作られた命 第5回
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パソコンの画面越しの郷護を見ながら私は物思いにふける。

郷護と名乗る男と初めてあってから、だいぶ月日が経った。
始めのほうこそ疑いをもってかかったものだが今なら信じられる。
あの男、郷護なら信頼出来ると体全身が納得している。
止めろと言うのにしつこく雪奈と呼んでくることも許せる。
他の相手ではそうはいかないだろう。
仮にいつも聞こえていた天井からの声から呼ばれたら?
うん。
きっと私は不愉快になる。
怒りの感情を持つことは避けられないと予想する。
郷護の言葉には表現できない暖かみを感じる。

郷護のおかげで表情から感情を読めるようにもなった。
郷護は私に嘘をつかない。
だから私は前に郷護に尋ねてみた。
「私はヒトなのか?」
そしたら郷護は困った顔をして答えた。
「本当のことを言えば、たぶん雪奈は傷付く。それでも?」
「知りたい。」
「…雪奈は人だよ。でも普通の人じゃない。」
そして郷護は色々なことを教えてくれた。
私は遺伝子操作から生まれたこと、私が作られた目的、
私を生み出したのは郷護だったこと。
郷護はとても辛そうな顔で謝ってきた。私を犠牲にしてしまったと。
しかし私は特に腹をたてることはなかった。

私は自分の境遇を呪ったことなど一度も無いからだ。
逆にだ。例え今は罪悪感を持っているにしても、
郷護が私を必要とし、己の力を出し切って私を生み出した、
という事実が嬉しかった。でも、郷護は辛そうにしている。
だから私は伝えた。
郷護が私を作ってくれて、私に会いに来てくれてよかったと。
郷護は一瞬驚いて、微笑をうかべ、ありがとうと頭をさげた。
やはり郷護はいい奴だ。
その日はそれで郷護は帰っていったが
私は郷護ともっと一緒にいたいと思い始めていた。
郷護が私の人生に光を与えてくれる。そう、思い始めた。

郷護への思いが変わって以来、
日に日に郷護のことを考える時間が増えた。
郷護が会いに来てくれるのを待ち望むようになった。
ずっと郷護といたいと願った。
しかし、私には義務がある。
世界が望む成果をあげなければならない。
その為の研究に入るとき、郷護は側にいない。
エネルギーに関しては郷護は専門外だからだ。
そのことを聞いて、私は泣きそうになった。
絶望を感じ、わめきそうになった。
それでも郷護の目の前では泣きたくなかった私は
一つの約束をすることで自我を保った。

その約束とは、
私が新エネルギーを開発し、私の役目を終えたら郷護と一緒に暮らす。
そんなことだ。
拒否されることを怖がる間もなく私の提案に了解してくれたのが嬉しかった。

その約束から数日後、私はスーツ姿の人間達に連れていかれた。
遂に新しい研究所に行くんだ。
郷護に会えなくなるのは、身を引き裂かれる程辛いが、
郷護と暮らす。
その輝かしい未来の為に今は死ぬ気で頑張ろう。
そう誓うことで気を紛らわした。


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