RedPepper 第6回
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何となく、落ち着かない。
花梨から相談を受けて、三日たった。
そろそろ、度胸を決めて告白する頃だろうか。

…帰り際の、花梨の無理したような、どこか陰のある笑顔を思い出す。
あの日、俺は結局「応援する」「自信を持て」としか言うことができなかった。
もっと何か言ってやることができれば…

いや、今さら考えてもしょうがない。今は待つだけだ。

何か動きがあれば、すぐに伝わってくる。何せここは情報の集積地にして発信地、新聞部だ。
まあ俺は単に文を書きたくて入部したのだが…うちに文芸部が無かったことに感謝しないとな。

 

と、扉が勢いよく開き、間髪いれずにいつもの声が聞こえた。
「ねえねえ聞いた!?ついにあの吉備光が告白されたらしいわよしかも二人に!……って
あれ名波だけ?」

来た! 学校一の情報通、四ツ川麻だ。はやる気持ちを抑えて口を開く。

「まあ、会議には時間が早いからな。…で、吉備光が告白されたって?しかも…」

ん?

今、四ツ川はなんていった?

…「しかも二人に」?

二人?

 

二人!?

 

「二人だと!?どういうことだ!!!」
「えっ?ちょ待ってよ名波どうしたのよ!?」

俺は思わず四ツ川に詰め寄ってしまった。

落ち着け、落ち着け。四ツ川を問い詰めてどうする。
額に手を当て、目を閉じ呼吸を落ち着かせる。

四ツ川は機関銃のように喋るやつだが、決して口が軽いわけではない。
味方につけろ。こういう時にこいつ程役に立つやつはいない。

…よし、落ち着いた。四ツ川の目を正面から見つめる。
「すまん、悪かった。続きを聞かせてくれないか?」
「え〜どーしよっかな〜。なんか急に惜しくなちゃったな〜久々の特ダネだしな〜」
どうしよっかな〜と言いながら、四ツ川は思わせぶりなポーズをとった。
流石だな。俺から何か引き出せると踏んだか。
…ってあれじゃ分かるよな、普通。

「告白したうちの一人は佐藤花梨、だろ?」
「あら副編にしては耳が早いわね珍しい」
「…俺の幼馴染だからな。」
「えっうそマジ!あの佐藤花梨と全然気付かなかったっていうかホント!」

 

「なぁ〜〜るほど!長年の思いを秘めた幼馴染としては恋敵の吉備光が気になるわけね?」
「まて、俺は花梨を応援してやりたいんだと確かに言ったはずだが。」
「まっかせなさい!この私が我が校彼氏にしたいランキングダントツ一位
吉備光の泣き所を必ずゲットして見せるわ!」
「いや、俺が知りたいのはどちらかと言えば花梨のライバルについての情報なんだが。」
「いや〜女っ気ゼロで評判の名波和三副編集長がこんなに嫉妬心に燃えるなんて
あ〜もぅ今から楽しみ!」
「…わざとだろお前。」
四ツ川は眼鏡をクイクイさせて上機嫌のようだ。よし、これらなら情報を引き出せるだろう。

 

…四ツ川によれば、昨日の放課後、花梨が吉備光を学校の屋上に呼び出したらしい。
だが、そこにもう一人…氷室蔓が現れて、花梨より先に告白してしまったという。
続いて花梨も告白したが、二人の告白を受けた吉備光は、なんと返事を保留にしたらしい。

なんとも判断に困る話だ。

氷室蔓は美術部のマドンナとして有名な女の子で、彼女目当ての男子のおかげで
美術部は廃部を免れたという話だ。
おまけに四ツ川によれば、入学当初から吉備光とは登下校と昼食を共にする、
親密な仲だったという。
つまり、強敵だ。
そんな相手に告白の返事を保留させたのだから、花梨にもチャンスはあると考えたいのだが…

「全く吉備光ってヘタレてるわよね〜男ならビシッとその場で答えを出せばいいのにそう思わない?」

そう、それだ。吉備光がヘタレだった場合が問題だ。

その場合、おそらくズルズルと三角関係を続けた後、
吉備光は最終的に氷室蔓に転ぶことになるだろう。
一年間も一緒に居たという関係は、相当強いもののはずだからだ。
…そう、異性を意識しない、幼馴染との関係とは違って。

とにかく、吉備光が花梨の事をどう思っているかが問題だ。
花梨の方も、吉備光と同じバドミントン部で"妖精"として有名な女の子だ。
ファンも多いと聞いている。
気になるのは、花梨の告白はバドミントン部の誰にとっても意外なことであった、という点だ。
つまり花梨と吉備光には、少なくとも目に見えるような接点が無かったことになる。
…まずい。花梨は圧倒的に分が悪い。よほど積極的にアピールしない限りは無理だろう。
何で俺はあの時もっと花梨から詳しく聞いておかなかったんだ。聞いておけば…

いや、これは花梨の選んだことだ。俺が口を出すことじゃない。
だが、黙って見ているわけにもいかない。花梨に何かしてやりたい。

…そうだ、まだ聞いてないことがある。
「今日は何か動きがあったのか?」
すると、四ツ川は待ってましたと言わんばかりにピクピクと鼻をうごめかせた。
「聞きたい?聞きたい?それはね」

と、ガチャリと音がして扉が開き、部員の一人が入ってきた。

「あもうこんな時間あのさ〜私と名波はちょっと取材に行ってくるから編集長に言っといて」
四ツ川は俺を手招きして外へスタスタ歩いていった。俺もあわてて後を追う。
「会議やってたらあの三人の下校に間に合わなくなっちゃうかもしれないからね〜」
四ツ川は早足で歩きながら、嬉しそうに三人の今日の動きについて口を開いた。


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