともなく顔が近づく。
ファーストキスだ。
それは、時間にすれば数秒。
軽い、唇を合わせるだけのキス。
それでも二人には充分だ。
互いの気持ちを言葉にするまでもない。
合わせた唇から相手の感情が全て流れ込んできたから。
再び見つめあい、軽く微笑みあう。
また、唇をあわせる。
今度は深く相手を貧りあうキスだ。
先程のファーストキスが嘘かのようにお互いを激しく求めあう

ピピピピッ…ピピピピッ

……………………
少しうるさめの電子音に私は我に帰った。
なんだ。これからがいいところだったのに。
せっかくの郷護との再会シミュレーションを邪魔されて
少し不機嫌になりつつ私は時計に目をやった。

午後十一時

一気に思考が切り替わる。こうしてはいられない。
急ぎパソコンの電源をいれキーボードを叩く。
目的はとある人工衛生の管理システムのハッキングだ。
手早くシステム内に侵入し焦点をある家のテラスに合わせ、
一気にズームアップ。
衛生のカメラで撮られた映像が画面に送られてくる。

いた。郷護だ。
いつもどうりの時間にいつもの場所で本を読んでいる。
何故外にでて本を読むのかはわからないが
そのおかげで私はこうして郷護を見ることができる。
郷護のこの癖を発見したのは一ヶ月くらい前。
それまでは安定して郷護を見れなかった。
そのため精神的に辛いものがあったが
今ではこの就寝前の郷護観察に大分助けられている。

ふと郷護が顔をあげた。
家の中を驚いたような表情で見た数秒後、
テラスに何かが飛び出してきた。
そのまま郷護の腕に絡み付く。
突然の乱入者に目をこらすとそいつは……………女だ。

………………………………………………………………
………………………………………………………………
何がなんだかわからない。
お前は……誰だ。
なぜ…郷護の隣にいる。
そこで何をしている。

どす黒い感情が溢れ出してくる。
殺意にも似た言いようのない怒りが込み上げる。
なんなんだ?その顔は?
「あぁ…幸せぇ。」とでも言いたげなその顔は?
喧嘩を売っているとしか思えない。

女が顔をあげた。
郷護の首に両手をまわし、顔を近づけそのまま………キス…を…………
そうか……コイツ、自殺願望があるんだ…

「なら、手伝ってあげる。」

ガシャン

私はおもむろににパソコンを突き飛ばす。
机から落ちたパソコンに向かってキーボードを振り下ろす。

ガシャン! ガシャン! ガシャン! ガシャン! ガシャン! ガシャン! ガシャン!
ガン! ガン! ガン! ガン! ガン! ガン! ガン! ガン! ガン! ガン! ガン! ガン!
ガン! ガン! ガン! ガン! ガン! ガン! ガン! ガン! ガン! ガン! ガン! ガン!

まだ足りない、まだ足りない、まだ足りない
ディスプレイが砕け、火花を撒き散らそうとも叩き続ける。
殺してやる、あの女、郷護を、汚した、私の、光を、汚した。


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